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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夏のホラー2021『かくれんぼ』

こっくりさんのかくれんぼ

作者: 小畠由起子

「……こっくりさん……こっくりさん……どうぞおいでください……」


 カーテンを閉め切って、西日がさえぎられた教室に、四人の女の子たちが一つの机を囲んで座っていました。机には数字と五十音、そして鳥居に『はい』と『いいえ』が書かれた紙が置かれています。鳥居の位置には十円玉が、そして四人の指が重ねられています。


「……こっくりさん……こっくりさん……どうぞおいでください……、もしおいでになられましたら『はい』へお進みください……」


 わずかにカーテンがゆらめいた気がしました。もちろん窓も閉め切っています。それと同時に、じわり、じわりと、十円玉が動き始めたのです。四人同時に息を飲みます。そのまま十円玉は、『はい』へ向かって……いくわけでもなく、なぜか、『か』の位置で止まったのです。四人は視線を見合わせます。そこには混乱と、若干の好奇心で輝いていました。


「……こっくりさん……こっくりさん……どうぞおいでください……、もしおいでになられましたら『はい』へお進みください……」


 再び四人は声をそろえて、こっくりさんを呼び出すおまじないを唱えます。すると今度は、先ほどよりもするすると十円玉が動いて、『く』の位置で止まったのです。もう一度四人は顔を見合わせ、美月が思わず口を開きます。


「どういうことかしら? これって、うまくいってるの?」


 小声の月夜(つくよ)に、他の三人が「シッ」とやはり小声で注意します。月夜も思わず口をつぐみました。


「……こっくりさん……こっくりさん……どうぞおいでください……、もしおいでになられましたら『はい』へお進みください……」


 他の三人につられて、月夜もあわてておまじないを唱えます。今度は四人とも、微妙に『はい』を強調します。しかし、やはり十円玉はするすると、『はい』には向かわずに、今度は『れ』の位置で止まったのです。


「『か』、『く』、『れ』……ています?」


 月夜の言葉にまたしてもみんなが、「シィッ」と注意しました。しかし月夜は顔が真っ青になっています。汗がぽたり、ぽたりと、机に落ちます。


「こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいでください。『はい』へお進みください」


 カーテンがゆらり、ゆらりとゆれるなか、四人は早口になっておまじないを唱えます。十円玉も駆け足に、そのまま『ん』の位置へ向かいます。そして、四人がおまじないを唱え直す間もなく、まるで引っぱられるように『ほ』へ、そして最後は濁点を現す『゛』の位置へと進んだのです。十円玉から、お互いの顔へ視線が映ります。


「これ、こっくりさん来てるってことなの?」


 またもや月夜が質問します。今度はみんな注意することなく、首をふって十円玉へ視線を移します。


「わからないわ。でも、今のって、『かくれんぼ』ってことだよね?」

「だと思うわ。でも、かくれんぼっていったいどういうこと? かくれんぼしろってこと?」

「ていうか月夜ちゃん、声出しちゃダメじゃんか。月夜ちゃんが声出すから、こっくりさんも怒ったんじゃないの?」


 六つの視線が、いっせいに月夜に集まります。月夜はブンブンと首をふりました。汗がぽたぽたと机をぬらします。


「そんなことないよ! だってわたし、最初からこっくりさんなんてしちゃダメって反対したじゃん!」


 声を荒げる月夜に、三人が「シーッ」と注意します。月夜が押し黙ると、教室に静寂が戻りました。ときおりパタパタと聞こえてくる気がしますが、四人とも、あえてカーテンのほうは見ないようにします。


「……それで、どうする? このまま続ける?」

「ダメよ、やめるときはちゃんと呪文を唱えないと」

「でも、せっかく十円玉動くしさ、なにか質問してみようよ」


 あぶら汗をかく月夜は無視して、三人はこそこそとないしょ話のように話し合います。その間にも、月夜はうつむいたまま、ぎゅうっと目をつぶって固まっています。そのうちに話がまとまったのでしょう、一人が静かな声で質問します。


