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ずっと前からス……! スキヤキ!?

100話目!

 朝。

 オトナシさんとの食事タイムだ。



 先日、自分でハーブ料理を作ってみたのだが 結果はイマイチだった。


 なぜハーブかと言えば……【薬術】の材料として買ってきたハーブ類の有効利用である。

 賞味期限があるから、使わないといけない。


 それで、慣れないハーブ料理に挑戦したのだ。


 食べきりはしたが、人に出せる料理じゃない。

 だが、そんな失敗談も役に立った。


 オトナシさんにその話をしたら、作ってくれるとのことだった。


 今日は、そのハーブ料理を作ってきてくれた!

 ちょっと期待している。いや、かなり!


 オトナシさんの料理の腕前は、ちょっとしたものだからな!



 俺の部屋、二人でテーブルを囲んで座る。


「……じゃじゃーん! ローズマリーとレモンのチキンソテーです!」

「おおっ! これはオシャレ!」


 彼女は照れたような表情で、料理の皿を置く。

 香ばしく焼き上げられた鶏肉の上に、緑色のローズマリーと、スライスされたニンニクが乗っている。


 湯気の立ちのぼる料理……さわやかな香り……。

 これは期待を超えてくる予感!


「ローズマリーとニンニクはオリーブオイルで(いた)めてます。鶏肉(とりにく)はニンニクのみじん切りとたっぷりのレモン汁で一晩漬け込んであります。さ、どうぞ!」


「へえ……。手が込んでますね。ではさっそく……うまっ! うますぎる!」


 ローズマリーの香りはさわやか。

 油通ししているせいか食感も揚げたみたいにサクサクだ。苦みもない。


 鶏肉も外はカリッと焼き目がついていて、中はジューシー。

 レモンのおかげでさっぱりして……飽きずにどんどん食べられる。


 これと比べたら……俺が作ったハーブ料理なんて草料理だ。


 セージを使ってみたが、苦くて微妙な味だった。

 いや、使い方からして間違えていたのかもしれない。


 これほどの違いが出るとは……おそるべし、オトナシさん!


「ふふ。喜んでもらえてよかったです。クロウさんは喜んで食べてくれるから……作りがいがありますね!」



 俺も一品作っている。


「俺が作ったのはハーブ味フライドポテトです」

「わあ……おいしそうです!」


 みじん切りにしたタイムを振りかけて、パセリを添えている。

 一応、ハーブ料理だな。


 油、塩、炭水化物。美味いに決まっている!

 こういうのは、料理の腕があまり問われない。

 俺の作る料理は手の込んだものじゃなくて、こんなものだ。



「ごちそうさまでした!」

「ごちそうさま。ふう……うまかったなあ」


 これぞ至福の時だ。

 ……潤った!


 オトナシさんが、ちらちらとこちらをうかがっている。


 ん……顔にハーブでもついているのかな?


 ――違った。


「――その……前に言った相談……のことなんですけど……」


 オトナシさんが、言いにくそうな様子で切り出してくる。


 整理がついたら話してくれることになっていた件だ。


 やっと、話してくれるのか。

 俺は、神妙(しんみょう)な顔でオトナシさんに向き直る。


「……はい」


 オトナシさんも、まじめな顔で居住まいを正す。


「ええと、相談というか……前から言いたかったことが……その、えっと……」


 ひどく、歯切れがわるい。

 オトナシさんがコミュ障モードになっている。


 そういえば引っ越してきた頃は、こんな感じだった。

 いや、もっとひどかったかな?


「……はい。ゆっくりでいいですよ」

「秘密にしていたことというか……あう……」


 オトナシさんは、言いかけてうつむいてしまう。

 どう切り出すのかを迷っているという感じか。


 じれったいが、ここで急かすわけにはいかない。


 これは、もしかしてダンジョンの話か?

 そうだとすれば、俺も覚悟を決めなきゃならない。



「その、ずっとまえから……私、その……ス……」

「……ス?」


 ……スキル?


 まさかスキ! とかじゃないよね。

 ないない。……いや、なくもないか?


 スキヤキ! とか言うお遊びか?

 小学校以来のこの()らされ感……。


「その……うぅ……はぁ……!」


 オトナシさんは言葉に詰まってしまう。

 ムリムリという感じで首を左右に振っている。


 困ったような焦ったような表情。

 それは恥ずかしがっているようにも見える。

 その表情は……なんというか、色気がある。


 いや、まじめに話しているときに、不謹慎(ふきんしん)なんだけど。

 そういう場合じゃないんだが……うむ。


 デリカシーないのか、俺!

 じっと、平静を装って続きを待つ。


 彼女はあえぐように、恥じ入るように口を開く。


「あの……実は……ス、ストーカー……」

「……ストーカー?」


 彼女の声は必死に絞り出したようで、消え入るように小さい。

 俺のオウム返しに、こくこくと頷いている。


 ストーカー、か。

 もしかして、ずっと悩まされてきたのかもしれない。


 そう考えれば、いろいろと()に落ちる。


 彼女はよく絡まれている。悪い虫がつきやすい。


 引っ越して来てからも、あまり家から出ていないようだ。

 人付き合いもほとんどなさそうだ。

 まるで、誰かから隠れているみたいに。


 こういうことを人に相談するのは勇気のいることだろう。


 でもなんで、俺に相談しようと思ったんだ?

 もしかすると、信頼してくれているんだろうか。


 何度か、絡まれているところを助けてもいるし……まあ、自然か?

 頼りにしてくれたんなら、うれしいじゃないか!


 このタイミングで相談してきたのは……なんでだ?


 ……ああ、この間のファイアボール事件のせいか。


 オトナシさんは魔法が外でも使えると思っていた様子だった。

 ――でも使えなかった。

 身を守れると思っていたが、あてが外れたのかもしれない。


 それ以前から、俺に話したいことがあると言っていた。

 これまでは、少し余裕があったのかもしれない。

 だから今日まで相談せずにいられたんだ。


 俺は納得して頷く。


「なるほど……。よく話してくれました! ストーカーに悩まされているんですね!」

「えっ!? ――あ、はい。……でもそれは……ここに引っ越してきて、ほとんど解決しているんですけど……」


 ――そうして、オトナシさんはぽつりぽつりと語りだした。

 題名没案シリーズ

 『ローズマリーとオトナシさんの相談事』


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