クローゼットはワープ航法で!?
「おおーっ! これは便利っ!
遊園地とか海外に入り口を作りたいっスね!
そしたら遊び放題っス!」
トウコは楽しそうにはしゃいでいる。
しかし、これはとんでもないことだぞ……!?
アパートから今いる公儀隠密の拠点は遠い。
車や電車を使って移動するような距離だ。
それを一瞬で移動してきた。
厳密に言うなら数十秒で。
アパートを出る前に時計を確認した。
この部屋の時計と大きな差はない。
俺のダンジョンと現実世界に時差はない。
これは昔、既に検証した。
自律分身と砂時計を使って調べたのだ。
だから時差がないのは当たり前ではある。
だが俺はこう考えた。
長距離を移動すると相応の時間が経過するのではないかと。
しかし、そんなことはなかった。
距離とは関係なく時間は平等に流れている。
どの出入り口を使っても関係ない。
出入りした門が違うとか、
二つの門の距離がどうだとかは影響しないのだ。
たとえばもっと遠く……。
海外に門を設置しても同じ結果になるだろう。
さらに遠くに置いたらどうなる?
仮に、たどり着く方法はさておいて……別の惑星に転送門を作れたなら?
たぶん、そこへ一瞬で移動できるのだろう。
これはワープなのだ。
徒歩で移動しているからSFらしい雰囲気はない。
ダンジョンを通っているのだからファンタジーな出来事だ。
でもやっていることは……すごく不思議である。
サイエンスフィクションで宇宙船が光より速く飛ぶのとは違う。
スピードは関係ない。
直接飛ぶ瞬間移動とも違う。
二点間をくっつけたり、空間に穴をあけているわけじゃない。
これは別の空間を経由して移動するタイプのワープである。
謎空間に入って、出てくるタイプ。
ワープ空間だとか、ブラックホールとホワイトホールを使うだとか……。
ううむ。
頭がこんがらがってくる。
まあ、原理や仕組みなんてどうでもいいことだ。
俺は科学者じゃないんだからな。
SFはいったん置いておこう。
宇宙とか惑星とか、そんなものは関係ない。
とにかく重要なことは、だ。
距離を無視して移動できるということ。
現実社会においては、物流革命が起こせるだろう。
大量の物資を遠方へ、素早く送り届けることができる。
山奥で寿司が食えるってね!
いや、それは今でもできるか?
冷凍せず釣りたて新鮮なやつを食えるってことだ。
宇宙航法と比べると例えが地味だな。
運ぶものが魚じゃなく、武器や薬物、金や宝石だったらどうだ?
これを悪用したら大変なことになるだろう。
不法入国、暗殺、密輸……。
ダンジョン保持者しか入れないから、他人は移動できない。
しかし非合法な品物、銃や薬物、金品などは運べる。
この利用価値は計り知れない。
管理者権限によって得た力は思ったよりもずっと大きい。
ステータスやスキルの力より、こっちのほうがヤバいくらいだ。
リンとトウコは素直に喜んでいるが……。
この力は他人にバレるとマズイだろうな。
もちろん俺はこれを悪用するつもりはない。
バレたら世界から追放されるのは目に見えている。
しかし悪用している者はいるのだ。
俺は深刻な顔で言う。
「ショッピングセンター事件のとき、
暴食は、これを使っていたんだろうな」
奴は二つの転送門を使って現場から逃亡したのだ。
手品のタネが割れたな!
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