スラッシュとスラストとスキルの柔軟性!?
第三ウェーブが終わった。
ここまでケガもなく事故もない。
順調だ。
戦闘中にクラフトする余裕すらあった。
スキルの検証も滞りなく進んでいる。
【パワースラッシュ】の検証は終わった。
「次は【ピアススラスト】を試すぞ!」
「どういうスキルなんですか?」
俺はリンの問いに答える。
「貫通力ある突きが出せるらしい」
トウコが嬉しそうに笑う。
「おー! あたしのピアスショットとおそろいっスね!」
リンがうらやましそうに言う。
「いいなあー。
私の魔法に、そういうのはないんですー」
「リン姉はそれっぽく使えるからオーケーっス!」
ピアス・ファイアボールのようなスキルはない。
しかしそれっぽく使えはする。
リンは思い込みでスキルの効果を変化させる第一人者だ。
貫通力や温度を変化させている。
たとえばファイアランスだ。
何気なく使っているが、
【火魔法】に炎の槍を出すスキルはない。
ファイアランスに近い魔法は【ファイアアロー】だ。
これを槍のように太く鋭く使っている。
ファイアボールに比べて、明らかに飛翔速度や貫通力が高い。
スキルの柔軟さ余すところなく発揮していると言えよう。
俺の槍やトウコのスキルのマネをした。
それだけで、特殊な効果をものにしてしまった。
これは、本来のスキルの枠を逸脱していると思う。
スキルの幅……限界は俺が思うよりも広く、深い。
思ったよりも柔軟なのだ。
そんなリンの使い方を見て、俺も少しはできるようになった。
でも少しだけ。
大きく変えることはできない。
頭で考えているからか、どうしても型にハマってしまうのだ。
余計なことに気づいてしまう。
都合よく思い込むことができない。
まあ、できないことを考えても仕方がない。
俺は俺のやり方でやる。
コツコツ検証して、それを積み上げていけばいい。
状況に応じて準備した技を使い分ける。
それでいいのだ。
リンは思い込む才能がずば抜けている。
ボス討伐報酬で得た【嫉妬】は、
望むスキルを疑似的に再現する。
この効果に似ている。
でも【嫉妬】がなかったころも、
程度の違いこそあれ、似たことができていた。
ふーむ。
これはおかしい。
順番が前後している。
これも本人の才能……いや、適性か?
そういう素質がもともとあって……だからスキルが取得できたのか?
スキルがあるから、そういう行動ができる?
うーん。
タマゴが先か、ニワトリが先かみたいな話だな。
俺が考え込んでいると、リンが声をかけてくる。
「ゼンジさん?
難しい顔をしてどうしたんですか?」
「ん。そうだな……。
いや、どう説明したらいいか」
俺は考えをまとめる。
俺のスキルというより、スキル全般の話だ。
検証からは話がズレるが……。
トウコがゾンビに銃を向けながら言う。
「四ウェーブが始まったっス!
どんどん敵が来るっス!
店長! どうするんスか? うらっ!」
銃声が戦闘の開始を告げた。
放たれた弾丸が一瞬でゾンビの頭部に到達する。
弾丸が頭蓋に穴を穿ち、腐った内容物をぶちまける。
すぐに別のゾンビがやってくる。
四ウェーブは敵の湧きが激しい。
話し込んでいる場合ではない。
「話はあとだ!
まずは敵を片付けるぞ!
二人とも攻撃に参加してくれ!」
俺が言うまでもなくトウコは既に撃ちまくっている。
「りょっ!」
リンは盾を床に置いて片手で支え、もう一方の手をゾンビの群れに向ける。
「はーい! ファイアボールっ!」
リンが放った火球が遠くのゾンビを燃え上がらせる。
ゾンビはしばらくもがいて、床に倒れ込んだ。
倒れたゾンビは燃え続け、そのまま塵となって消えた。
やはりゾンビは良く燃える。
その調子でどんどん倒してくれ。
俺の検証は戦いながらでいい。
俺は試しに【ピアススラスト】をカラ打ちする。
なにもない空中に向けて突き出した刃に対してスキルが発動する。
よし! ちゃんと動く!
