第五ウェーブ? ボス狩り? それとも、続き?
第四ウェーブが終わる。
戦闘中では【ピアススラスト】を様々な角度で試した。
結果――斬撃は扱えなかった。
突きの動作でしか発動しない。
できるはずだと期待した。
スラッシュでも突けると意識した。
スキルは柔軟だと思い込んだ。
だが駄目だった。
スラストで斬撃はできない。
仕方ない。
そういうものだと理解した。
仕様なのだ。
そう納得するほかない。
あと残る検証は……ヒットポイントに対する効果だ。
トウコの【ピアスショット】では防護膜を貫きやすくなる。
おそらく似た効果があると期待している。
冷蔵庫ダンジョンのボスである料理人ゾンビで試すか?
奴ならヒットポイントを持っているが……。
トウコが銃に弾を込めながら俺を見る。
「店長。五ウェーブはどうするんスか?
いつも通りボスを倒して抜けるっスか?」
「そうだな……。
さっきのような事故もある。
敵が多くてスキルも試しにくい。
脱出しよう」
五ウェーブまでいくと敵が多くなる。
最初の攻略では突破が絶望的だったが……。
槍を持たせた分身やバリケードを設置すれば攻略できる。
何度かそうしてクリアしたこともある。
今回は【片手剣】をメインにするために分身は使っていない。
「んー。あたしは六ウェーブもイケると思うっス!
店長。どうスか?」
今ならどうだろう。
レベルも上がったし、三人とも強くなった。
装備もあるし、選べる手段も増えた。
【水忍法】を使えば比較的楽に突破できそうだ。
しかし過信はすまい。
油断はすまい。
俺たちはまだ、六ウェーブへ進んだことがないのだ。
五ウェーブを突破すると、
六ウェーブがはじまる前にも転送門が出る。
ここで脱出するので、その先は見ていない。
間引きのときは、ボスを狩って脱出している。
どちらにせよ、六ウェーブ以降へ進む気はない。
危険だからだ。
五ウェーブ時点でも何度も死んでいるからな。
先へ進むのはリスクしかない。
なにしろ、このダンジョンでは特殊な敵が出る場合がある。
窓際や屋敷の外など、霧が濃い場所に行くと現れる。
これはおそらく霧のせいだ。
今回はエントランスホールにいたから影響はなかった。
なにかを考えると関連した敵が現れるのだ。
想像や恐怖が具現化するとでもいうか。
この敵の強さはウェーブと関係がない。
トウコの場合、それほど害のないものだった。
俺の場合は壁を這う窓女が現れた。
こいつは強敵だ。
とはいえ倒せないほどではない。
リンの場合は巨大な窓女だ。
巨大な、強敵だ。
とんでもなく強い。
巨大窓女が現れたとき、トウコが死んだ。
トウコはゾンビの職業を持っている。
死んだからと言ってタダでは終わらない。
【復活】して【狂化】した。
そうして理性の消えたトウコと巨大窓女の戦いが始まった。
怪獣大戦争状態になったのだ。
トウコは死んでもダンジョンの外に排出されず、中で復活してしまう。
死んで復活の繰り返しだ。
そんな状態で六ウェーブがはじまったらどうなるか?
もしかすると二度と抜け出せないかもしれない。
ここには、そのリスクに見合うだけの旨味はない。
まず、アイテムが持ち出せない。
外に出ると、入ったときと同じ状態に戻るからだ。
宝石や服飾品を持っていても消えてしまう。
敵から入手しても、置いてあるものを集めても意味がない。
結局持ち出せないのだから徒労に終わる。
ダンジョン外と時間の流れが違うので、経験値稼ぎには使える。
今回のように検証するのも悪くない。
しかし、精神的な疲労が重いので何度も潜る気は起らない。
というわけで結論。
冷蔵庫ダンジョンの攻略は最低限にする。
先へ進もうというトウコの提案に、俺は首を横に振る。
「いや、今回も先へは進まない。
試しに進むには、このダンジョンは危険すぎる」




