初めてのメッセージは慎重に送ろう!
息せき切ってやってきたリンに声をかける。
「ちょうどメッセージの送信を試そうと思ってたんだ」
俺はコンソールを示す。
「はいっ! 送信できるようになったんですね!
これで初めてのメッセージが送れますね!」
「ああ。やっとだな」
リンはウキウキした様子である。
そんなに面白いものでもないと思うが……。
まあ、このために苦労したし、立ち会いたくもなるか?
メッセージ送信の解禁のために二十階層の攻略を急いだのだ。
これでやっと、正規のルートでリヒトさんとやりとりできるようになった。
管理者権限の強化もあって、
認識阻害を受けずに情報をやりとりができるはずだ。
リンが俺のそばによってくる。
肩を並べるようにして、リンはコンソールをのぞき込む。
そして小声でつぶやく。
「あ……。リヒトさんに……」
ほとんど聞こえないほどに小さな声。
俺の耳はギリギリでそれを捉えた。
リンの表情が少し硬くなり、なんとか笑顔を保とうとする。
だが失敗して、形のいい眉が悲しげに下がる。
む?
なんでだ?
なんでしょんぼりする?
初めてのメールと言っていたが……。
一通目のメッセージになにか意味があるのか?
あ、そういうこと?
初メッセージを送る相手がリヒトさんだからか!?
「あー。リヒトさんに送ろうと思っていたんだけど、
その前にちゃんと送れるかテストしたほうがいいよな。
まずリンに送ってもいいか?」
その言葉で、リンの顔がぱあっと明るくなる。
「は、はい! ぜひ!」
ふう……。
機嫌が直ったぞ。
メッセージを送信する前で良かった!
ギリギリセーフである。
というか、これは気づけないだろ?
まさか一通目のメッセージを欲しがっているなんてな。
そういう約束してたっけ?
思い出せない……。
してないよな。
していないはずだ。
でも何か引っかかる。
思い出せ……!
リンは期待するような目で、俺の次の言葉を待っている。
慎重に言葉を選ばねば!
なにか、送信する権限がないからできない、
という話をしたような気がする。
でもリンにメッセージを送っても意味ないよな?
直接話せばいいし……。
送るだけじゃなくて、
メッセージを送りあう?
あ……。
思い出した!
交換日記!
交換日記だよ!
リンはメッセージで交換日記をしたいと言っていた!
一通目のメールからやるとは言っていないが……そういうことか!
あぶねえっ!
「……リンの権限も早く強化しないとな」
「はいっ! そうしたらお返事できますね!」
この返答!
やはりそうだ!
「ああ、交換日記をするんだったよな!」
リンの顔に花が咲くような笑顔が広がる。
「ふふ。おぼえていてくれたんですねー!」
いや、忘れてましたけどね!
ギリギリで回避したぜ!
仕事してくれ【危険察知】!
リンの地雷はどこにあるのかわからないな!
ダンジョンの罠より、カマキリの隠密より難しいぜ!
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