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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔王と黒騎士

作者: 夏川久

初投稿なので温かい目で読んでいただけると幸いです

 魔王城・最上階「玉座の間 」


「奴らが来たようだな……」


 豪奢な玉座に腰掛けた女が呟く。ブロンドの髪の隙間から捻じ曲がった角が生えている。背中には蝙蝠のような翼も見える。彼女は魔王。人族の敵である。


「残っている配下は、お前だけになってしまったな。恐怖で世界を侵略した魔王の軍勢が、今となっては一人の騎士しか残っていないとは」


 魔王は独り言のように呟く。魔王の前には一人の騎士が跪いていた。


 外から城壁を破ろうとする音が聞こえる。


「陛下は私だけではご不満ですか?」


 漆黒の兜の内側から男のくぐもった声が聞こえてくる。禍々しい鎧に身を包んだ黒騎士は魔王軍の最後の一人であった。既に他の魔族達は勇者によって倒されてしまっていた。魔族は魔王と共に十年ほど前に世界に現れた種族であり、人間よりも遥かに高い身体能力を持っているのだが。勇者の力はそれを凌駕していた。


「いかにお前が魔族内最強であっても、勇者共には勝てんよ。あれらは皆特別だ。多対一では万に一つも勝ち目はない」


「加えて神の加護とやらのせいで奴らの攻撃は私にとっては掠っただけでも致命傷になりかねん。強くなった奴らは私などすぐに殺せるだろう。つまりはもう手詰まりだ。貴様は魔族ではない。私と共に死ぬ必要はないのだぞ。死にたくなければとっとと人の国にでも逃げろ」


 魔王は黒騎士に冷たく言い放つ。


 城壁が大きな音を立てて崩れる。その揺れが魔王城にも伝わってきた。


「そのような意地悪なことを仰らないでください。私の役目は陛下を護ることでございます。陛下が勇者を倒せぬと言うのであれば。私が陛下をお護りいたしますよ」


「っ!……無駄死にをするなと言っているのがわからんのか?」


「いいえ、無駄死になどするつもりはありません。私が戦っている間に陛下が逃げてくだされば、私の死は無駄にはなりません」


 黒騎士がそう言った途端、魔王の顔に怒りの色が浮かぶ。


「王たる私に逃げろと言うのか!?敵を前に背を向ける無様を晒せと言うのか!?」


「恐れながら申し上げます。陛下、私は貴女の騎士でございます。誇り高き魔王の黒騎士でございます。ここで貴女を置いて逃げることなどできません。死んでいった同胞に顔向けができません。どうか、最期まで私を貴女の騎士でいさせてください。」


 黒騎士の言葉に、魔王は何も言えなくなってしまう。 

 自分のために死んでいった魔族達。彼らのことを出されると、何も言えなくなってしまう。魔王は強く、強く拳を握った。


 勇者達は既に魔王城の敷地内に侵入している。


 黒騎士は立ち上がり、主人に一礼すると、背を向けて歩き出した。


 魔王はその背中をじっと見つめていた。

 

ーーーーー


 黒騎士は魔王城の通路をゆっくりと歩く。今も尚、魔王城を登ってくる勇者達に向かって。


ーーーーー


(陛下、どうか、どうかお逃げください)


 私は心の中でそう呟いた。陛下は優し過ぎる。自分に逃げるつもりがないから私を死なせるのが忍びないのだろう。それに陛下にとって敵から逃げるのはプライドが許さないのだろう。それでも、魔王としての誇りを汚すことになっても私は陛下に生きて欲しい。


 私は幼い頃に親に捨てられた。その年は冬の始まりが極端に早く食物が十分に育たなかったため飢饉が各地で起こった。私の住んでいた村も例外ではなかった。口減らしのため親に捨てられ、雪の降る森の中を彷徨った。冬の森には食べ物が少ないく、空腹と寒さが体力を奪う。子供だった私はすぐに限界を迎えた。立っていることさえできなくなり雪の上に倒れ込んだ。


