格闘訓練? 見学しようと思ったら……なんで!?
トウコたちは射撃訓練にいそしんでいる。
的は悪党と人質がランダムに飛び出してくるやつだ。
二人とも、それぞれ課題がある。
トウコは誤射しないこと。
エドガワ君はためらわずに撃つこと。
今回、トウコは曲芸撃ちやガンスピンはしていない。
ちゃんと言いつけを守っている。
その調子で続けたまえ。
スナバさんが俺に言う。
「ところでクロウさん。吸血鬼の二人、オカダとコガを任務に連れていったと聞いた。どう評価する?」
「役に立ってくれました。戦力としても充分です。少し戦闘にのめり込むところがあるので、そこは制御が必要ですね」
のめり込むのは少しではないが……。
「そうか。御庭に二人の訓練を頼まれている。クロウさんも一緒にどうだ?」
「銃の訓練ですか?」
スナバさんは静かに首を振る。
「いや。格闘訓練だ。前にエドガワとやったような護衛ゲームでもかまわん」
「そうですね。時間が合うなら……。この後ですか?」
「ああ。数時間後の予定だ。かまわないか?」
「ええ。いいですよ」
射撃訓練を終える。
エドガワ君はサタケさんとの訓練に戻っていった。
トウコはリンを呼びに行く。
俺はスナバさんと道場へ向かう。
道場ではオカダとコガさんが待っていた。
オカダが片手を上げ、気安い笑みを浮かべている。
「おっ? ゼンゾウもいるのか!」
「ようオカダ。元気そうだな。コガさんも」
コガさんがおずおずと言う。
「こ、こんにちわ。ええと、そちらの方がスナバさんですか?」
「砂場レンジ。今日は格闘の訓練を受け持つ。よろしくな」
「こ、コガです……その。よろしくおねがいします」
「オカダだ。よろしくなレンジー!」
いきなり呼び捨てにしていくオカダ。
軽い。軽すぎるぜ。
スナバさんは特に気にした様子もなく続ける。
教える立場ではあるが、別に部下ではないからか?
「オカダはボクシング経験者だと聞いた。コガは格闘経験がないそうだが、間違いないか?」
「おう! 一応プロでやってたんだぜ!」
「わ、私はなにも……ないです」
俺は補足する。
「コガさんは普通の会社員だったので、格闘技の経験はありません。この間、俺と一緒にダンジョンで戦ったので実戦経験はあります。そうですね、コガさん」
「は、はい。そう、です」
コガさんは庇護心をあおるような表情で、小声で同意する。
だが【庇護】のスキルは発動していないようだ。
コガさんとはスキルの使用を控える約束をした。
偉いぞ。ちゃんと守っている。
スナバさんがミットを手にはめながら言う。
「ではまず、できることを見せてくれ」
「おうっ! 俺からなー!」
オカダのミット打ちはたいしたものだった。
スナバさんが構えたミットへ、的確に打ち込んでいく。
すぱん、すぱんといい音が響く。
プロのボクサー顔負けである。
いや、実際に元プロなんだった。
対してコガさんはというと――
「ええと……えいっ」
ヘロヘロとしたパンチ。
ぽすん、とミットが情けない音を立てる。
素人の俺から見ても全然ダメである。
スナバさんが淡々と言う。
「なるほど。よくわかった」
その声色に落胆の色はない。
ただ状況を理解した、というだけ。
コガさんはいま、血を飲んでいない。
だからダンジョンで見せたような好戦的な感じはなく、弱々しいまま。
動きはよくない。
「コガ。基礎を教える。クロウさん。オカダと組み手を頼む」
あれ?
俺、プロボクサーと殴り合いしなきゃいけないの!?
「よっしゃ! やろうぜ、ゼンゾウ!」
「お、おう」
オカダはやる気まんまんだった。




