回復アイテムは便利だね! 【薬術】上昇!
個人用ロッカーを開ける。
もやもやとした黒い水面がそこにある。
アパートのクローゼットにあった俺のダンジョン。
その出入り口――転送門だ。
管理コンソールの『転送門の移動』で、ここに移したのだ。
リンとトウコに声をかけて中に入る。
視界が暗転し――
洞窟ダンジョンに俺は立っている。
間もなく、リンとトウコも入ってきた。
俺は薬草丸を飲みながら言う。
「じゃ、各自着替えてくれ。俺は少し準備がある」
「あたしは弾拾いに行ってくるっス!」
「じゃあ、私も手伝うねー」
着替えをすませ、リンとトウコは弾丸集めに向かった。
丸薬が効いてきた。
じわじわした効果だが、打撲くらいならすぐに治る。
これで訓練の傷は心配ない。
便利だぜ。回復アイテム!
ダンジョンで訓練できたらいいのだが……。
オカダたちは入れないからなぁ。
あ、スナバさんはダンジョン保持者だから入れるのか。
せっかくだし、誘ってみるか?
んー。でも、こんなゴツゴツした洞窟だと危ないかもしれない。
投げ飛ばされたら大ケガしてしまう。
訓練できるように整備するか。
畳でも持ち込んで……。
明るさも足りないが、それは問題ない。
輝水晶を使って照明を作ればいい。
うむ。拠点を改造するのも悪くない。
それは後で考えるとして、今日は薬を補充しよう。
【薬術】の出番だ。
まずはモノリスで薬草を引き換える。
忍具作成台の上に各種材料と魔石を並べる。
作るのは薬草丸、体力回復丸、魔力回復丸の三種類。
それぞれ即効、遅効、強力のバリエーションを作る。
今回の探索用と、次回以降のためのストックを作成。
よし。バッチリ!
すると、天の声のアナウンスが来た!
<熟練度が一定値に達しました。スキルレベルが上がりました!>
<【薬術】 2→3>
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レベル3:高度な薬を作成
レベル4:作成コストを低減する
レベル4への必要ポイント:8
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「おおっ! いいぞ。なにが作れるんだ?」
俺は自分の内面――【薬術】に問いかける。
このスキルは作れるもののリストを教えてくれる。
きちっとしているのだ。
そして、無理を言っても断られてしまう。
【忍具作成】君のようにチョロ……優しくはない。
あくまでも用法容量を守ってね、というマジメちゃんである。
「えーと、作れるのは抗生物質、モルヒネ、アドレナリン、抗ウィルス薬、媚薬、向精神薬……」
うーん。やっぱり思ってたのと違う!
西洋医学っぽいクスリが作れるようになったみたいだが……。
ファンタジーっぽいのは?
薬草丸みたいな感じで、ポーションとか作れないのか?
教えて薬術ちゃん!
「……ムリか。ファンタジーっぽいものだと薬草から毒消しが作れるくらいなんだな」
抗生物質は便利そうだが、材料がないらしい。
ペニシリンはカビから作るんだっけ?
そういう材料を用意すればいいはずだ。
でも正直……要らんよね?
俺のダンジョンには素材が少ない。
薬の素材を外から持ち込む必要がある。
なら薬局で買ってくればいいじゃん、って感じになってしまう。
アドレナリンなんて薬局で買えたっけ?
媚薬……は置いておこう。
買えない品は作る意味がある。
抗ウィルス薬はパンデミック禍なこのご時世には便利かもしれない。
アドレナリンはどうだ?
心停止のときの気つけに使ったりするよな。
とはいえ、素人が適当に使えるものでもない。
作れる薬が便利か、という以前にもっと便利なものがあることが問題だ。
そのせいで、このスキルの価値が薄れるんだよな。
俺のダンジョンでは治癒薬や状態異常回復薬が手に入る。
普通の薬品を作っても、ファンタジー薬に勝てる気がしない。
抗生物質や抗ウィルス薬はファンタジーにはなさそうなものだが、
それも状態異常回復薬で治ってしまいそうだし。
「一応、毒消しを作ってみるか。これは当然、即効性で頼むよ!」
材料は薬草と魔石である。
持ち運びやすいように丸薬にする。
【薬術】を発動!
「――よし、完成! せっかくだから何個か作っておこう!」
人数分用意して、ストックも作る。
俺のダンジョンにはクモや蛾がいるから、毒消しを使う機会もあるだろう。
上位互換のリカバリーポーションを持ち歩いているので、
活躍の機会があるかというと微妙であるが。
……む?
心の奥で妙な感じがするな。
この感じは……。
【薬術】ちゃんが拗ねてしまいそうだ!
俺は隅っこでひざを抱えて座り込んでる委員長を幻視した。
いかんいかん! そういう意味じゃないんだよ!
え?
そういう薬が欲しければ【中級薬術】を取れって?
うーむ。
他にも取りたいスキルは多いのだが……。
どうするかなあ?
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