ショウタイムの始まりだ!
二十階層で手に入れた【検証者】の枠。
そこに新しいスキルをセットする。
今回は【片手剣】のスキルを試していく。
事前に候補は考えてある。
ナタを手にしてゾンビへ向かう。
俺の背にトウコが声をかけてくる。
「なんのスキルを試すんスか?」
トウコの問いに、俺は行動で答える。
よたよたとやってきたゾンビへ向かってナタを振り上げ――
「これだよ――【パワースラッシュ】!」
上段から斜めに斬りおろす。
狙いは首元。
やや大振りの軌道でナタの刃が走る。
速度はいつも通り。
だが腕に力がみなぎるのを感じる。
刃がゾンビの首筋へめり込む。
それだけでは止まらない。
刃は鎖骨をへし折り、肉を切り裂いていく。
切れ味がいいとは言えないナタの刃が胸をえぐって止まる。
俺は小さく驚きの声を上げる。
「おっ!?」
思っていた以上に深く切り裂いたことに驚いたのだ。
腐りかけたゾンビの肉は柔らかい。
とはいえ、鈍いナタの刃でこれほど切り裂けるとは。
ゾンビが動きを止める。
即死。行動不能。
動きを止めた死体が、ぐらりと後ろに倒れていく。
俺はナタを引き抜こうとして、小さく顔をゆがめる。
む。
ナタが肉を噛んでしまった。
抜けない。
俺はナタから手を離して背後へ下がる。
返り血を避ける。
ゾンビは床に倒れ、もう動かない。
俺はゾンビの肩を足で踏みつけて、ナタをねじる。
ちょっとグロい作業だ。
こういうのがこのダンジョンの嫌なところだ。
死体がすぐに消えないせいで手間が一つ増える。
面倒というのもあるが、精神的に疲れるんだよな。
正気度が削られる感じ。
ナタを引き抜くとゾンビは塵になって消えた。
あとに魔石が残る。
トウコとリンが歓声をあげる。
「おーっ! パワスラっ! 有名な技っスね!」
「すごい威力でしたねー!」
「ああ。威力はいいな。
しかし、ちょっと大振りになるのが気になるな。
力加減が難しいんだよ」
「力加減、ですか?」
「さっきは、あんなに深く斬る気はなかったんだ。
もっとうまくコントロールしないとな」
俺はたいてい、急所や血管を撫でるように斬る。
すれ違ったり、跳びながら斬ることもあるからな。
パワーよりスピードの戦い方。
深々と刃を打ち込むと次の手が遅れる。
一対一なら問題ないが、囲まれた状態では命に関わる遅れとなる。
とはいえ【パワースラッシュ】ははじめてつかうスキルだ。
力加減がわからないのは当たり前。
練習すれば【ファストスラッシュ】のように使いこなせるだろう。
俺は頭で時間をはかりながら素振りをする。
これは再使用可能時間を調べている。
二発目の発動が確認できたのは十秒ほど経ってからだ。
【ファストスラッシュ】よりやや長い。
この辺りはスキルレベルを上げれば短縮されていく。
【ファストスラッシュ】は斬撃の速度が上がる。
これに対して【パワースラッシュ】はパワーが上がる。
込めた以上の力が出る、という感じだ。
力は威力とも言い換えられる。
シンプルに威力が上がり、力負けしにくくなる。
だけど不思議とスピードは上がらない。
剣速は上がらず、威力だけが上がるのだ。
なんでだろうな。
力を込めれば速くなるのが当たり前だと思うが。
加速するのではなく、力が加わる。
加力……加圧……?
原理はちょっとわからないが、そういうものだ。
ファンタジーだな。不思議である!
その後も俺は【パワースラッシュ】で敵を斬り捨てていく。
腕を斬り飛ばし、首や頭の鉢を飛ばす。
パワーこそスラッシュである!
誤字報告ありがとうございます!