 そんな時、美しい声が聞こえた。


『お前はそんなところで何をしているんだ?』


 顔を上げると、目の前に人がいた。幻覚まで見え始めたかと思い目を凝らして眼前の人物の姿を捉えた。私の目は目の前の女性に釘付けになった。真白な世界の中で立つ彼女があまりに美しく目が離せなかった。


『きれい……』


 思わずそんな言葉が口をついて出た。


『ほう。私を綺麗だと言うのか。ふむ。面白い、興味が湧いた。とりあえず城に連れて帰るか。おい、お前名は何という』


『……リット』


『そうか、リット。お前は今日から私のモノだ』


 それが私と魔王の出会いであった。


 彼女に保護された私は魔族の国へとつれてこられた。そこで彼女が魔王であること、人間の国を攻めに行った帰りに私を偶然見つけたのだということを聞かされた。私が住んでいた村も焼き払ったらしかったが私にはどうでも良かった。


 魔王城の一室を与えられて私は彼女と一緒に生活するようになった。 

 最初は魔族の価値観になれなかったが、それは時間が解決していった。暖かい食事と寝床を与えられて、村にいた時よりも良い生活を送った。魔族の暮らしは人間となんら変わらないもので、むしろ魔族達は私が会ったことのあるどんな人間達より優しかった。


 彼女からいろいろなことを教えてもらった。文字の読み書き、算術、魔法は使えなかったが、彼女から何かを教えてもらうのは楽しかった。


 悪戯をして怒られたこともあった。魔王城の武器庫に入り込んで剣で遊んでいたら拳骨を落とされた。

その後お説教も食らった。怒った彼女はとても怖かったが、私を心配して叱ってくれているのが伝わってきて。温かい気持ちになった。

 

 彼女と過ごすのは楽しかった。ただ、彼女はよく戦争で城を離れるときがあったので、そういうときは寂しくて仕方なかった。


 ある時、彼女に何故私を助けてくれたのか訊ねた。彼女が言うには人間は魔王や魔族に対しては無条件で嫌悪感を感じるのだという。しかし、私が彼女をきれいだと言った。それが興味深くてここまで連れてきたのだという。


『私を美しいと感じる人間がお前以外にもいたら会ってみたいものだな』


 彼女が何気なく言った言葉に、私の心はズキリと痛んだ。痛みの理由はわからなかった。


 その当時はまだ人間達と魔族達の力は拮抗していた。魔族達も自分たちが人間に滅ぼされることはないだろうと思っていた。


 その矢先。勇者が誕生した。


 勇者と交戦した魔王は魔族達に


『勇者達は神の加護を持っていた。私を含む魔族に対して強い力を発揮する。その証拠に私の力を持ってしても奴らを殺しきることができなかった。今はまだ雑魚もいいところだが、勇者達は成長していく。神の加護で老いることはなく、戦いを経るごとに強くなり、いずれその強さは私を超え、私を殺しにくるだろう』


 とそう語った。


 幼かった私は彼女が死ぬということを聞いて思わず泣いてしまった。自分を救ってくれて、居場所をくれた優しい彼女がなぜ死ななければならないのかと思った。その時泣きじゃくる私に彼女は苦笑しながらこう言った。


『そんなに私が死ぬのが嫌なら、お前が護ってくれ』


 その言葉を聞いた時私は決意した。彼女を護れるようになろうと。


 魔族達から戦いを学び。毎日毎日剣を振った。どんなに苦しくても、彼女のためだと思うと耐えられた。三年経つと魔族達と同等に戦えるようになった。七年経つと魔族達の誰よりも強くなった。強くなった私に彼女は黒い剣と鎧兜を与え、滅多に呼ばない私の名前を呼んでこう言った。


『リット、私の騎士になってくれるか?』


『謹んでお受けいたします』


 そして私は彼女の騎士になった。


 幾度も勇者と戦い、退けた。装備の色から黒騎士と呼ばれるようになった。人間は私を魔王軍の恐怖の象徴にしていた。魔族達からは魔王軍の英雄と認識されるようになった。沢山の魔族達から褒められた。しかし、彼女がくれる『よくやった』という言葉が私は何より嬉しかった。


