訓練終了! ダンジョン攻略開始!
オカダがうずうずした顔で言う。
「よーし! もう一発やろうぜ!」
その言葉にトウコが反応する。
「オッスオッスするんスね!」
「しねーよ!」
俺はトウコへとツッコむ。
言葉だけ聞くと妙な響きである。
もう一戦、組手をしたいということだろう。
スナバさんと俺が戦っている間、オカダは待たされていたわけだし。
待ちぼうけ状態である。
しかし、今日はもういいかな。
さすがに疲れたよ。
「疲れたし、ケガを治したい。また今度な」
「俺もきりあげる。そろそろシズカが起きる時間だから、迎えに行かねば」
シズカちゃんは道場にいない。
リンが訊ねる。
「シズカちゃんはお昼寝ですかー?」
「ああ」
拠点のどこかに預けているんだろう。
託児所でもあるのか?
オカダが寂しそうに言う。
「なんだ、二人とも帰っちまうのかー」
なにかかわいそうな感じがする。
その表情は母性本能をくすぐりそうな感じとでも言うか。
スナバさんが言う。
「サタケに頼めば相手してくれるだろう」
「あのオッサンか? 強いのかよ?」
スナバさんは当然だと言うようにうなずく。
「強いぞ。組み合ったらなかなかのものだ」
「へー。じゃあ頼んでみるかなー」
万全な状態で戦うサタケさんは見たことがない。
なんだか、いつも負傷しているんだよな。
でも、ケガをしていても銃の腕前は悪くなさそうだった。
それに落ち着いた物腰には安心感もある。
いずれサタケさんとも戦ってみたいものだ。
道場を後にして、借りている部屋に戻ってきた。
トウコがふくれっ面で言う。
「店長、やられすぎじゃないっスかー?」
「やられたっていいんだよ。訓練なんだから」
勝ち負けなんてどうでもいい。
それよりも得たものが大きい。
トウコが口をとがらせる。
「でもでもっ! 分身とか使ったら勝てたんじゃないっスか?」
たぶんトウコは俺が投げ飛ばされる姿に憤りを覚えたのだろう。
まあ、トウコなりに俺を応援してくれていたのだ。
俺は肩をすくめる。
「そりゃ、スキルを使えば勝てたかもな。でもスナバさんが銃やナイフを持ち出したら怖いだろ?」
今回は格闘縛りの訓練である。
格闘の範囲を出るようなスキルは使わない。
そういう取り決めで始めたことだ。
俺が【分身の術】などを使うなら、スナバさんも得意の武器を使うのがフェアというもの。
オカダだって変身を使えば、もっとずっと強い。
トウコは少し考え、納得したようにうなずいた。
「んー。たしかにそーっスね!」
「あくまでも格闘訓練だ。全力でやったら結果はまた違う」
もちろん、そんな機会が来ては困る。
全力のスナバさんか。
遠くに潜んだスナバさんが狙撃してきたら……。
まあ、どうにもならないだろう。
リンはにこやかに言う。
「でもゼンジさん、楽しそうでしたねー」
「わかるか? 強い相手と戦うといろいろ発見があってな」
リンはよく見ている。
観戦中は俺が投げられるたびに心配の声をあげていたが、
ちゃんとわかっていたようだ。
トウコがしゅばっと手をあげる。
「じゃあじゃあ! 次はあたしとバトるっス! 銃ありで!」
「当たったら死ぬじゃねーか! やだよ!」
被弾したら死ぬ訓練とか、成り立たないって。
冷蔵庫ダンジョンの中ならできないこともないが……。
それこそイヤである。
「じゃあ銃なしでもいいっス!」
「どんな縛りプレイだよ! 意味ないだろ!」
トウコから銃を取ったら何が残るんだよ?
訓練が成り立たないだろ!
トウコがリンへとニタニタ笑いを向ける。
「じゃあリン姉どうっスか? 魔法ナシ! お触りアリで!」
トウコに残ったのはアホだった!
下心だった!
リンがちらりと俺を見る。
言ってやれ、リン。ツッコんでやれ!
「ええと……ゼンジさんも参加するなら……?」
頬を染めたリンの声には期待がこもっているように聞こえる。
いや、やるのかよ!?
そんなの訓練にならないよ!
俺は個人ロッカーの取っ手に手をかける。
この中に俺のダンジョンを移動させてある。
「……さて、ダンジョンに入るぞ」
「やるんスね! 夜の訓練っ!」
「ちがうわっ! ダンジョン攻略な!」
「そ、そうですよねー? がんばりましょう!」