「こっくりさん、こっくりさん、明日は晴れますか?」


 『はい』に移動するのか、それとも『いいえ』に移動するのか、三人はワクワクしながら待っていたのですが、十円玉は勢いよく『か』へ向かいました。真っ青になる三人をよそに、そのまま『く』へ、『れ』へ、『ん』へ、そして『ほ』と『゛』へと向かったのです。月夜が「ひぃっ」と短い悲鳴をあげます。


「こ、これ、まずいんじゃないの?」

「なにが起こってるの? ていうか月夜、あんたホントに冗談はやめてよ! 動かしてんの、あんたでしょ!」

「そうよ、なにが『かくれんぼ』よ! 悪い冗談はやめてよ!」


 女の子たちにいっせいに非難されて、月夜は涙目で首を横にふりました。パチンッと甲高い音がして、蛍光灯が一瞬消えます。


「きゃあっ!」

「ダメ、十円玉から手を離しちゃダメよ!」


 月夜が立ち上がったので、三人がいっせいに月夜を制します。すんでのところで指を離さずにこらえましたが、三人とも月夜と同じような血の気の引いた顔になっていました。


「……もう、やめようよ……」


 月夜の言葉に、今度は三人ともうなずきました。そして四人は声をそろえて、最後のおまじないを唱えます。


「……こっくりさん、こっくりさん、どうぞお戻りください」


 十円玉は動きません。


「こっくりさん、こっくりさん、どうぞお戻りください」


 やはり十円玉は動きません。


「こっくりさんこっくりさん、どうぞお戻りください!」


 十円玉はぴくりとも動かなくなってしまいました。


「ねぇ、やっぱり」

「こっくりさんこっくりさんお戻りください!」

「ちょっと待って」

「こっくりさんお戻りください! こっくりさんお戻りください!」

「みんな、落ち着いて」

「戻ってよ! こっくりさん戻ってこっくりさん戻ってこっくりさん戻ってよ!」

「ちょ」

「戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ」

「きゃああああああああっ!」


 ついに耐えられなくなったのか、月夜は十円玉を離してしまったのです。三人が能面のような表情で、月夜を見あげます。


「……こっくりさん……こっくりさん……どうぞお戻りください……」


 ふるえる月夜は無視して、三人は低い声でおまじないを唱えました。十円玉はスーッと、なにごともなかったかのように『はい』の位置へ……は行かずに、今度は『も』の位置へと移動したのです。目をみはる月夜でしたが、三人はまったく表情を変えません。そのまま十円玉は、『う』へ、『い』へ、少し離れてから再び『い』へ、そして『よ』に行って止まったのです。三人は十円玉から指を離しました。


「なにがこっくりさんよ! こんなのうそっぱちよ!」


 突然月夜が机の上に置かれていた五十音が書かれた紙をひったくり、すごい勢いでビリッビリッと破き散らしたのです。さすがの三人も、この迫力に我に返って、それからいっせいに悲鳴をあげました。


「いやああああっ! ちょっと、なにやってんのよ!」

「月夜、落ち着いてよ!」

「怖いわ、もういやよぉ!」


 泣きわめく三人に腕をつかまれて、ぴたりと月夜の動きは止まりました。ビクッとする三人に、月夜はにぃっと笑いかけてからつぶやいたのです。


「……みぃ、つけ、たぁ……」


 その目はまるでキツネのように、細くてずる賢そうな光が宿っていました。

お読みくださいましてありがとうございます。

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[良い点] こっくりさんの雰囲気がリアルなところ。 [一言] 拝読しました。序盤から引き込まれ、あっという間に読み終えました。怖くて面白かったです。こっくりさんは、やっぱりやってはいけないんでしょうね…
[良い点] 可愛くて怖い、怖くて可愛いィィイ!((((;゜Д゜))) [気になる点] バットエンドでしょうか? [一言] とてもドキドキしながら読みました、面白かったです!
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