クローゼットダンジョン・十九階層!
階段を発見した俺たちは休憩を入れる。
物資も余力も問題なし。
そのまま先へ進む。
十九階層も迷宮風である。
石畳の床。レンガのような壁。
壁掛け松明のおかげで最低限の明るさがある。
通路と部屋が続く。
部屋は少なくて、迷路のような通路が続いている。
行き止まりに突き当たることもあった。
トウコは不満げにするが、俺はマップを埋められて満足だ。
通路の分岐や曲がり角は常に直角。
定規で引いたようなキチっとした作りになっている。
曲がり角にはカマキリが待ち構えていることがあるが、
対策が分かった今、たいした障害にならない。
楽勝である。
【魔力知覚】で見つけられないカマキリが現れると、
リンの表情が暗くなり、申し訳なさそうに謝罪してくる。
カマキリの【隠密】はそういう能力なのだからしょうがないんだけどね。
気にしないで欲しい。
引き続き、この階層にも罠がある。
矢の罠だ。
これも対策済なので、引っかかることはない。
曲がり角で分身を先行させ、ローラーで床のスイッチを発見する。
罠が起動しても、俺たちに当たることはない。
こうしてコツコツと蓄光塗料でマーキングしていく。
トウコはわざと踏んでバッティングセンターごっこをやりたがるが、
先を急ぎたいのでやめさせる。
部屋を探索して宝箱を発見した。
「ラッキー! 宝箱っス!」
「んじゃ、分身で開けるから部屋の外で待機してくれ」
「はーい」
俺たちは通路まで下がる。
罠がある場合を想定しての、いつもの行動だ。
安全確保したところで、分身を操作。
宝箱を開ける。
ふたを開けると同時に、びぃん、と音がする。
弓の弦がふるえるような音。
罠だ!
分身がびくりと震える。
なにか衝撃を受けたようだ。
「あっ!」
リンが驚きと心配の入り混じった声をあげた。
通路にいる俺からは、詳細は見えない。
音からして、弓矢を食らったのだろう。
しかし分身は無事。
無事というか、死ぬほどの威力はなかったのだ。
俺は警戒しながら言う。
「魔力の反応はどうだ? 部屋に変化は?」
「あ、ありません。大丈夫だと思います」
「音もしないっス」
分身を操作して通路側へ振り返らせる。
小さな矢が、分身の胸に突き刺さっている。
「うへー。痛そうっスね!」
トウコが分身の胸に生えた矢を引き抜こうとする。
俺はそれを止める。
「触るなよ! 毒が塗られているかもしれないぞ!」
「うぇっ!?」
分身の腕で、胸から矢を抜く。
返しのようなトゲのついた、細く短い矢である。
引き抜いてすぐに矢は塵になって消えてしまった。
「分身さん。痛そうですねー。大丈夫でしょうか?」
分身の胸には小さな穴が開いている。
血は流れないし、内臓も見えない。
「痛みはないから大丈夫だ」
「そ、そうですよね。でもやっぱり心配で……」
分身は俺の姿を模しているが、人間の体とは違う。
とはいえ痛々しく見えるのは確かだ。
「ああ。心配ありがとうな」
そう言いながら分身を消す。
そして新しい分身を入口へ配置する。
敵が現れたら手を打って音を立てるように条件を設定しておく。
俺は室内に戻って宝箱を確認する。
中には小さなボウガンがあった。
ここから矢が発射されたのだ。
箱を開けると発動する罠。
この手の罠は怖い。
前に閃光と爆音の罠を食らって痛い目を見た。
その経験のおかげで、こうして対策ができている。
レベルとは違う生の経験も、ちゃんと身についている。
成長成長。
「中身はなんスか?」
宝箱の中身を取り出す。
瓶だ。液体の入った瓶。
「黄色……状態異常回復か?」
「うーん。光の加減かもしれませんが、オレンジ色にも見えますねー?」
言われてみれば、そうかもしれない。
俺は手に取ったポーションを松明にかざして、まじまじと眺める。
黄色系統の色であることは間違いない。
しかし赤々と燃える松明の灯りのもとでは見分けはつかない。
でもリカバリーポーションの色とは少し違う気がする。
新種のポーションだろうか?




