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社畜辞めました! 忍者始めました! 努力が報われるダンジョンを攻略して充実スローライフを目指します!~ダンジョンのある新しい生活!~  作者: 3104
一章 ステイホームはダンジョンで!

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絡まれ上手と正義マン ~俺だけスキルで現代最強……とはなりません!?~

「重い。調子に乗って買い込みすぎたか……」


 ホームセンターからの帰路、買った荷物を持ち直す。

 がちゃっと、荷物が音を立てる。


 徒歩で持ち歩くにはちょっと重すぎた。

 腕や腰が疲れてくる。


「外でもステータスがあれば、こんな荷物で疲れることはないのにな……」


 ダンジョンの外ではステータスは効果を失うのだ。

 体力も敏捷も一般人並みだ。

 つまり、素の俺の力しかない。


 ダンジョン外での俺は、普通の一般市民だってこと。

 スキルも使えない。


 チートもなにもない。

 どこにでもいる普通の元ブラック社員だ。


 ……俺だけスキルで現代最強、とはならないのだ。残念。



 そんなことを考えながら歩いていたところ、悲鳴じみた女性の声が耳に入ってくる。

 どうやら、コンビニの前で女性が(から)まれているようだ。



「……すみません、通してくれませんか」


 女性は入り口前でたむろしている男たちに阻まれて、コンビニに入れない。


「なあ、ねえちゃん。遊ぼうぜ。ちょっとかまってくれてもいいだろォ?」

「いいじゃねえかよ。俺たち暇なんだ」


 若い男性ふたり。

 まだ昼過ぎだというのに、酒を飲んで酔っぱらっているらしい。

 入り口をふさぐようにして女性にまとわりついている。


「……どいてくれないなら、いいです」


 女性はコンビニをあきらめて(きびす)を返す。

 ――だが、立ち去ることはできなかった。


 酔っ払いが、女性の腕をつかんだためだ。


「けしからん格好しやがって! 誘ってんだろ? 遊んでいこうぜェ」


 男は下卑(げひ)た表情で女性の手を引く。

 女性はあっと小さな声をあげる。

 逃れようと抗っているが、力ずくで捕まえられてしまう。


 けしからん格好ってなんだよ。

 地味な服じゃないか……。

 いや、うーん。これはけしからん!


 女性の格好はごく一般的で、露出も少ない。

 地味とすら言える。

 長く形のいい脚はスラリと伸びて、ズボンの生地を通してもむっちりとやわらかそうだ。

 ニットのセーターはぴったりしたデザインで、身体のラインが露骨にでている。

 豊かな胸のふくらみと細くくびれた腰は、人目を引くのに充分な色気を放っている。


 露出が少ないのに、何も隠せていない。

 派手じゃないのに目立っている。


 顔はマスクで隠されてはいるが、なかなかの美人……。

 って、お隣のオトナシさんじゃないか!


 また絡まれているのか、この人は……!?

 トラブル体質というか、絡まれ体質というか。


「おい、なに無視してんだよ!」


 ぐい、と男は彼女の手を強く引く。


「ちょっ! 痛い! 放してください!」


 オトナシさんは逃れようと手を引くが、捕まってしまっている。

 通行人がいないわけではない。

 騒ぎの起きているコンビニの店員も気づいている。


 だが、見て見ぬふりだ。誰も助けに入らない。

 面倒なことに関わり合いを持ちたがらないのが現代人だ。


 絡まれている女性を助けてヒーローになれるような単純な世の中じゃあない。

 喧嘩両成敗(けんかりょうせいばい)で傷害事件の被疑者になってしまうだけ。


 現代には美談や英雄物語の余地はない。

 こんな世の中に正しさなんて、まるで期待できない。


 ……とは言っても、なあ。

 そうだとしても、見て見ぬふりをするわけにはいかない。


 知り合いが困っているならなおさらだ。選択肢なんてあるはずもない。


 俺はわざと大きな音を立てて、荷物を足元に置く。

 大きな音で、俺に注目が集まる。


「おい、そこらへんにしておけよ」


 俺は足早に彼女と男の間に割り込んで、彼女をつかんでいる男の腕をつかむ。

 絡んでいた男とその仲間がガラの悪い声を上げる。


「あぁん? なんだこら!」

「引っ込んでなよオッサン。正義のヒーローかぁ?」


 オトナシさんが俺に気づいて驚く。


「クロウさん!? どうしてここに?」


 彼女はゆるんだ拘束を振りほどいて、俺の後ろに隠れる。


「通りすがりですよ。オトナシさんは相変わらず絡まれ上手ですね」

「……いえ、わざとじゃないんです」

「はは、もちろんわかってます」


 背後にいるので表情はわからないが、オトナシさんは困ったような声色だ。

 もちろん本人が意図して絡まれているわけではないのだ。

 狙われるほうが悪いなんて論法はない。



「おい、おっさん! 無視してんじゃねーぞ!」


 男が、険悪な表情で俺をにらむ。


 おっさん言うな。まだ二十六だ。

 君らとそんなに変わらないはずだ。

 それに俺はまだ若者なはず。ギリ若者なはず。

 ……違うか?


