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【四周年】社畜辞めました! 忍者始めました! 努力が報われるダンジョンを攻略して充実スローライフを目指します!~ダンジョンのある新しい生活!~  作者: 3104
二章 ストーカーは隣人で!

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オトナシリンは消え去りたい

本日二話目!

オトナシさんのフルネームは「音無(オトナシ) (リン)」です。

 俺はコーヒーを淹れなおして、カップにそそぐ。

 長い話になりそうだ。


「その……クロウさんは、どこかに消えちゃいたいなー、みたいな気持ちになることないですか?」


 ……消える?

 唐突に、オトナシさんが怖いことを言いだした。


 オトナシさんの表情は深刻なものではなかったので、少し安心する。


「うーん。仕事が忙しい時に思ったことはありますね。どっちかというと帰りたい感が強いですが」


 職場からドロンしたい感じ。お布団の中に消えてしまいたい感じ。

 ……最近は仕事で忙しいことはないけどね!


「クロウさんらしいですね。……なんていうのか、私なんかがここに居ていいのかなあ……っていう感覚です」


 その表情は(さび)しげというか……(はかな)い感じだ。


「ええっ? そんな風に感じてるんですか? いや、居てくれないと困りますよ」

「――こまり、ますか?」


 自信なさげに首をかしげるオトナシさん。

 心底不思議そうに。あるいは、すがりつくような。


 それを見て、俺は妙な焦りを覚えた。

 オトナシさんがどこかへ行ってしまうような……。


 塵になって、ふっと消えてしまいそうな気がした。



「――困ります! ……だってさみしいじゃないですか!」


 俺にとって、彼女はもうただの隣人じゃない。

 ダンジョン漬けの殺伐とした俺の生活のなかで、唯一のうるおいだ。


 もちろん、それだけじゃない。

 もっと大切な……。


 困る、さみしい……それよりももっと強い言葉を言うべきかもしれない。

 もっと、心に訴えかけるような、シンプルな言葉。


 でも、そんなことは言えない。

 ……弱みに付け込んでいるようで、今言えることじゃない。


 オトナシさんは意外そうな顔をして、それから少し表情をやわらげた。


「さみしい、ですか。――そう、私もそうです。クロウさんと会えないとさみしい。そう思うので、この頃は消えちゃいたいような気分は、あんまりなくなってきたんです」


 ……この人は、さらっと嬉しいことを言ってくれるな。


 でも、消えたい気持ちというものが、いまいち理解ができない。

 俺は聞き返した。


「さみしいと、消えたいは別物なんですかね? 似た感じの言葉ですが」


 オトナシさんは小首をかしげて、少し考える。


「さみしいっていうのは、会うことができなくてさみしいワケじゃないですか。……だから、会いたいっていう気持ちでもあります。――そう思える相手がいるから、消えたいと思わないのかもしれません」


 会いたいけど、会えない。

 物足りない。満たされない。

 それが、寂しいということか。


 では、消えたい、とはどういうことなんだろう。


 さみしいから、消えたくない?

 さみしいなら、消えたくなるようにも思える。


 ……ちょっと、わからないな。


 さみしいとは、会いたい気持ち。

 会いたいから、消えられない?


 オトナシさんの言っていることは、俺からすれば繊細(せんさい)過ぎる。

 触れれば壊れてしまう硝子(ガラス)細工みたいだ。


「さみしい感じは……なんとなくわかりました。でも……消えたいってのは孤立感とか疎外感みたいな感じなんですか? たとえば――死にたい、とか?」


 俺の投げかけた言葉が、静まり返ったアパートの部屋に響く。


 思い切って、直接的な表現で聞いてみた。

 ――俺の心臓はバクバクだ!


 ここで頷かれたりすると、とても怖い。

 でも、確認しておかないといけない。


「いいえ。死にたい……とは違います。あっ! そういうんじゃないんです!」


 オトナシさんは自分の発言が危ない感じになっていることに気づいたようだ。

 あわてた様子で、必死で否定する。否定、してくれた。


 よかった!


 急に話題が激重状態になって、俺も焦っていたところだ!


 ふう、そういう危険な話じゃない。

 自殺願望があるわけじゃないんだ。

 やれやれ。心臓に悪い。


「ああ、よかった! それならよかった。俺の勘違いですね、すいません」


 深読みしてしまったな。

 でも結局、消えたいという感じが俺にはよくわからない。


「じゃあ……消えたいというのは?」


「えっと……誰の記憶からもすっかり消えて……誰のことも困らせないで居なくなってしまいたいって……。まるで最初っから私なんていなかったみたいにパッと消えてしまえたらいいのに。……そんな気持ちですね」


 ――結構危険な感じだったーッ!?


 これはこれで、大丈夫じゃない気がするぞ!


 おそるおそる尋ねる。


「……いま、そんな感じなんですか?」


 たのむ、違うと言ってくれ!


「いえ、今はあんまり。こうして、クロウさんともお話しできますし……」


 オトナシさんは上目遣いに俺を見る。


 え……。俺と話さないと消えちゃうの!?

 あれかな。さみしいと死んじゃうウサギみたいな?


 念のため、確認してみる。


「……じゃあ、今は大丈夫なんですね? 消えたいとか思わないんですね?」


 大事なことなので、二度聞く。

 大事な人のことなので、何度だって、安心できるまで聞く!


「はい。大丈夫です。いまは、消えたいとは思っていません」


 とりあえず、ひと安心だ。

 今は大丈夫と。


 ということは、前は大丈夫じゃなかったって話だな。


「じゃあ、前は消えたくなるような何かがあったんですね? よければ、話してみてください。そういうのは、話すだけでも気が楽になったりしますし。聞くだけしかできないかもしれませんが……」


「ありがとうございます。そうですね……。では、聞いてもらえますか?」

「はい。もちろんです」


 彼女はほっとしたような表情を見せ――また、不安げに顔が曇る。


「――すこし、いやな話をするかもしれません。幻滅、させてしまうかも……」

「いえ、大丈夫。そんな風には思いません」


「それでは……このアパートに引っ越してくる前、色々とありまして……」


 彼女が引っ越してくる前、俺に出会うよりも前の話か。

 俺の知らない、彼女の話だ。


 俺は、それを知りたい。


 その一方で、軽々しく聞いてしまっていいのかとも思う。

 心に踏み込むからには、触れるからには……それなりの責任が伴う。


 でも、いま聞かなければ彼女はもう話してくれない気がする。

 彼女の心に触れることはできなくなって、そのまま消えてしまうような気がした。


 だから、俺は覚悟を決めて話の続きを待った。

いいねも励みになります! 参考にしてます!

最近多く頂けたのは「絡まれ上手と正義マン2」「【意識共有】の弊害。分身の存在価値……!?」でした!

連続する話の真ん中は不人気な傾向ですね。キリ的なことかもしれません。

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