最終的に死ぬTS娘
書きたいことだけ書いたので、考えるんじゃなくて感じてください。
あとタグ付けは過不足あったら教えてください。
確実に死んだと思った。
強い衝撃。
流れ出る血。
冷えていく指先。
脳裏によぎる家族や友人。
ああ、ここで終わるのかと。
消えていく五感を感じつつ、どこか不思議な安心感に包まれて、俺は―――
しかし俺は今ここに生きている。手術で一命を取り留めた訳でもなく、ましてや一度死んだ後生き返った訳でもない。
転生したのだ。
「なぁ」
全く別の人間として、今を生きている。
「なぁってば」
生き返った訳では無いと言ったが、ある意味では生き返ったと言えるのだろうか?
「おーい」
ふと、そこで目の前で誰かがこちらを覗き込んでいることに気づく。
「あぁ…すまない、少し考え事をしていた」
「ははっ、いつものことじゃんか」
「それも、そうだな…」
彼は健太。沢城健太。私の、幼馴染だ。
今と、今に至るまでの話をしよう。
私は白鳥美雪。前世の記憶がある以外は普通の女子高生。
年齢は17歳、身長は167センチ、誕生日は4月4日、好物はキウイ。
前の出来事があった後、気づけば2歳の幼児になっていた。転生したその瞬間こそ混乱したものの、持ち前の適応力でどうにか落ち着いた。性別も違っていたのに我ながらよく発狂しなかったと思う。
どこかで聞いたお約束の"神様のミスで"とか"チート能力を持って"なんてものは無く、ただ新たな生を得ていた。
まぁそもそも死んだと自分で思っていたのに、記憶を持ってまた新しく生きていける事こそがチートといえばそうかもしれない。
とにかく、俺は死に、私は生まれたのだ。神様もチートも無くても、せっかく貰った命なのだから、素晴らしい生き方をしよう。
最初はそう思っていた。だが、ふと、思ったのだ。
「私は、果たして生きているのか?」と。
身体的に考えれば私は生きているだろう。だが、その中身は俺なのだ。一度確実に死んだ男の、記憶があるだけ。
本来生きるはずだった、白鳥美雪は、その未来は、俺によって死んだ、死んでしまった…いや、殺したのだ。
死んだ人間に殺されるだなんて、小説の話じゃ無いんだから、なんて思わなくもないが。
白鳥美雪が歩むはずだった道程を、その幸せを、悲しみを、あるいはそれで生まれる人間関係を、とっくに死んだ俺が塗りつぶした。これで果たして、私私は生きているのか…
そんな思いを拭いきれず、15年間生きてきたのだ。
そんな私は、昔からよく大人びた、大人しい子だと言われていた。
それも当然だろう。中身は良い大人なのだから、子供らしくというのが分からず、ただ黙って笑っていた。
そんな私は、他の子供達からすればつまらない子だっただろう。明るい元気が無く、強気な主張も無く、ただ周りに合わせるだけ。
幸いにして周りの子達は皆優しく、決して邪険に扱われた訳ではないが、どこかよそよそしさを常に感じていた。
しかし、雪の降るある日。私がいつも通り一歩引いたところから皆を見ていると、話しかけてくる男の子がいた。
「ねぇ、一緒に遊ぼうよ!」
それが、健太との出会いだった。
その出会いから、彼は何かと私に構うようになった。
私としても別に嫌な訳ではなかったから、彼の言うがまま遊んでいた。
ある時は他の子供を巻き込んで、ある時は2人で。
その瞬間は、今思い返してもとても楽しかった。前にも楽しいことはあったが、彼といると不思議と心が温まったのだ。
だが、その"心が温まる"という心情さえ、もしかしたら俺が殺した美雪のものなのではないか。ほんの少し残っている美雪の残滓が感じているものだとしたら―――
そんな考えに蓋をしながら、ずっと彼と遊んでいたのだ。過去の事なんてこれっぽっちも考えないで、とにかく今を楽しみたくて。
俺の、過去から目をそらしたくて。
小学校、中学校から今の高校に至るまで、彼とはずっと同じ学校だった。
つまり幼馴染ってやつだ。このことについて高校入学の時に話したら、彼はどこか照れ臭そうに
「ただの偶然だよ…でも僕は嬉しいけどね」
なんて言っていた。
まぁ私としても友人と同じ学校というのはやはり嬉しいものだ、と返したら
「友人…そ、そうだよね! うん、僕も昔からの友達と同じ学校は嬉しいよ! そう言いたかったんだよ、ハハハ…」
と大げさに身振り手振りを加えながら話した。変な奴だ。
そして、高校入学から1年。
授業中、先生が輪廻転生という考えについて話していた。
その内容を実体験してる身としては特に何か感じるものも無かったが、ふと「前世の俺は本当に死んだのだろうか?」と思った。
指先から冷えていく感覚はまだ覚えているし、確実に死んだとは思うのだが、もしかしたら何とか一命を取り留めているのではないか。俺は生きているのではないか。
授業終了のチャイムが鳴ると同時に、私はスマホで過去の事故について調べ始めた。
幸いというか不幸というか、死んだ時間と場所は覚えている。果たして、件の記事はすぐに見つかった。見出しはこうだ。
「トラックに撥ねられ重傷の男性、一命を取り留める」
放課後、私は学校の屋上で一人寝そべり、夕暮れの空を見上げていた。
俺は生きていた。意識は戻らず、身体もボロボロで、しかし死んではいなかった。
実に良いことだ。人が1人、生き永らえたのだから。
しかしここで、疑問が生じる。
今ここにいる、ここに生きて、ここで考えている
この私は、誰だ?
