逃亡資金が貯まったので、性悪王子の腰巾着辞めます!
タイトル通りの内容です。サクッと読めます。
逃亡資金が、貯まった。
ギリギリのタイミングだった。
あとは、王子にサヨナラするだけ。
なんでだか知らんが。
チートなしの異世界転生をやらかし。
第一王子エドワード様の腰巾着が、今の俺のポジションだ。
でもって。
エドワード様は、男爵令嬢にのぼせ上がり。
聡明な婚約者様を蔑ろにして。
婚約破棄へと、まっしぐらに突き進んでいるように見える。
え?
なんで、止めなかったか?
俺は、伯爵家の三男坊で。
使い捨ての駒みたいなもん。
実家からも。
王子の機嫌を損ねちゃいけないって。
厳命を受けている。
諫言できるような人間は。
遠ざけられてしまって。
残ってない。
前世の記憶を取り戻してから。
俺は、自分を取り巻く環境のヤバさに気づいた。
実家の領地経営は。
搾取搾取の一辺倒。
俺が領民だったら。
とっくに一揆起こしてるわ。
王子は王子で。
外面だけは完璧だが。
試し行動と無茶振りが大好きで。
人をふるいにかけることを、生き甲斐にしている。
実家、アテにならん。
王子、性悪。
逃亡しよう。
そうしよう。
逃亡資金は、多ければ多いほどいい。
だが、貯める以外にもやることは山程ある。
逃亡ルートの確保。
外国語の習得。
それに、自分の身を守れるくらいには、強くなりたい。
金脈、人脈づくりに励み。
国際情勢については、常に最新情報を把握し。
通訳なしで、数ヶ国語を話せるようになり。
日々の鍛錬を怠らず。
寝る間を惜しんでの努力は。
人には、見せない。
バレたら、もっと働かされそうだしね。
腰巾着としての仕事は。
クビにならない程度に、ゆる〜く行っていた。
でも、それもおしまいだ。
婚約破棄前に、間に合って良かった。
修羅場に巻き込まれるのは、ゴメンだ。
一生遊んで暮らせるほどのお金はないが。
裕福な平民としてなら、充分暮らしていける。
ふははは。
待ってろ、スローライフ!
俺の辞めます宣言に。
エドワード様は、顔色ひとつ変えなかった。
……冷たいねえ。
俺ら、竹馬の友じゃなかったっけ?
俺だって、見捨てようとしてるんだから。
おあいこか。
理由を問われて。
見切りをつけたと、答えた。
「見切るのが、早すぎないか?」
「ハニトラもどきにひっかかってる人に、言われたくないです」
腰巾着辞めるんだから。
バラしても、いいだろう。
「ハニトラねえ……どこが糸を引いている」
「第二王妃ですね」
「知った上で、放置か?」
俺は、薄く笑った。
そのぐらい、気づけよ。
意図は、伝わったようだ。
エドワード様は、苦笑した。
「お遊びは、やめる。お前に辞められると、困るからな」
「いや、そこは愛に生きましょうよ」
俺のスローライフのためにも!
「愛よりも、お前の方が大切だ」
無駄に美形な王子様の囁き。
「鳥肌が立ちました」
袖をまくって見せた。
「そうか、そんなに感動したか」
「キモすぎる……」
俺の本音を聞いてくれ。
「男爵令嬢には、特技があってな。相手にとって、理想の女を演じることができる」
知ってます。
「ハニトラ要員として、他国への派遣を考えている」
そうですか。
「婚約者殿には、事情を伝えてある。即位はまだだが、先に掃除をすませておくと……」
「お前も、これから忙しくなるぞ」
エドワード様の笑みが深くなる。
「未来の宰相だからな」
「はぁ!?」
「幅広い人脈を持ち、数ヶ国語を自在に操り、他国への造詣も深い。おまけに文武両道だ。ああ、金銭感覚もすぐれていたな。財務大臣も兼任できそうだ。皆、歓迎していたぞ。根回しの必要すらなかった。人徳だな」
ええ。それは。
逃亡の手助けをしてもらうためにですね。
恩を売ったり、弱みを握ったりしたからです……
腰巾着は、辞めることができたけど。
なんでこうなった!?
さよなら、俺のスローライフ……
お読みくださり、ありがとうございました。別視点の短編があります。よろしければ、こちらもどうぞ。
タイトルは「愛だの恋だのに、うつつを抜かしている暇はございません」https://ncode.syosetu.com/n0835hv/