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社畜辞めました! 忍者始めました! 努力が報われるダンジョンを攻略して充実スローライフを目指します!~ダンジョンのある新しい生活!~  作者: 3104
五章 本業は公儀隠密で!

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たまには冷蔵庫の中身をチェックしよう!

 部屋を出てアパートの外へ。

 トウコの部屋へは、一度外へ出ないと行けない。


 階段をこそこそと降りる。

 人に見とがめらたら面倒なことになるだろう。


 なにしろ、リンが持っている盾はかなり目立つ。

 住宅街のど真ん中で、暴徒鎮圧盾を持ち歩く集団。

 不審(ふしん)極まりない。


 俺の腰にはナタが吊られている。

 ちょっと見ただけなら上着で隠れてわからないはず。

 だけど、ちょっと心配だな。


 ひょっこりとシモダさんがタバコでも吸いに来たりして……。

 あるいは通行人が通ったりして……。


 などと気をもんでいたが、

 さいわい人には見られずに済んだ。



 トウコがカギを開け、中に俺たちを招く。

 トウコは靴を脱がず、そのまま部屋にあがっていく。


「んじゃテキトーにどーぞっス。土足でいいっスよ!」


 自分の部屋とほとんど同じ間取りだからか、

 土足で部屋に上がるのは少し抵抗感がある。


「トウコちゃん。

 ほんとうに靴のままでいいの?」


「脱いでもどーせすぐに履くっス。

 だからウチは土足オーケーなんスよ!」


 冷蔵庫ダンジョンには靴を履いたまま入る。

 靴がないと足を怪我してしまう。


 ダンジョン内に装備品は用意できない。

 すぐに敵が襲ってくるから着替える時間もない。



「じゃあ……おじゃましまーす」

「あがらせてもらうぞ。

 おいおい……ずいぶん散らかっているな」


 部屋の中には荷物が散らかり放題だ。

 マンガ本やらゲーム機やら……。


 女子力は感じられない。

 もうちょい片付けろよ……。


「片付けてもどうせ使うっス。

 だからこのままでオッケーっス!」


「まあ、今は小言は言うまい」



 俺は冷蔵庫の前で二人に声をかける。


「準備はいいか?」



 しゅばっとトウコが敬礼する。


「オッケーっス!」


 トウコは現代風のミリタリー装備を身につけている。

 まるでサバゲーコスプレだ。


 半袖半ズボンの緑の野戦服。

 腰にはタクティカルベルトを巻き、

 そこにホルスターやマガジンポーチを吊っている。

 ピストル弾用とショットシェル用のカートリッジホルダー(弾丸保持具)もついている。


 これは俺が作ったものではなくトウコが用意したものだ。

 前にも使っていた。



 リンが少し緊張の感じられる顔で言う。


「が、がんばりましょう!」


 リンの装備はヨガウェアと大盾だ。

 脚には現代的な(すね)あてを装着している。

 これは公儀隠密の備品だ。



 冷蔵庫はぶーんと低いモーター音を立てている。

 その響きは少し不気味に聞こえる。

 通電しているのだ。


「ていうかトウコ……。

 普通に冷蔵庫として使っているのか」


 トウコが冷蔵庫を開ける。

 冷蔵庫の中は明るく、機能しているとわかる。

 エナジードリンクやコーラが冷やされているようだ。


 それを見て、ひとまず安心する。

 トウコのダンジョンは通常、下段の冷凍庫にある。

 間引きを怠ると上段の冷蔵庫までダンジョンが拡張するのだ。


「ふつーに使えるし、ちゃんと冷えるっス。

 コーラ持ってこーっと!」


 トウコが三本のコーラを取り出す。

 俺たちの分もあるのか。

 とはいえ、コーラ片手にダンジョン攻略するのもな。



 冷蔵庫の下段、冷凍庫を引き出す。

 そこにはダンジョンの入口がある。

 転送門が黒々と渦巻いている。


「じゃ、行くぞ!」


 手をつないで、俺たちは中に入った。



 視界が切り替わる――

 俺たちは薄暗い洋館のエントランスに立っている。


 かび臭い空気。遠くで轟く雷鳴。

 俺たちの背後で扉がガタガタと風に軋んでいる。


「久しぶりだが、ここは緊張感があるな」


 もちろん、悪性化を防ぐために定期的に間引きをしている。

 防音工事のためにアパートを離れていたため、前回の間引きから少し間があいた。


「や、やっぱり怖いですねー」

「そーっスか? いつも通りっス」


 そういうとトウコは持ち込んだコーラをぷしゅっと開栓する。

 その姿から緊張は感じられない。


 肝が太いと言うか、ネジがゆるいと言うか……。


 トウコが俺にもコーラを勧めてくる。


「店長もどーっスか?」


 俺は手を振って断る。

 炭酸飲んで走り回るのはちょっとな。


「いや、いらん。

 トウコはいつも通りすぎる。

 緊張感が足りないぞ」


「リン姉はどうっスか?

 飲んでも外に出たら元通り!