人とは何を持って人と言うのだろうか。目が二つあって鼻があって耳があって、指は各五本で二足歩行。それなら人間か?
いや違う。と、思う。
記憶だ、あるいは経験と言ってもいい。それこそが人を人たらしめる要因だ。
例えば、どこかのAさんが事故で記憶を失ったとしよう。その後、記憶喪失のAさんに全く違うBさんの記憶を、あたかもAさんの記憶であるかのように聞かせる。
そうしたらどうだろうか。その人物は紛れもなくAさんであるはずなのに、自分はBさんだと思い込み、そのままでいればBさんとして人生を過ごすだろう。
ならば、私は私ではなく俺なのかもしれない。これまでの15年間の人生は、ある意味では嘘であったのかもしれない。
他にも気になることはある。俺の記憶が美雪の中に入ったのなら、もしかしたら美雪の記憶は塗りつぶされたのではなく、入れ替わったのではないか?
俺は今も病院で眠っている、生きているというより死んでいないと言ったほうが合っている姿で横たわっているべきなのでは。
根拠なんて無い、世迷言のような推論だが、なぜかそれを拭いきる事ができなかった。
そんな事を考えていたら、健太に見つかり、冒頭に戻るというわけだ。
「唐突だが、一つ質問していいか?」
「え、美雪から質問だなんて…珍しいね、どうしたの?」
「なに、別に難しいものじゃ…いや、そうでも無いか」
そこで私は一息入れて
「自分って、どうやって定義されるものだと思う?」
そう、隣で寝そべる彼に問いかけた。
「うぅわっ、凄い哲学的。めちゃくちゃ難しいじゃんか」
彼はしばらく考え込んだ後
「う~ん…やっぱりそういうのって一人一人違う考えを持つから、一概にこうって言うのはいないんじゃないかなー」
「そうか…あくまで自らが決めることだと、そう言いたいんだな?」
「まぁ、そうなるかなぁ…?」
「…そうか」
私は目を閉じる。自分で決めること、か。
「…」
「…」
沈黙が辺りを包み込む。もうすぐ春だというのに、今日は随分と冷える。
「…へっくちっ」
思わずくしゃみが出てしまった。
「お、大丈夫か? もう結構暗くなってきたし、もう帰ろうぜ」
「そうだな…そうしようか」
そうして私たちは、荷物を持ち、下駄箱を通って学校から出た。
太陽は、すっかり沈んでいた。
「あ、雪…」
下校の道すがら、ふと降ってくる白い冷たさに気づいた。
「なんとも季節はずれなものだな。厚着をしてきて正解だったか」
「太陽が出てる間は暖かいのにね…」
「本当に不思議な天気だな。雪なんて降らなければいいんだが。雨のほうがマシだ」
思わず愚痴をこぼす。
「そうかな? 僕は好きだよ…雪って」
健太はそういった後、ぷいとそっぽを向いてしまった。耳が赤くなっている、やはり寒いのか。
そう言えば、健太と出会ったのも雪の降る日だったか。
あれからおよそ15年。もうそんなに経つのか。
過去の残滓を見つけて、雪が降る。今日はきっと、夢から、醒める時なのかもしれない。
しばらく歩いていると、T字の分かれ道に差し掛かった。ここで健太とはお別れだ。
「そ、それじゃあ。また明日な!」
「ああ」
それだけ言って、私は振り向かずに家へ向かった。
今、後ろを見たら、決意が鈍りそうだったから。
家に帰ると、どうやら親はいないようだった。
なんとも都合がいい、やはり今日なのだ。
荷物を玄関に置いて、キッチンから包丁を持ち出し、風呂に水を溜める。
返そう、この身体を私に。
俺が死にかけて、私と入れ替わったのだとしたら、逆に私が死にかければ俺と入れ替わるはず。
自分でも分かっている、こんなことはおかしいと。そもそも入れ替わっているかも分からず、仮にそうだとしても死にかければまた入れ替わるなんてなんの根拠も無い、やけくそのような考えだ。
だが、なぜか脳裏によぎったこの考えを、振り切れないでいる。確信なんて全くないのに、これが正しいと本能で分かる。
あるいは、転生をした神様の啓示かもしれない。
…さて、水を溜め終わった。そこに腕を入れる、冷たい。
そして包丁を手首に添える。緊張してきた…だが、これはやらなければいけないことなのだ。
覚悟を決めて
包丁を持った手を
思い切り引いた―――
流れ出る赤。
水に溶ける様は、なんとも言えぬ芸術性があるな…
水の中に入れている手首が熱い、燃えているようだ。
しかし対照的に、それ以外はとても冷たくなっていくのが分かる。
冷えていく指先。
つま先、足首、ふともも
もう全身が凍えそうだ。もうすぐ、もうすぐだ。
だというのに。
脳裏によぎる家族や友人。
今世での親。少ないながらもいた友達。何より唯一無二の親友。
ああ、これで終わるのか。
「…健太」
消えていく五感を感じつつ、どこか不思議な孤独感に包まれて
俺の意識は暗転した―――
副題「哲学系エロゲの幼馴染√BADEND」




