忍具――龕灯。あるいは強盗提灯!
携帯用の灯火具で忍者っぽいものと言えば、
龕灯あるいは強盗提灯というものがある。
忍び提灯と呼ばれたりもするらしい。
桶のような筒の中にロウソクを入れた照明器具である。
指向性のある懐中電灯のようなものだ。
電球がない時代としては画期的な代物である。
持ち主の体や顔を照らさずに、
向けた方向だけを照らすので隠密性が高い。
変わっているのは内部の構造だ。
羅針盤やジャイロスコープのようにロウソク立てが回転する。
そうすることで、どちらに向けてもロウソクが地面に対して垂直になる。
普通の提灯を傾けたら、炎が側面をあぶってしまうし、
ロウソクが傾いて消えてしまう。
桶状になっているので、床に置けば明かりが外に漏れない。
覆いがあるので雨風にも強い。
こんなイメージのものを作ろう。
形は桶状。
底側が広く、上側は狭く。
キャンプ用品のランタンくらいのサイズ。
ランタンを漢字で角灯と書く場合がある。
となると角ばっていなければ角灯とは呼べないのか?
角灯だろうが提灯だろうが、
英語にすればランプやランタンとなる。
カンテラと呼んだりもする。
漢字を当てれば蘭灯と呼んだりもする。
同じ道具でも呼び方はいろいろある。
呼び方はなんでもいいってことだ。
ともかく、作るのはそういうもの。
携帯用灯火具である。
上部に取っ手をつけ、ここを持って持ち歩く。
光源には輝水晶を使うから、
ロウソク台が回転する仕組みはいらない。
戦闘時には床に置く。
置いたときに灯りが漏れないという、
強盗提灯としての機能は必須だろう。
でも、設置照明として周囲を明るく照らすのもいいよな。
どちらがいいだろう。
いや、両方の機能を持たせればいい。
世の中に存在しない品物でよいのだ。
使いにくければ直せばいいし、どうしようもなければ別の品を作る。
ハンドメイドの強みである!
強盗提灯の特徴と、ランタンの機能の両立を目指す。
側面のシェードを開いたり閉じたりできる構造。
板がスライドして光源を隠せるように……。
取っ手をぐるりと回せば、
側面の板がそれに合わせて回転して蓋をする。
このガンドウモードでは、
外に光が漏れないので隠密行動ができる。
板を開ければ、周囲に光を放つランタンモードだ。
しかし板がある以上、一部に影ができてしまう。
開けた状態でもシェードの板が光をさえぎるのだ。
ブラインドのように板が回転する構造にすればいいか?
あるいは布状のシェードをバネで巻き取るような……。
ううむ。
それだと構造が複雑になってしまうな。
一つの品にいろんな機能を持たせようとするとハンパになってしまう。
シェード機能と明るさはトレードオフである。
やむをえない。
今回作る品はシンプルな構造にして、置いたときの明るさは妥協しよう。
明るいだけの照明が欲しければガラス張りのランタンを作ればいい。
これは忍び提灯であり、用途が違う。
側面の内側は光を反射するために鏡面加工にする。
こうすれば底面を向けたときに、指向性のある光を投げかけられる。
これは補助的なもの。
本格的なリフレクターは天板につける。
シーリングライトと同じように、
天板部分に輝水晶を固定するパーツをつける。
燃料や電池はいらない。
輝水晶自体が燃料であり光源だからだ。
さらに輝水晶のまわりに光を反射するリフレクターをつける。
これは懐中電灯に似た、角度のついた反射板だ。
こうすることで底面を向けたときに絞った光が投射される。
リフレクターの角度は上部の取っ手を回すことで変わる。
照準調整機能付きである!
ランタンモードでは光が拡散し、
ガンドウモードでは光が収束する。
収束させれば、遠くへスポットライトのように光を投げかけられる。
直接自分の目に光源が入らないから、目をくらませることもない。
【暗視】でも見えなくならないので安心だ。
なんてね。
明るさは水晶を叩く強さで調整できる。
強く輝かせれば、それだけエネルギーを消耗する。
だんだんと水晶は小さくなっていく。
そして、ある程度まで縮むと塵になって消える。
不思議な素材である。
俺はイメージをまとめて【忍具作成】君へ伝える。
これは間違いなく忍具だし、日本古来の道具だし、忍者っぽい。
忍具作成君はウキウキで了承してくれた。
こうして夢の詰まった忍者道具――
遠近両用忍び提灯が完成した!