 私は彼女を親のように思っていたのだろう。


 それから数年が経った。沢山の同胞が斃れた。徐々に魔族達は戦力を削がれ。数日前に魔族側は私と彼女の二人だけになってしまった。


 魔族達には申し訳ないが、私はそれが少しだけ嬉しかった。


ーーーーー


 黒騎士は追憶を止め、魔王城のエントランスへ降り立った。すると下の階に通じる扉が勢いよく開かれ四人の勇者が姿を現した。


「黒騎士、今日こそお前を倒して俺たちは魔王の元へ行く!」


 勇者の一人がそう叫ぶ。黒騎士は腰の剣を抜き勇者達に向かって構える。


「貴様らはここから先へは行かせない。今日こそ貴様らの息の根を止めてやろう」


「いくぞ!黒騎士!」


 剣を持った勇者が人間離れした速度で黒騎士へと迫る。その後ろでは別の二人の勇者が魔法を唱えていた。一人は支援魔法、もう一人は攻撃魔法。剣の勇者とニ、三合打ち合う。以前より力が強く剣速も速い。


(恐ろしい成長速度だ、たった一ヶ月でこうも変わるか!)


 内心驚きつつ、黒騎士は隙を見て剣を振るう。

 背中に殺気を感じた黒騎士が横へ飛ぶと、いつの間に姿を消していた四人目の勇者が短剣を振り下ろしていた。

 間一髪躱した黒騎士だったが、飛んできた雷の魔法を避け損ねてしまう。鎧の魔法耐性を貫き黒騎士の身体に確かなダメージが入る。

 姿勢を崩した黒騎士に、支援魔法で強化された剣の勇者の斬撃が迫る。身を捩って躱すと距離を取るために後ろへ大きく飛んだ。

 剣を構え直す。黒騎士は籠手に大きな亀裂が入っているのに気づいた。


(もう少しで腕を斬られるところだったか)


 勇者達は個々の能力もさることながら、連携も巧みになっていた。このままではまずい、そんな風に思ってしまった自分に黒騎士は喝を入れる。


(ここを通せば、彼女が殺される。それだけは、なんとしてでも避けなければならない。私は騎士だ、彼女の騎士なのだ!)


 黒騎士の闘気が膨れ上がる。勇者達はそれに一瞬驚くが、すぐに攻撃を始めた。


 横薙ぎに振られた剣を屈んで躱し、勇者の胴に突きを放つ。鎧に阻まれるが、衝撃で剣の勇者を吹き飛ばした。後ろから首を狙って振るわれた短剣を掴み、それを握っている勇者ごと、魔法の勇者へと投げつける。二人の勇者は一緒になって壁際まで転がっていった。支援の勇者へ迫り剣を振り下ろそうとしたところで。回復した剣の勇者が、それを阻む。剣と剣がぶつかり合い火花が散る。お互いに大きく後ろへ跳び、睨み合った。


(たった一人で、俺たち四人と互角に渡り合うなんて………化物め!)


 剣の勇者は戦慄していた。何度も黒騎士とは戦った。何度も負けたが自分達はかなり強くなったと思っていた。魔族に成長はない。寿命がなく不変の身体をまた彼らは弱体化もしないが強くなれもしないのだ。しかし、目の前の敵は違う。戦う度に自分達と同じように強かなっている。こいつは他の魔族とは決定的に何かが違う。もしかしたら…


 そこまで考えて、剣の勇者は思考を止めた。それ以上考えてしまえば剣筋が、鈍ってしまいそうだから。


 転がっていた二人の勇者が戦線に戻り、戦いは仕切り直しとなった。勇者達は顔を見合わせ頷いた。


(何か来る……!)


 黒騎士が何かを感じ取ったその瞬間。勇者達を中心に光が爆ぜた。


ーーーーー


 勇者が神々しい光を纏っている。


(さっきよりも強くなっている)


 警戒しながら観察していると剣の勇者が口を開いた。


「これは魔王との戦いまで取っておこうと思っていた力だ。黒騎士、お前ならわかるだろう。加護の力を纏った俺たちが、さっきより格段に強くなったことが。お前は俺たちにはもう勝てない。無駄な争いはやめよう。そこを退くんだ」


「ふざけたことをぬかすな。私が貴様らに勝てないだと?驕るなよ、勇者共。与えられた力だけに頼っているような貴様らになど負けはせん!」


「そうか……」


 奴らはきっと気づき始めている。私が人間であるということに。だから、そこを退けなどと甘いことを言うのだろう。だが……殺されるまで私は退かない。


 剣を強く握る。脚に力を込め、強く地面を蹴った。厄介な支援魔法を止めるため、支援の勇者へ接近する。視界の端に剣が映った。


(まずい……!)