 俺の胸倉をつかむ酔っ払い。

 息が臭い。

 なんでチンピラってすごむときに顔を近づけてくるんだ?


 めんどくさいし、酒くさい。

 こんなご時世なのにマスクもしていない。

 口を閉じて離れてほしい。


「離れろ。手を放せ。……あと、俺は若者だぞ」


 胸倉をつかむ腕を振り払う。


 相手よりも俺のほうが体格はいい。

 飲食業は結構、肉体労働なのだ。


 昼から酒を飲んでくだを巻いているような奴は、それなりの力しかない。


「んだと、おっさんがよ!」


 かっとなった男が、俺の肩のあたりを突き飛ばす。

 その力で、俺は後ろによろける。

 緊張した空気が、俺と相手の間に漂う。暴力の気配だ。


 話し合いで解決できるという期待ははかなく消えた。

 くそ、なだめる隙もないほどに手が早い。


 暴力。悪意。争い。

 平和な日常生活の中では触れることのないそれが、俺に牙をむく。


 平和と言っても法律や警察が今この時に守ってくれるわけもない。


 男が動き出す。


「おら!」


 (こぶし)(にぎ)りこんだ男が、大ぶりなパンチをくり出す。

 もう一人の男は、俺の側面へ回り込むように動き始める。


 ――不思議と、恐怖も動揺も感じない。


 俺がもともと喧嘩慣れしてるとか、肝っ玉が太いわけではない。

 なかったはずだ。

 だというのに、殴りかかろうとする男を前にしてもなんとも思わない。


 ダンジョンの経験が俺を変えたんだ。


 武器を持って襲ってくるゴブリンは、俺を殺す気でかかってくる。

 それに比べれば、街での喧嘩なんて大した危険はないのだ。


 武器も持っていない。俺を殺そうとしているわけもない。

 当たり前だが、俺も相手を殺したり傷つけるつもりはない。


 平和で安全なこの国で、ちょっとした小競(こぜ)り合いをしているだけなんだ。


 そうして冷静な頭で見れば、男の動きは緩慢(かんまん)だ。


 身を引いて拳を避ける。

 ボクシングでいうスウェーバックのような動きになる。


 攻撃をかわされた男の身体がバランスを崩して流れる。

 思ったようにいかなかった男達は、さらに頭に血を上らせる。


「なんだコイツ……。なめやがってよおお!」

「やっちまえ!」


 顔を真っ赤にしてさらに殴りかかってくる。

 これも大ぶりのパンチだ。

 避けるのはたやすい。ゴブリン以下の動きだ。


 開けた空間、斜め後方に下がる。

 自分で思ったよりも、足が動く。

 完全に避けきることができている。


「よけてるんじゃねえぞ! おっさんっ!」


 二人目の男が蹴りを放ってくる。これも一歩下がって避ける。


 チラリ、とオトナシさんを見る。硬直してしまって動けずにいる。


 かばって戦えるほど俺は強くない。

 男たちの敵意は俺に向いているとはいえ、とばっちりを受ける距離にいる。


 すくんでしまって動けないなら、目的を与えてあげればいい。

 やることがあれば、人は動ける。

 男たちのほうに目を向けながら、声だけで指示を出す。


「ここは俺に任せて、オトナシさんは逃げてくれ! 警察を呼んで!」

「……はいっ! すぐ呼んできますから!」


 そう言うと彼女は走り去っていく。

 薄情に見えるが、この場に残らないことが正解だ。


 ここから離れて人を呼ぶなり電話してくれればいい。


 警察でもなんでも、穏便にこの場を収めてくれるならそれでいい。

 それに、彼女が無事にここを離れた時点で目的は達成だ。


 彼女を助けたいのであって、喧嘩に勝ちたいわけじゃあない。

 もうすでに勝利条件は満たしている!


 あとはこの小競り合いがケガ無く終わってくれればいいなあ、とは思うけれど。

現実世界を描くのは気を使います。

絡んでくるチンピラはファンタジーです。隣に住んでる女子大生もメルヘンです。

この物語はフィクションです。配慮に欠ける、現実味のない描写があってもご容赦ください。


編集履歴

2022/08/18 読みやすいよう見直し

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― 新着の感想 ―
[一言] それだけ余裕があるんだから、しっかり相手の喉をおもいきり殴りましょう。
[良い点] 隣の部屋に美人の女子大生が住んでいるなんて、都市伝説だよね。 オイラも長い年月をかけて学習したのさ。
[一言] うん、警察を呼ぶは基本。 たとえ、忍者スキル使えても、正当防衛はかなり難しいから、避けて、避けて、避けまくって警察待ちが、正解(//∇//)
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