 何回でも飲める無限コーラっス!」


 その言葉にリンは小さく首を振る。


「う、うん。いらないかなー」


 トウコの緩い態度で、俺も少し緊張がほぐれた。


 しかしリンの緊張はその程度ではほぐれなかったようだ。

 顔色を青ざめさせ、俺の服の裾を掴んでいる。

 その表情は不安げで、目元には涙さえにじませている。


 場の雰囲気に呑まれてしまっているんだろう。

 まあ、こっちが普通のリアクションだ。



 俺は収納から提灯を取り出し、上部をひねる。


「いま、明かりをつけるからな」

「は、はい。ありがとうございます……」


 輝水晶が放つ灯りが、周囲を心強く照らす。

 今はランタンモードにしている。



 トウコが親指を立て、白い歯を見せて笑う。


「初手から明かり!

 これで楽勝(らくしょー)っス!」


 左手にランタンを持ち、腰からナタを抜く。

 戦闘が始まればランタンは置くつもりだ。



 トウコがコーラをポイっと捨てて、通路の奥を指さす。


「来たっ! ゾンビっス!」

「ウウ……」


 不気味な唸り声。

 通路の奥からゾンビが姿を現す。

 よたよたとした足取り。


 俺たちのいる玄関前までは少し距離がある。


 トウコの手の中にはもう銃が現れている。

 手の内で銃をくるくると回す。


一匹目(ファーストブラッド)はあたしがいただくっス!」


 トウコはそう言うと銃の回転をぴたりと止める。

 滑らかな動作で銃口をゾンビへ向け、引き金を引く。


 乾いた銃声がエントランスホールに響き渡る。

 それと共にゾンビの脳天に穴が開く。


 弾丸は頭部を突き抜け、後頭部から抜ける。

 後頭部から腐った内容物が飛び散って床を汚す。


 それだけでは終わらなかった。

 トウコがさらに追い打ちを放つ。


「うらっ!」


 倒れかけたゾンビの頭部へ二発目の弾丸が命中。

 倒れきる前にゾンビが塵に変わる。


 【弾薬調達】により落ちた(ドロップした)弾丸が床で跳ね、小気味いい音を立てる。



「いい腕だ。慣れたものだな」

「あざっス!」


 トウコはクセのように、

 きっちりとトドメを刺している。


 一発目でゾンビは絶命していた。

 ゾンビが絶命というのも変だが、もう動かない状態だ。


 脳天を貫かれて死なない生物はいない。

 普通なら二発目は過剰だ。


 しかしゾンビが相手なら意味がある。

 このダンジョンのルールでは意味がある。


 ここでは倒したモンスターがすぐには塵にならない。

 俺のダンジョンとはルールが異なっている。


 死体を確実に消すためには追撃が必要だ。

 きちんと破壊しないと魔石や弾丸がドロップしない。


 死体を消すのはアイテムドロップのためだけではない。

 死体だけでなく、床に落ちたアイテムを放置するのもマズい。

 ネズミのモンスターが湧いてしまう。


 このネズミが想像以上に厄介なのだ。

 死体を食べて数を増やし、落ちたアイテムを盗む。

 当然、こちらを襲ってくる。


 体は小さく、一匹一匹は弱い。

 だが数が多い。

 銃で狙うのは難しく、すぐに弾切れになってしまう。


 刀で斬ろうにも、小さく素早い相手を捉えるのは難しい。

 手数が足りなくなって、いずれ負傷させられる。


 動きが鈍くなれば……良くない未来が待っている。

 トラウマものの死を迎えることになるだろう。


 苦い思い出だ。

 思い出したくもない……。


 それも昔の話。

 今のトウコにはショットガンがある。

 小粒のバードショット弾ならネズミも一度に処理できるし、

 弾丸の採算も合うかもしれない。


 弾を増やせる【弾薬創造】もある。

 レベルと共に魔力も増えたので、銃や弾丸を出しても余裕が残る。

 さらにホルスターを使って複数の銃を持てばリロードの弱点も補える。



 今回はリンもいる。

 【火魔法】の炎は敵を焼くのに使えるし、照明にもなる。

 ネズミなどまとめて焼き払える。



 うーん。

 そう思えば前ほど脅威ではないかもしれないな。

 とはいえ、ネズミは湧かせないに限る。



 トウコがドロップさせた弾丸へと駆け寄る。


「リロっ」

「カバーするねー」


 トウコは弾丸を拾い上げ、手早く装填(そうてん)を始める。

 そのそばに盾を構えたリンが寄り添う。


 弾丸は常にこめておくべし!



 そこへ次のゾンビが現れる。

 次弾を放つトウコのほうが速いだろう。


 しかしここは俺が戦わせてもらおう。

 俺はナタを手にして前に出る。


「あいつは俺に任せてくれ。

 新しいスキルを試したいからな!」


「あっ。検証者を使うんですねー!」


 間引きだけじゃつまらない。

 さあ、検証タイムの始まりだ!

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― 新着の感想 ―
[一言] 外に出て一番目立つのはリンちゃんのぴっちりスーツだと思います!! ※個人の感想です
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