 次の瞬間私の左腕が宙を舞っていた。


「ぐぅぅっっ!」


 焼けるような痛みが腕があった場所から流れ込む。勇者達から距離を取り、斬られた場所を見ると、上腕の中ほどから先が無くなっていた。


(こんなに変わるものだとは……!)


 経験したことのない痛みが思考を埋め尽くし、飛来した巨大な炎弾を躱し損ねる。全身が焼かれ、鎧の一部が溶けている。左腕の断面も焦げて出血が止まっている。


 高速で接近してくる短剣の勇者が短剣を投げた。今までとは違う攻撃方法に対処が遅れ、右目に短剣が突き刺さる。ドロっとした液体が頬を伝うのを感じた。


「がぁぁぁぁあぁぁあ!!!」


 痛みに絶叫する。気がつくと剣の勇者が私の胴目掛けて剣を薙いでいた。鎧が砕け、壁まで飛ばされる。

あまりの痛みと衝撃に身体が動かない。人間の脆い身体をかつてないほどに恨んだ。


(意識が……もう………)


ーーーーー


 勇者達は壁に叩きつけられて動かなくなった黒騎士を見つめていた。動かないことを確認すると加護の力を解いた。


「あいつ、人間……だよな?」


 短剣の勇者が仲間達に訊ねる。


「間違いないだろう。俺達と同じように戦う度に強くなっていたし、魔族と比べて頑丈じゃない……」


「でも、一体どうして、人間が魔王に味方しているのかしら……」


「魔王に、騙されていたのかれませんね………」


「そんな……酷い……」


剣の勇者が答え。魔法、支援の勇者が苦しそうに言う。


「やっぱり、魔王は最悪の野郎だぜ……」


「ああ、必ず倒さなければならないな」


 勇者達は改めて魔王討伐を決意し先は進もうと足を踏み出した。


ーーーーー


 あぁ、寒い……身体が凍っているようだ……


 寒いとあの時のことを思い出す


 薄れゆく意識の中で美しい魔王(女性)を見た時のことを


 あの時は、美しいなんて思っていなかったかもしれない


 私は幼過ぎて、あの頃はそんなふうに思ってなかったかもしれない


 ただなんとなく彼女が綺麗だとそう思っただけかもしれない

 

 今はどうだろう


 私の想いはどこにあるんだろう


 この想いに名前をつけるとしたら


 きっとそれは……

ーーーーー


 黒騎士が壁から飛びだす。勇者達は慌てて加護を発動させる。黒騎士は剣を拾い勇者達へ向かって走り出した。


ーーーーー


 そうだ、これは恋だ


 幼い私が感じてからずっと無視していたこの感情は


 あぁ、そうか、私は彼女に恋をしていたんだ


 成長しても誰かを好きになることなんてなかった


 当然だ


 最初から一人しか見てなかったのだから


 あの雪の舞う森の中


 あの酷く冷たい世界で


 彼女の暖かさに触れた時から


 私は恋をしていたのだ


 自覚するのに何年もかかってしまった


 親のように思ってるだなんて嘘をついて


 何年も無視してしまっていた


 この気持ちを押さえ込むのはもうやめよう


 私は魔王(彼女)が好きだ


 愛している


 誰よりも大切で


 誰よりも特別な人


 彼女をこの腕で抱きしめたい


 彼女を深く感じていたい


 陛下


 この浅ましい恋心を


 どうか許してください


 伝えたいわけではないのです


 応えて欲しいわけではないのです


 ただ、この気持ちがあれば私はもう少し頑張れそうなのです


 だから今だけは


 命尽きるまでのこの短い間だけは


 貴女を愛する一人の男でいることを許してください


 愛する貴女のためなら、私はまだ戦える!


