DIYはダンジョンで! ダンジョンなら……イイよ?
「さて、今日こそDIYするぞ!」
毎日が日曜日な俺です。
やりたいことやり放題!
ブラック労働で稼いだ貯金があるから、当分生活に問題はない。
ちょっとくらい、材料や道具を買っても大丈夫!
こんな生活にも慣れてきたから、罪悪感はない。
……ないったらない。
注文しておいた品物が配達されてもいい時間だ。
しかし、荷物は届いていない。
置き配なので、あとでまた見に来よう。
それまでは、ダンジョンで準備の続きをしておこう。
ダンジョンへ入ると、俺が出迎えてくれる。
「よう、俺! お前が外に出ていても、大丈夫だったな。ちょっと、心細かったけどな!」
「おお、消えなかったか。これは、いろいろ捗りそうだな!」
出迎えてくれたのは自律分身だ。
つい十分前に出したばかり。
自律分身を出してすぐ、俺はダンジョンの外へ出た。
雑用をしたり、荷物の確認をしながら十分待った。
そして、十分きっかりで、また中に入ったのだ。
分身は健在。消えずに残っていた。
俺が外に出ても、そのまま残り続ける。
「それで、意識はどうだ? ずっと動けてたか?」
「ああ、砂時計の五分計と十分計を見てたが、ちゃんと十分だったぞ!」
俺が、砂時計を指さす。
両方とも、今は砂は落ちきっている。
三十分計の砂は、まだ落ちている途中だ。
ダンジョンの中で時間が計れない問題は、これで改善した。
拠点にいる限りは時間が計れる。
砂時計を持ち運ぶのは無理があるからな。
持ち運べる砂時計って、あるんだろうか?
俺の場合、持ち運べるとしても無理な気はする。
飛んだり跳ねたり宙返りしたりするから、砂がかき混ぜられて正確に計れない。
機械を使わない時間の計り方なら、なんでもいいんだが……。
まあ、とりあえずはこれでよし。
知りたかった時間の経過――十分間が同じように過ぎるか――を計ることはできた。
「じゃあ、お前の意識は途切れず、俺が居なくても問題ない、と」と俺
「ああ。そして、ダンジョンの中と外で時間の流れ方は同じだ」と自律分身
ダンジョンの中がゲーム世界になっている説。
俺が認識していないものは、描画されない説。
時間が停止している可能性もあった。
これらの説は、これで否定できたはずだ。
ダンジョンの両側から、確認できた。観測できた。
ちゃんと、ダンジョンは存在している。
俺が居ない間にも、ダンジョンはある。
内側に自律分身が居て、観測しているから……という可能性はある。
これはあとで、確認すればわかる。
自律分身が居ない状態で、砂時計をセットして外に出る。
十分後に戻って、砂時計を確認すればいい。
砂が動いていれば、誰も見ていない間もダンジョンの中は動いていることになる。
夢オチ、妄想オチでもないだろう。
俺の頭の中だけの想像上の産物じゃあない……はずだ。
これはどうしたって、否定しきれないけど。
我思うゆえに我あり。
でも自分が正気か、自分では判断できない。
まあ、考え出すときりがない。
ダンジョンのことはわからないことばかりだ。
わかったって、どうにもならないことだけど。
それでも――気になってしまう。
「さて、作業机を作るぞ!」
「これで、地べたで作業しなくて済むようになるな!」
レジャーシートをしいて、そのうえでクラフトしている。
一畳ほどのサイズしかない。
……友達たくさん呼んで宴会したりしないから、ぼっちサイズだ。
拠点と呼んでいるこの部屋。
ダンジョンとアパートを繋ぐ出入口のある部屋だ。
いくつかの収納ボックスが置いてあって、そこに荷物を入れてある。
それだけ。
ちょっと、拠点と呼ぶにはさみしいものだ。
作りたいものは『机』と『展示ラック』だ。
前に、材料の一部は買ってある。
百円ショップのワイヤーネットや、フック類だ。
壁に並べて、工具や武器を掛けるんだ。
秘密基地みたいで、格好いい気がする。
……いい大人がやることかとも思うが。
ダンジョンの中では、やりたいことやり放題!
罪悪感はない。バカバカしくなんかない。
……ないったらない!
材料は一部ダンジョンで確保してある。
昨日、オトナシさんの相談を聞いたあとに、材料集めをしたんだ。
六階層で盾持ち――戦士ゴブリンを狩ってきた。
モノリスで引き換えてきたのは『ゴブリンの木の大盾』二枚だ。
六階層の明かりを消すために集めた松明も、木材として使う。
さて『机』とはいわゆる『クラフト台』だ。
床に座って作業するのはどうも、見栄えがね。
オシャレな拠点にする計画なのだ。
まずはそれを作るための作業台が必要だ。
しかし……忍者っぽい作業場所というのは思いつかない。
調べても、そういうものはなさそうなんだよな。
忍者がものづくりをするときの特別な台や、装置は調べても見つからなかった。
……道具はどうやって作っていたんだろう。
鍛冶仕事や大工仕事をできる専門の要員が居たんだろうか。
史実では忍者固有の道具は使わず、農具や既存の道具がメインだったんだろうけど……漫画やゲームの情報すら出てこないな。
忍具は出てくるのに、作ったり仕入れるところは印象にない。
手裏剣なんて、投げまくってもなくならない不思議。
補給どうしてるんだ。
ファンタジーだな。
いや、忍者って和風だけど……ファンタジー分類なのか?
和風なら、ゴザでもしいて地べたスタイルが正解なのか?
忍者ぽいといえば、忍者っぽいなあ……。
「いや、作業しにくいんだよな……」
であれば、そういう作業をする台があるというテイで作ってしまおう!
立って作業するための、頑丈で安定した台。
横長で、広々とした作業スペース。
ゲームでよくある、クラフト台のようなものだ。
【忍具作成】にイメージを伝える。
材料はゴブリンの木の大盾。大量の松明。
つまりは、木材だ。
ファンタジー素材だし、多少は無理がきくことを期待する。
横長のクラフト台……テーブルで……。
ん……テーブルは忍具じゃないって?
――忍具作成君が、どうも納得してくれない。
机……いや、忍者が作業する台だよ。
作業机……いや、作業台で……。
忍具を作るための……台。
忍具作成台。
ほら、ね。あからさまに忍具だよこれは!
――お、きた! 【忍具作成】が発動した!
なんとか、スキルが発動する。
想像通りの忍具作成台が完成する!
忍具作成君も渋々という感じ。
手応えはかなりギリギリ。
魔石のコストも高かった。
やはり、家具のようなものは忍具と呼ぶには無理があるか……。
万能なクラフトスキルじゃないからな。なんでもできるわけじゃない。
しかたない。
展示ラックは忍具作成では無理だろう。
こっちはスキル無しで手作りだな。
さて、それには材料がいる。
そろそろ、注文しておいた資材が届いたかな?
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