発動を確認した俺は、クールダウン時間を測るために秒数をカウントする。
他と同じなら十秒前後だ。
俺はゾンビとの距離を詰める。
スキルを使わずに戦いながら十秒ほど数える。
九……十……よし!
俺は目の前のゾンビに鋭く突きを放つ。
仮に発動しなくても通常の攻撃として成立する。
「ピアススラスト!」
スキルはちゃんと発動した。
速度は変わらない。力もこもらない。
切っ先がゾンビの胸に沈む。
軽い手ごたえで、たやすく胸部を貫いた。
ゾンビが動きを止め、がくりとうなだれる。
トウコが楽しげに言う。
「おっ? 成功っスか?」
「いつもより簡単に刺せたが……。
まあ、こいつらは柔らかいし何とも言えないな」
貫通力を測るにはゾンビは脆い。
やわらかすぎる。
今回は胸を狙った。
それは確実に命中させるためだ。
頭部では頭蓋骨にはじかれるリスクがあったためだ。
胸に穴をあけたゾンビが崩れ落ちかけ、うめき声を上げた。
「ウゥ……」
「ゼンジさん。まだ動いてますっ!」
このゾンビはまだ死んでいない。
腕を伸ばし、俺を掴もうとしている。
「おっと!」
俺はその手を逃れる。
「店長!
そいつはタフゾンビっス!」
普通の個体なら胸への攻撃でも倒せる。
だがタフゾンビは違う。
こいつは頑丈だ。
頭部を破壊しない限り動きを止めない。
タフゾンビが口を開ける。
噛みつこうと顔を寄せてくる。
大きく開かれた口の中に黄ばんだ歯が見えた。
歯並びは悪く、何本もの歯が欠落している。
ひどい匂いが鼻をつく。
俺は顔をしかめつつ、掌底を放つ。
「ていっ」
顎を打ち上げ、口を閉じさせる。
その動作で体をひねり、逆の手を引く。
ナタを持つ手を鋭く突き出す。
今度は頭部――滑る恐れのない箇所を狙う。
眼窩に突き刺さったナタの一撃で、ゾンビが塵に変わる。
次だ。
すぐそこに別のゾンビが迫っている。
俺は体をねじるようにして振り向く。
「ファストスラッシュ!」
振り向きざまにナタを一閃。
加速したナタがゾンビの頭部を打ち砕く。
刃の鋭さで斬ったのではなく、重量と速度でかち割ったのだ。
ナタをねじりながら反発の術をかけ、刃を頭部から抜く。
俺は返り血を避けて背後へ跳ぶ。
転がったゾンビが塵に変わる。
魔石を回収。
次だ。
周囲にゾンビが集まってきた。
俺はナタを手の内で回すと、峰を前にして握る。
「フルスイングっ!」
横薙ぎの打撃が数体のゾンビを巻き込んで吹き飛ばす。
大きくナタを振ったことで、わずかに俺の体勢が崩れる。
そこへ別のゾンビが飛びかかってくる。
俺は【歩法】の助けを借りて無理やり体勢を立て直す。
さらに小さく【跳躍】する。
横振り攻撃で生まれた慣性で、その場で回転する。
ナタを持つ腕を体に引きつけ――
「ピアス――スラストっ!」
空中から放った刺突がゾンビの頭部へ突きこまれる。
ほとんど抵抗なく、手ごたえはわずかだ。
そのおかげで刃が肉を噛んだり骨に弾かれずに済んだ。
ゾンビが塵に変わる。
とどめを入れるまでもない致命的な一撃だった。
俺は流麗に着地して、小さく笑みを浮かべる。
複数の技を使いまわすことで手数が増える。
手数が増えた分だけスキが減る。
スキルの連携にも組み込めそうだ。
よし!
ピアススラストもいい具合だ!
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