 剣を振れ!


 脚を動かせ!


 愛する貴女を護るためなら、私はなんだってできる!


ーーーーー


 男は剣を振るう。その度に反撃を受けて身体に傷を負っていく。それでも彼は止まらない。鎧兜は砕け、男は生身で剣を振るう。剣で斬りつけられても、魔法でその身を焼かれても、彼の剣は敵を斬ろうとする。


 神の加護が男の攻撃を阻む。人の身では決して敵わない神の力に男は一つの想いだけで挑む。


斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って


 ついに男の想いが神の加護を貫いた

 勇者達の身体に刃が届く

 鮮血が散る

 悲鳴が上がる

 斬撃は止まらない


 男は騎士ではなくなった

 愛する者を護る一人の男になった

 狂気染みた執念で

 決して綺麗とは言えない恋心で

 壊れた肉体を動かしながら

 ただ剣を振り続ける

 敵を退けるまで


ーーーーー


 勇者達は目の前の男にただただ恐怖した。

 全身を焼かれ、片腕を失い、右目が潰された。そんな状態にもかかわらず圧倒的に強くなっている。人には決して破れぬはずの加護の力を突き破って攻撃を仕掛けてくる。どんなに反撃しても怯まない、退かない。勇者達に久しく忘れていた感情が湧き上がってきた。


(怖い……!)


 力を手に入れてからずっと忘れていた感情。勇気ある者が本来打ち勝たなければならないその感情が、彼らの心を支配していく。

 勇者達はパニックになりながら転移魔法を発動した。貴重な道具を使用するその魔法はたった一度しか使えない本来なら魔王討伐からの帰還用に使われるはずの魔法だった。人間の国に帰った彼らはすぐには魔王城に戻って来られない。

 男はたった一人で勇者四人を退け。魔王を護ってみせた


ーーーーー


 魔王城の最上階で一人の男の命が尽きようとしていた。

 魔王は傷だらけの彼の上半身を抱えて彼の顔を見つめていた。

 

「へ…いか……?」


 男が意識を取り戻し、魔王へ呼びかける。


「ああ、ここにいるぞ」


 魔王は優しく彼に語りかける。


「へいか……ずっと……ずっとあなたがすきでした」


 男は涙を流しながら魔王へ告げる。


「馬鹿め…気づいていたさ……お前はずっと隠しているつもりだったようだがな……」


 目を見ればわかったと魔王は言う。

 彼女も涙を流していた。


「へいか……わたしはあなたのやさしいところが……だいすきです。あいしています……へいか」


「お前が好きな私の優しさは、お前がくれたものだ。森でお前を拾ったときから、誰かをと一緒にいることの楽しさや、誰かを大切に思う心をお前に教えてもらった。」


「お前は私に色んな気持ちを教えてくれた。私の心はお前からもらったものばかりでできているのだ。お前がいなくなってしまったら、私の心は壊れてしまう。だから私の最期はお前と一緒がいい。お前からもらった大事な心と、大好きなお前と一緒に死にたいのだ」


 魔王は男の頬に手を当てて微笑んだ。


「なあ、リット。私と共に死んでくれるか?」


「ああ……………もちろんです……へいか……………わたしは……いま…………とても……………しあわせ……で……す」


 男は弱々しく笑った。


 魔王と男は暫く互いの顔を眺めていた。


 魔王が自らの周囲に火を放つ。


 煌々と燃える炎が玉座の間に一瞬で燃え広がった。


 魔王は愛おしそうに男を抱きしめ


 二人は炎に飲まれていった。



 

 

 

 

 


 

 

読んでいただきありがとうございました

ヽ(*´∀`)

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― 新着の感想 ―
[一言] ああヤンデレっぽいのは男の方なのね読んで損したわ キーワードに入れとけ
2020/09/08 02:28 どんぶらこ
[良い点] 面白かったです、もし別の作品があるならば読んでみたいです。 [一言] 最後らへんはウルっと来てしまいました。 初めてにしては文章力凄いですね、これから何か書くのならば応援します。 このよ…
感想一覧
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