第四ウェーブと爆発と不運と!?
俺はゾンビの群れから距離を取る。
今回、俺たちはエントランスホールから動いていない。
ここは広い空間で、遮蔽物はない。
敵の侵攻ルートが多く、囲まれやすい。
二階から、通路から、開いたドアから、続々とゾンビが現れる。
「リン! 階段の踊り場にファイアウォールだ!」
「はいっ! ファイアウォール!」
二階に続く両階段の踊り場が燃え上がる。
そこにいたゾンビが炎に包まれる。
しかしゾンビの群れは止まらない。
二階からやってきた後続は、炎を気にしていない。
階段を歩き、走り、あるいは転がりながら火中に入り込んで炙られる。
こちらのルートはこれで抑えた。
勝手に燃えてくれることだろう。
トウコが敵集団にショートバレルショットガンを向ける。
「ピアスショットー!」
その銃口から派手な発射炎が噴き出す。
放たれた散弾は拡散しながら宙を飛び、ゾンビの群れに着弾。
柔らかな腐肉をまき散らしながら弾丸が突き抜け、背後のゾンビごと吹き飛ばす。
うーむ。
強すぎるだろショットガン貫通弾!
ランナーが叫びながら走ってくる。
狙いは俺だ。
「シャァァ!」
「ピアススラスト!」
ランナーの頭部へナタの切っ先が奔る。
すっ――と軽い手ごたえで頭部へ刃が埋まっていく。
貫通力が増した刺突は、頭蓋をあっさりと貫通した。
そしてそのまま反対側へと抜ける。
すぐにランナーが塵に変わった。
即死、かつ死体破壊までがすぐに完了したのだ。
それだけの威力。
致命的な急所破壊だった。
銃弾を飛ばすトウコのピアスショットと比べると地味かもしれない。
ましてやリーチの短いナタでは、ゾンビをまとめて貫くことはできない。
だが刀を使っても二体を串刺しにするのは難しいだろう。
敵が密着している状況に限られるからだ。
しかし、これは強いぞ。
柔らかいゾンビであることを差し引いても充分な威力だ。
頭部へ命中させれば、まず確実に仕留められる。
ヒットポイントを貫通する効果も見込めるだろう。
トウコの叫び声が俺の耳を打つ。
「店長、リン姉!
ボマーが爆発するんで注意っス!」
トウコが見ている方向に目を向ける。
そこには赤く輝くボマーがいた。
ブクブクと膨れた醜い体は、今にも破裂しそうだ。
俺はトウコの声かけに応える。
「おうっ!」
「はーい!」
ここからボマーのいる場所は遠い。
エントランスホールは開けているから、爆風は拡散して弱まる。
ここは爆風の範囲外だ。
この位置なら大丈夫だと判断して、
俺は迫っていたランナーに注意を向ける。
【ピアススラスト】の発動条件はほとんど確認できた。
突きの動作で発動する。
ジャンプ中でも打てる。
クールダウン時間はおよそ八秒。
消費する魔力は【ファストスラッシュ】や【パワースラッシュ】と同等。
さて、本命の検証だ。
斬撃で発動するか試してみよう!
突っ込んでくるランナーに向けてナタを構え――
そのとき派手な破裂音が響く。
ボマーが爆発したのだ。
――と同時にイヤな予感を覚える。
【危険察知】だ。
……え?
とくに危険な兆候はなかったはずだ。
すぐそばに攻撃動作に入った敵もいない。
だが考えている時間も余裕はない。
ぴりぴりとした危機感はすぐさま何かが起きると告げている。
回避するんだ!
俺は【回避】が示す情報を読み取る。
脅威の方向は?
――ボマーのほうだ。
安全な場所は?
――ない……だと!?
回避する猶予はなかった。
わずかな時間に目だけを動かして確認する。
なにかが飛んでくる!
「ッツ!?」
防御だ!
とっさにナタを持ち上げて飛来物との間に差し込む。
勢いよくぶつかった何かが、ナタのガードを押しのける。
俺の頭部にナタの側面が打ち付けられる。
その衝撃は、まるで剛腕で頭をぶん殴られたかのようだった。
意識が飛びかける――
「店長っ!?」
「ゼンジさん!?」
ああ――不運か。
途切れそうな意識の中で、このダンジョンの特性について考えていた。




