置いたり消したり移動したり!
「ショッピングセンター事件のとき、
暴食は、これを使っていたんだろうな」
「あー。あの消火器のハコっスね!」
トウコの表情が思い出すような曖昧な顔つきから、納得した表情に変わった。
対してリンは少し不安げな顔になっている。
「暴食さんはあのとき、
今のゼンジさんと同じ権限を持っていたんですね……」
「ああ。少なくとも奴は二段階目の管理者権限を持っていた。
やたらと強かったのもうなずける話だ」
暴食は強かった。
俺たち三人に加えて犬塚さんまでいた。
それなのに倒しきれなかった。
そして奴は逃げ延びた……。
それだけの強さがあったということだ。
当然、その力はダンジョンで得たものだろう。
ダンジョンを深く攻略しているということだ。
当然、権限も持っていたと考えられる。
「てことは店長も転送門を消せるはずっス!」
「そうなるな。
たぶん暴食は、外に出て転送門を移動させたんだろう」
二つの転送門を用意する。
一つは現場に。
一つは追跡を逃れられる安全な場所に。
安全な場所に出てから、現場の転送門を移動させる。
移動することで、現場の転送門は消える。
俺にも同じことができるはずだ。
リンが確かめるように俺の顔を見る。
「転送門の移動は一日一回でしたよね?」
「そうだ」
「んじゃあ、今日はもう移動できないんスか?」
「今やったのは、二つ目の転送門の設置だ。
移動は別になるかな?」
「んじゃ、移動できるか試してみるっス!」
「やってみるか」
俺は借りている部屋のロッカーの前に立つ。
これは転送門を設置しているのとは別のロッカーだ。
数日前から俺専用としている。
移動の条件は満たしているはずだ。
俺はロッカーに手をかざし、
転送門を移動させるイメージを浮かべる。
「一つ目の転送門をここに移動する!」
そう言いつつロッカーを開ける。
中には黒く揺れる門があった。
「……できたな」
「おーっ! こっちの転送門は消えてるっス!」
トウコがもともと転送門を設置していたロッカーを指さしている。
中身は普通のロッカー。中身はカラだ。
つまり、門を消して、門を出すことに成功した。
移動である。
リンが言う。
「ということは移動と設置は別なんですね!」
「別だろうけど、何度も設置することはできないだろ?」
二つ目を設置する、というのは初回だけの話だ。
もう済んだので置き直すことはないし、できないだろう。
「じゃあ、消してから置けばいいっス!」
消せば置けるって話か?
「うーん。
転送門を消す機能はメニューにはなかったな。
でもやってみるか。転送門よ、消えろ!」
隠しメニューがあるかもしれないし。
ダンジョンのメニューは最初からすべて解放されているわけじゃない。
『ダンジョン所有者情報』などは、意識してはじめて現れた。
ダメもとで念じてみる。
消えろ! 閉じろ! 隠れろ!
「ムリっぽいな。消せないらしい」
「ゼンジさん。もう一度移動できますか?」
二回目の移動ができるか?
「管理者権限が強くなったんだから、
二回目の移動もできるかもしれないな」
これも試してみる。
「動け! さっきのロッカーへ!」
少し待ってみるがなにも起こらない。
ロッカーはそのままだ。
「ムリそーっスねー」
「では、三つ目を出せたりしますか?」
さすがに三つ目は無理だろう。
と思いつつも試してみる。
結果は同じ。
「うーむ。……ムリだな!」
いくつも出せるなら、一層ヤバい。
「じゃあじゃあ!
もっと権限があればできるかもっス!」
「三段階目の権限か……」
「三十階層のボスさんを倒せばもらえるんでしょうか?」
リンの言葉に俺は考える。
俺のダンジョンにはまだ先がある。
二十階層が最深部というわけではない。
ちゃんと下へ続く階段があった。
目標にしていた権限を得て一区切りついたが、
今後も攻略は続けていくつもりだ。
俺がダンジョンを攻略するのは、
なにも管理者権限のためだけではない。
単純に楽しいのだ。
戦うこと。ピンチを乗り切ること。
多種多様な敵と能力。
対策してそれを打ち破る喜び。
手に入れた素材で新しいものを作り、
身につけた経験で新しいスキルを得る。
やった分だけ先へ進める感覚。
「どうだろうな。
三十階層で無理なら四十階層か?
リヒトさんに詳しく聞いてみたいものだ」
彼は少なくとも二段階目の権限を持っている。
三段階目を持っていてもおかしくはない。
俺にとってはダンジョン攻略の先輩にあたる。
会ったことはないが、信用できる人物だと思っている。
助言や情報に何度も助けられた。
「お返事はまだ来ませんか?」
「ああ。もう少し待ってみるよ。
せっついてもしょうがないからな」
いろいろと聞きたいことが増えてきた。
メッセージにはまだ返事がない。
彼は無事だろうか。




