隣人ガチャ……アタリもハズレも表裏一体!?
重めの話が続いたので軽め。スローライフ回。
12話……膝枕回にて名前だけ登場していたあの人がついに登場!
(誰も待ってない)
「んじゃ、ちょっと荷物を見てくるわ」
「おう、いってらっしゃい。俺は作業の準備しておくわ」
自律分身に見送られ、ダンジョンの外へ。
アパートの部屋に出る。
そろそろ注文しておいた資材が届いていてもいいころだ。
「さて、荷物は――っとおぁッ!」
外に出ようとした勢いで、ドアにぶつかりかける。
ドアが開かない。
「っと……なんだ?」
ガチャガチャとドアノブを回す。
ちゃんと回ってる。鍵も開いている。
ドアを開けようとすると、引っかかった手ごたえ。
「あれっ?」
強く押してもビクともしない。
なんだ?
魔石でも持って――って、ここはアパートの外だから関係ない。
何度か押してみる。
そして、思い当たる。簡単なことだ。
「置き配か……。いや、ドアの真ん前はダメだろ!」
今回は木材も注文しているので、大きな荷物だ。
アパートのドアは外開きなので、ガッチリ挟まっているようだ……。
なにこれ、地味にピンチじゃん。
当たり前だが、出入り口は玄関しかない。
しばらくドアを開け閉めしたり、少しの隙間から腕を出してバットで押してみたり。
しかし、無理そうだ。
すると――
「――おい、うるせーぞ! さっきから何やってんだ!?」
げっ!
地味ピンチが、ピンチに!
下の階のシモダさんだ。怒っている。
少し短気で、騒音には敏感だ。
部屋で運動はできない。DIYなんてもってのほかだ!
普段は忍び足で暮らしてるんだけど……久しぶりに怒られたな。
「あー。すいません! ドアの前に置き配の荷物が挟まったみたいで……」
「ああん? ちょっと上がってくから待ってろ」
ドアの隙間から、シモダさんが二階に上がってくるのが見える。
シモダさんは渋めのオジサンだ。
三十代だと聞いた気がするが、細かい年齢は覚えていない。
隣人の……オッサンの年齢とか覚えないよね。
「おお、見事にハマってるな! ははっ、置いたやつのセンスがうかがえるね」
ちょっと驚いた様子から、面白がるような表情になっている。
ワルい笑みだな。
ちょっと、面白がってないで助けてほしいぞ。
「いや、面白がってないで荷物をどけてもらえると助かるんですが……」
「ああ、そうだな。……なかなか重いな。やれやれ。配達したやつが怒ってわざと置いたのかもしれないぜ? ほれ、どけたぞ」
指定場所は玄関前だし、ある意味、置き場所は間違ってはいない。
俺はドアを開けると、外へ出て感謝を述べる。
「――ありがとうございます。あやうく窓から飛び降りる羽目になるかと思ってました。助かりました」
「おう、いいけどよ。……この荷物……大工仕事でもするのか?」
届いた荷物は段ボールに包まれているが、音や重さでわかったんだろう。
ちょっと、目つきがコワい。
「いえ、まさかそんな。ここではやりませんよ。一時的に置いておくだけです」
嘘は言っていない。
すぐ、ダンジョンへ運ぶ。そこで作業だ。
「そうか、ならいいけどな。今日は俺、テレワークの日だから、会議とかあんのよ。静かにしてくれな」
「はい。静かにしますね。荷物、助かりました!」
シモダさんはひらひらと手を振りながら去っていった。
いや、コワかったわ。
いい人なんだけど、コワいんだよね。
いい人なんだけど、口うるさいんだよね。
いい人なんだけど!
隣人ガチャと言われるアレ。
シモダさんは……ややハズレ気味だろうか。
俺の部屋の下に住んでなければ、いい付き合いもできそうなんだけど。
上の部屋の俺としては、常にうるさくする可能性があるからな。
いや、俺のほうが隣人ガチャ外れか?
夜遅くに歩き回ったりしてるからな。
――前は部屋でバットの素振りとかしてたし。
まあ、お互い様ってところか。
今回は、荷物どけるのも手伝ってくれたしね。
「どうせなら、オトナシさんが来てくれたらよかったのに……」
今日は居ないのか、オトナシさんの部屋は静かだ。
居たら、すぐ出てきて助けてくれそうなんだけど、残念。
オトナシさんは隣人ガチャ、スーパーレア間違いなし!
美人モデル女子大生だ。
おいしいごはんも作ってくれる。最高だな!
うーん、この物件……トータルでは大当たりだな!
「ただいまっと」
「おう、長かったな。危うく俺、消えるかと思ったわ」
ダンジョンでは自律分身が待ちかねていた。
荷物を運び込みながら、俺は答える。
「いや、荷物が挟まってシモダさんが――」
軽く、外の出来事を説明する。
「ああ、そりゃ大変だったな。ま、さっさと作ろうぜ」
自律分身はすぐに理解して、興味なさげにしている。
すぐに、荷物の梱包を解き始める。
「なんだ、そっけないな。ま、急ぐか!」
自律分身が居るうちのほうが作業ははかどる。
相談したり、チェックしたりということは普通の分身にはできない。
考えて、行動してくれるというのはデカい。
普通の分身でも、荷物を押さえたりノコギリを使わせることはできる。
口に出さなくても作業を指示できる普通の分身も、大工仕事にはうってつけだな。
【分身の術】は万能だ。
忍術はDIYにも最適だぜ!
――このあと、めちゃくちゃDIYした。
登場人物がオッサンしかいない回……。大丈夫なのか!?