ニンジャ ＶＳ ボクサー！
「らあっ！」
「おっと！」
オカダのストレートをギリギリでかわす。
背後に飛んで距離を取る。
さいわい、この道場は広い。
ボクシングのリングだったらこうはいかない。
すぐにコーナーに追いつめられてしまうところだ。
俺は防御、回避に専念している。
大振りの攻撃を何度か続けたオカダは攻めをジャブ主体に切り替えた。
ちっ。気づかれたか。
大振り攻撃ばかり続けるほどオカダは単純ではない。
これはある種の手加減だ。
簡単に俺を倒してしまうと、組手が終わってしまう。
だから遊んでいる。
油断しているとか、バカにしているのとは違う。
ただ戦いを楽しみたい。
少しでも長く遊びたい。そんなところだろう。
「おらおら、どしたっ！」
細かく、鋭いジャブ。これはかわせない。
ガードをあげて受けるのが精いっぱいだ。
攻撃の切れ目を狙い、ローキックを放つ。
体重は乗せない。あくまでもけん制の一撃。
「ていっ！」
「効かねーな！」
当たりはするがダメージはない。
ダメージがあったとしても回復される。
こちらはもう、ガードする腕がしびれ始めている。
ジャブだから威力がない？
いやいや、そんなことはない。
一撃一撃が速く鋭く重い。
グローブがあるからなんとかなっているだけ。
俺は後ろへ、後ろへと追いつめられている。
――そう見えるだろう。
わざと隙を作る。
目線、体の動き、それぞれでフェイントを入れて攻撃を誘発。
オカダがストレートを放つ。
「おらあっ！」
「しぃっ！」
足元に反発力を生み出して跳躍。
通常ではあり得ない踏みきり。
着地を考えないような、ムリのある高く素早いジャンプ。
オカダの攻撃が空を切る。
普通なら、着地したところを追撃される。
だが俺の背後には壁がある。
壁面へ着地。
オカダの拳より高い位置。
ボクシングではあり得ない位置取り。
オカダが目をむいて、俺を見上げる。
「――んだぁ！？」
俺は蹴りを放つ。
狙いは頭部！
「うりゃあっ！」
壁に立つ俺から見ればローキック。
床に立つオカダからは頭上からの蹴りおろし。
「ぐおっ！？」
オカダはとっさにガードをあげている。
防がれた。
俺の蹴りは速度を重視したもの。
ノックダウンさせるような威力はない。
だが視界を遮ることには成功した。
そして上からの蹴りで床に押しつけられ、オカダの足は止まっている。
俺は壁を蹴り、宙返りしてオカダの背後へ。
空中でオカダの背中を蹴る。
体をひねりながら着地。
振り返りかけているオカダの脚を払う。
「おわっ！」
「もらったっ！」
バランスを崩したオカダが背後へ倒れる。
俺は渾身の力で足を振り下ろす。
全体重を乗せたストンピング。
オカダの頭の横へ振り下ろす。
ずどんと、床板が大きな音をたてる。
訓練なので当てはしない。
俺はすぐに足を引き、距離を取る。
そして呼吸を整える。
「ふう……」
オカダが、がばっとはね起きる。
満面の笑み。
「やられちまったなー。おもしれえっ！ もう一回やろうぜ！」
「次やると俺が負けそうな気がするけどな……」
奇策は二度通じない。
単純な殴り合いとなれば勝てないだろう。
「うおーっ！ 店長が勝ったっス！」
「ゼンジさんっ！ すごいですー！」
リンとトウコが興奮した面持ちで立っている。
「ん。二人とも、いつの間に来たんだ？」
「少し前に来たばかりです」
戦闘中によそ見する余裕はなかった。
「来たらいきなり店長たちがスパークリングしてたっス！」
「それじゃ炭酸飲料だよ、トウコちゃん……」
リンがあきれ顔で突っ込んだ。
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