ゾンビと不運とリカバリー!
「店長っ!?」
「ゼンジさん!?」
朦朧とする意識に二人の声が届いた。
そこには濃い心配がにじんでいる。
寝ている場合じゃない。
しっかりしろ!
俺はなんとか声を絞り出す。
だがその声は意図したよりも弱弱しく響いた。
「だ、大丈夫だ……!」
頭がずきずきと痛む。
視界がぼやけて、めまいがする。
今、俺は立っているのか?
立っているはずだ。
だが足がふらついて力が入らない。
息を吸え。
呼吸を整えるんだ。
焦ったような声。
これは……トウコの声だ。
「大丈夫じゃないっス!
ポーションっ!
すぐに治療っス!」
続いて震えた声が聞こえる。
リンの声だろう。
「こ、こっちですよー!
私のほうが……お、おいしそうですよー!?」
続いてゾンビのうめき声や威嚇音が聞こえる。
俺は頭を振って意識をしっかりさせる。
うっ……!
俺は顔をしかめる。
痛い!
頭を振るとひどく痛む。
痛みのもとへ手をやると、べっとりと生暖かい感触。
血だ……。
負傷したのか。
爆発のせいか?
巻き込まれるはずのない距離を取っていたのに……。
爆風の殺傷圏内からは外れていた。
だが、吹き飛ばされた何かが飛んできたのだ。
運悪く……。
ピンポイントに俺の頭部めがけて……。
なんとか意識を集中する。
【忍具収納】からポーション手拭いを取り出し、傷口に押し当てる。
ポーションが傷口にしみこんでいく。
痛みが和らぐ。
傷が治っていくのを感じる。
それにつれて意識がはっきりしてきた。
だんだんと周囲が見えてくる。
爆発の直前、相手にしていたランナーがいたはず。
意識を飛ばしている間に襲われていてもおかしくなかった。
その姿が見当たらない。
爆発に巻き込まれたのか?
トウコが撃ち倒したのか?
しかし今、周囲に敵はいない。
ランナー以外にもたくさんの敵がいたはずだ。
どこに行った?
……いた。
その敵は今、リンの後ろに集まっている。
そういうことか。
ありがたい!
【ポージング】で引きつけてくれたのだ。
リンはぞろぞろとゾンビを引き連れて逃げ回っている。
だがだんだんと逃げ場を失っていく。
足の速いランナーが追い付きそうになっている。
飛びかかるランナーに、リンが盾を向けて構える。
「きゃっ……!」
小さな悲鳴をあげてリンがよろける。
衝突の勢いを支えきれなかったのだ。
そこへ別のランナーが迫る。
崩れた体勢のリンは逃げることも受け止めることもできない。
ランナーが身をかがめる。
飛びかかろうとしているのだ。
しかしその動作が中断される。
銃弾が頭を撃ち抜いたのだ。
「うらうらっ!」
トウコは拳銃を腰だめにして連発する。
ファニングショットだ。
弾丸が降り注ぎ、的確に敵を減らしていく。
ショットガンを使わないのは誤射を防ぐためだろう。
俺は再び頭を振る。
痛みはない。
足も動く。
意識ははっきりしている。
戦える!
術を集中――
「リン! 三秒後に入れ替える!」
「は、はいっ!」
リンの周囲にゾンビが集まっている。
厄介なのはボマーも混じっていることだ。
リンが無傷で包囲を破るのは難しいだろう。
だが俺ならできる。
「トウコ! チャージショットの準備だ!」
「りょっ!」
トウコが銃を構える。
銃口が光を放ち、だんだんと輝きを増していく。
ここで術の集中が終わる。
「入れ替えの術!」
術が発動する。
リンと俺の位置が交換された。
俺はゾンビの群れの真っ只中にいる。
すぐさま囲みの薄い場所――トウコが敵を減らした部分へと走る。
ゾンビの間をすり抜け、囲いを抜ける。
あとにはゾンビの群れが残る。
「いいぞ! 撃て! ぶちかませ!」
俺の指示にトウコが応える。
しっかりと力を溜めた銃口を敵集団に向ける。
リンも動いた。
俺の術を待つ間に魔法を用意したようだ。
「チャージショットー!」
「ファイア・ラァーンス!」
二人の大技がゾンビたちを蹂躙する。
ビームのような光を放ち、弾丸がゾンビをぶち抜く。
太い炎の槍が群れを焼き払い、貫いていく。
ウォーカーが、ランナーが、塵になって散る。
だが耐久力の高いボマーが残った。
燃え上がりながら、赤熱するように膨張していく――
充分な距離はある……はずだ。
だが過信はできない。
リンが盾を構えて言う。
「ゼンジさん! トウコちゃん! こっちへ!」
「おう! 助かる!」
「避難っスね!」
俺たちがリンの後ろに隠れたところで、ボマーが爆発した。
爆風が盾に吹き付けてびりびりと音を立てる。
「くうっ!」
リンがうめき声をもらす。
俺は手を伸ばしてリンの背を支える。
トウコはリンの尻を支えた。
「きゃっ!?」
爆風が収まると、リンが尻を手で押さえて振り向く。
トウコはすでに身を離している。
そして口笛でも吹きそうな顔で、そっぽを向いている。
リンが戸惑うような目で俺を見る。
そこに怒ったり咎めたりするニュアンスはない。
「ゼンジさん……。
そういうのは、こういうところでは……その」
リンの顔は恥じらうように赤く染まっている。
なにか勘違いしている。
冤罪だ!
俺はすぐさま犯人を売る。
「いや、俺じゃない! トウコだよ!?」
俺はゆるい顔で笑っているトウコを指差す。
このひとです!
「こういうところじゃなければいいんスね!
じゃあ後で、別の場所でっ!」
しかし反省の色は見られなかった。
「もう……そういうことじゃなくて……」
リンは仕方ないなという感じの小さな苦笑を浮かべた。
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