ウォーターボールは地形が変わります
魔物もスケールダウン中
勇者になった。
いや、勇者とか痛過ぎるでしょと大昔なら笑われるに違いないのだが、ガチの勇者である。
昨今流行の異世界に行って、つぇー!!しちゃって、モテモテハーレム決めちゃう勇者様だ。
事の始まりは、ある朝、超絶光り輝くナニカが世界中の人間にモーニングコールを決めた頃とから始まる。
『わし、勇者の適正テストします』
なにそれ。
まだ、5分寝れたんだぞ、お前。
勇者とか、中学2年くらいしか許されんけど。
フリーターのが現実的。
皆、二度寝しようとした。
しかし、夢かと思ったが、どうやら、全人類同じ夢を見ている。
と言うか、テレビもSNSも同じ内容で大騒ぎ。
ちなみに時差もきっちり合わせ、謎に時間軸を弄ったらしく、みんな、同じではない同じ時刻に神託が降りた。
そう、本当に神様からメッセージが来ちゃったのである。
神曰く、最近、みんな、異世界転生しすぎ!わしの世界嫌いなの!?プンプン!と言う長い話がつらつらと10分有り、寂しいけど…みんなが行きたいなら、わし我慢するね!みたいな話が4分あり、でも、超絶異世界からクレーム来るから、ちょっと面接するわと10秒で終わる有難いお話であった。
いや、最初の10分、校長先生かよと人類は思ったし、朝5時きっかりだったので、高齢者…と目を擦るしかなかったのである。
そんな訳で、勇者の適正がある百人ほどが選ばれ、神から封書が届いた中に自分が居た。
中身はビジネス文書コピペしたんか?と言う内容だったが、割と優しい内容ではある。
硬く書いてはいるが、要約するとこうだ。
1.異世界に体作ったから、それに転生して世界を救う事。救ったら、残っても良いけど、いつでも帰って来たらいいからね。てか、救ってる最中でも帰って来たらいいから。神様、ずっと、勇者の事待ってるからね。
2.ぶっちゃけ、嫌なら行かなくていいんだよ。と言うか、わしの世界のが絶対良いじゃん?他の世界とか救わなくて良いから、ずっと、わしといよう。
3.死にません。仮に転生体に致命的損傷が起きたから、帰ってきます。勇者くんちゃんはわしの可愛い子だから、バッドエンドは無理。
推しに死んで欲しくないヲタクか、田舎の心配性のオカンか、闇落ちしかけのメンヘラ彼女か悩みそうな神様だが、とりあえず、勇者をやる事にした。
その時、ちょっと、気が狂っていたのである。
大学4年、卒論終了かつ必要単位は手に入っている。
サークルも無いし、ついでに内定もない。
緩くバイトしかしてなかったから、就活で話せる経験も無く面接が受からん。
もう、百社以上落ちまくった俺は頭がおかしくなっていた。
「勇者って、ボランティア活動じゃん」
世界中でもなかなか無い体験だし、これはもう、最終面接に受かるやろ。
世界救うとかマジでこれは内定の嵐に違いない。
意気揚々と神様へ返信封筒で勇者やりますと返事をした。
結構、神様からはやめた方がいいって!なんなら、神様のとこで働こうよ?ね?勇者適正あるなら、事務員さんとかにもなれちゃうし?ね??と引き留められたが、ボランティア活動経験欲しいマンと化した俺を止めるには至らなかった。
「じゃあ、勇者くんちゃんにはいっぱいいっぱい特典つけとくね。本当に安全に世界救えるようにしといたから。神様、勇者くんちゃんが心配で…うぅ…生活魔法から世界を滅ぼす魔法からなんでも付けとくね」
「早く行きましょう、困ってる人を助けないと」
「勇者くんちゃんッ!なんて、立派なんだ!流石は神様の世界の子!!!!」
「あー…いってきます」
「はひ…呆れ顔もかわいいね…おにぎり食べてね、お弁当入れとくから……」
限界ヲタクみたいなセリフと一緒に目の前が真っ白に染まる。
目をギュッと瞑れば、足元がぐにゃりと歪んだ気がした。
「本当に!本当に!!安全なとこにしたからねー!!!!」
限界ヲタクと言うか、オカンじゃん。
俺はそう思いながら、世界を渡ったのだ。
「勇者様が来られたぞー!!」
「わーーい!!」
「勇者様ー!!!」
「地獄の番犬、ケルベロスを倒されたそうだぞ!」
「きゃー!!!」
小さくて可愛らしい声が足元から聞こえてくる。
それに目を向けながら、引きつった笑みを浮かべる。
召喚されてから、この微妙な笑みが顔から外れない。
「いや、安全に救えるって言ったけど」
異世界の住民、全員、平均身長5㎝の世界ってありなんです??
地獄の番犬らしいチワワを腕に抱えながら、遠い目をする。プルプル震えて可愛いな、お前。
ボランティア活動にカウントしてもらえるか、凄く心配になってきた。
「勇者様ー!!雨を!!!慈雨の雨を!!」
「…生活魔法、ミストシャワー」
パラパラと洗浄用のシャワー代わりの水が降り注ぎ、異世界の住民がはしゃぎ出す。
可愛いなぁ。
うん、可愛いは可愛い。
そう思わないとやってらん。
この前、ウォーターボールを使ったら、湖が出来たと騒がれたけど、きっと、気のせい。いつか、魔王とかに攻撃魔法も使えるはず。
小さな人間達に手を振る俺は、まだ、生活魔法だけで世界を救う羽目になるとは知らなかったのである。
一度、連載物も書いてみたかったので、書いてみました。
スケールダウンした冒険をじわじわと書いていこうと思います。