いざ開封! 討伐報酬宝箱!
豪華な宝箱を開ける。
すると、頭の中に天の声が響く――
<おめでとうございます! 二十階層ボスの初討伐を確認しました!>
<クリア報酬により【検証者】のスキルレベルが上昇しました!>
<【検証者】 2→3>
<取得可能なスキルを三つ選択してスキルポイントを使わずに使用できます。選択はいつでも解除できます>
天の声さんが一気にまくしたてた。
いや、淡々とアナウンスしただけだが。
いつもなら、こちらの反応を待ってくれる感じがあるんだけどな。
「今回は、ずいぶんすんなりと報酬が決まったな」
「他に欲しいものがあったんスか?」
欲しいもの……。
ああ、そういうことか。
これまでは、いろいろ試す気持ちで宝箱を開けていた。
分身で開けたり、欲しいものを思い浮かべたりしたものだ。
それに対して今回、俺は迷っていない。
ほとんど無心で開けた。
「いや、欲しいものを念じて開けたりはしなかった。
でも、前から【検証者】の枠が欲しいと思ってはいたんだ」
リンが嬉しそうに言う。
「じゃあ、欲しいものがもらえたんですね?
よかったですー!」
「ああ。これで検証がはかどるな!」
これまで【勤勉】や【風忍法】を使うため【検証者】から外せなかった。
この二つは特殊なので、再取得できなくなってしまうからだ。
やっと、普通のスキルをセットできる。
自由に使える枠が欲しかったんだよね。
試したいスキルはたくさんある。
セットして試すのが楽しみだ!
さて、ボス討伐報酬はこれでいい。
本題の管理者権限は――
そう思ったところで天の声さんのアナウンスが響く。
もしかして頭の中を読み取っていないか?
いや、もしかしてもなにも、確実にそうだ。
俺の希望や願いを読み取って報酬を決定しているみたいだし。
などと考えていると、天の声が告げる。
<管理者権限が強化されました!>
<管理コンソールにメニューが追加されました!>
管理者権限のことを考えたとたんにこれだ。
うん。やっぱり思考を読まれている。
別に不利益はない。
なら、どんどん読み取ってくれればいい。
俺は考えたことをそのまま口に出す。
「メニューが追加? なにが追加されたんだ?」
天の声が返答する。
<メッセージ機能、階層移動に項目が追加されました!>
お、マジか!?
とりあえず聞いてみただけなんだが、まさか答えてくれるとは!
「おっ! 他には? 権限の強化でできるようになったことはあるか!?」
今度は答えを期待して聞く。
聞けるときにどんどん聞いておかねば!
<ステータスシステムより管理コンソールの一部にアクセス可能になりました!>
「ステータスシステム……?」
「いつものやつじゃないっスか? これこれ!」
トウコは空中を指差している。
見えないが、そこにステータスウィンドウを開いているのだろう。
レベルやスキルが見える、いつもの画面。
それは想像がつく。
気になるのはその名称、呼称である。
教えて天の声さん!
こういう情報は他では手に入らない。
「ステータスシステムってなんだ? ダンジョンの管理者権限との違いは?」
……。
しかし答えは返ってこない。
他にもいくつか質問を発してみたが、反応なし。
うーむ。
天の声さんは気まぐれだな。
「天の声さん、いなくなっちゃったみたいですねー?」
リンの言葉に俺はうなずく。
「そうらしい。
いつでも返事してくれるわけじゃないみたいだな。
でも今回は結構お話できたぞ!」
「管理者権限のおかげなんスかね?」
「そうかもしれん。
レベルが上がったときにでも試してみるか」
リンが首をかしげる。
「レベルアップの天の声さんと、
報酬をくれる天の声さんは同じなんでしょうか?」
「ふーむ。声のニュアンスは同じだと思うけど」
「声っていうか、頭の中に直接ッ……てやつっスね!」
「男の人の声でも、女の人の声でもない、不思議な感じですよねー」
耳で聞いているのではなく、脳裏に響くアナウンス。
合成音声のような、性別を感じさせない中性的な響き。
無機質というほどではないが、あまり感情は感じられない。
トウコが言う。
「モノリスが生えてるっス! あと階段も!」
「ゼンジさん。どうしますか?」
俺はモノリスを見ながら考える。
進むべきか、帰るべきか。
帰るべきだろう。
今日の目標だったボスは倒した。
管理者権限も強化された。
成果は充分である!
俺はモノリスを指差す。
「今日の攻略はここまでにして帰ろうか」
これは十階層のモノリスと同じで、帰還用だろう。
触れれば一階層の拠点へ転移できるはず。
このタイミング、この設置場所で罠はないだろう。
トウコが意外そうに言う。
「あれっ? 偵察はいいんスか?」
いつもならそうする。
せっかく来たんだから、ついでに偵察しようの精神である。
「偵察はやめておく。
前回と同じなら、管理コンソールからこの階層へ転移できるはずだ。
今日は帰って、ゆっくり休もうぜ!」
被弾もあったし、装備の補修も必要だ。
それに、目標を達成したことで気が緩んでいる自覚がある。
こういうときは無理をしないに限る!
「そーいうことなら、リョーカイっス!」
「そうですねー。帰ってお風呂に入りましょう!」
帰って検証したいこともあるしね!
俺たちはモノリスの前で手をつなぐ。
最低限の警戒だ。
俺がモノリスに触れると、すぐに視界が暗転する。
ふわりとした感覚――
――気づけば、見慣れた拠点である。
帰還用モノリスはちゃんと機能したようだ!
帰ってきたぜ!




