転生したら酒だった
「うーし、お仕事終わりー」
俺は物主大上、22歳の新人サラリーマン。
現在18時、仕事が終わって今から帰るところだ。
(ハァー、お金稼ぐのって大変だなぁ)
社会に出てからこってり絞られた。だがまあなんとかなっている、と言ったところか。
(それはそれ、諦めてっと)
今日は俺の誕生日。いつも頑張っている自分にご褒美をと思い、ちょっと良いお酒を買いにお店へ。
「お、これなんかうまそうだな。えーと、イチ、ジュウ、ヒャク、セン、……マン!」
た、たけえ。いつも飲むお酒の百倍はするな。
「なにかお探しでしょうか?」
おぉう、店員さんもびっちりキメている。ウチの近所の酒屋さんなんて常にジャージだぞ。
「これを」
「おお、これはお目が高い。実は――」
「へえ、そうなんですね」
「ですからこれもいかがでしょうか? 是非飲み比べを」
「買います!」
ハッ! 思わず買わされてしまった。口がうまいなぁ。近所の酒屋さんをバカにしたバチが当たったかな? ごめんなさい。
なにはともあれお酒を買って家へ。
「スパークリングワイン。家じゃあんまり飲まないな」
「えーっと、このコルクを取らないと」
「ズドン!」
勢いよくコルク栓が抜けた。と、同時に頭部に痛みが。
(コルクが頭にあたったか。痛いけどまあ、って意識がなくなってきた!)
その場に倒れ意識を失う俺。次に目を覚ましたのは暗闇の中。
(どこだ? ここは)
「おう、エールの樽持ってきてくれー」
「あいよー」
外から声が聞こえた。エールってお酒だっけ? あんまり聞かないけど。
「置いとくぜ」
「ありがと」
「エール、ジョッキで6杯ー」
「はいよ」
「ジャー、キュ。シュワー」
酒がジョッキに注がれる音と同時に俺も外へ。上部が明るく感じた。
上を見上げると忙しそうにしている人が居た。
(これってもしかして)
「エール!」
「おう」
(俺がエールになったってこと!?)
見ることは出来る。しかし、身体はないようだ。そうだ、話せるかな?
「おまち! エールと蜂蜜酒ね!」
「フィー、来た来た! さーって飲もう!」
女の子が俺を飲もうとしている。いかん!
『ちょっとまった!』
「ん?」
やった、声は出せた。女の子は周りを見渡している。
『こっちだよ。お酒だよ』
「ええ?」
『やあ』
ふぅ、危機一髪。なんとか意思疎通ができそうだ。
「あぁ、疲れているのかな。お酒が話しかけてくるなんて……」
「よーし! 飲んじゃえばいいか! イッタダッキマース!」
うおー!? 意思疎通不可!
「ゴクゴクゴク」
彼女に飲まれる俺。これってやっぱり死ぬってことだよな? はぁ、儚い人生だった。まあ最後に女の子の中で果てるなんてある意味最高だな。
「プハー! やっぱお酒は良いね!」
飲みきった女の子。だんだん意識が薄れてきた。彼女の中で俺は逝く!
こうして、俺の酒物語は終りを迎えた。
と思ったが、また意識が戻る。あ、さっき彼女が注文した蜂蜜酒の方に移っているのかな。まあもう一回コンタクトを取ってみよう。
『やあ』
「えー、今度は蜂蜜酒から」
『聞いてくれ。俺は元人間なんだが何故かお酒になってしまったようなんだ』
「どうやら本当に聞こえているみたいだね」
『わかってくれたか!』
「元人間? そういう不思議系は私の専門じゃないなぁ」
「ノナならなにか知ってるかなぁ。友達で錬金術師なんだけどね」
『そうか。もし俺についてなにかわかるのであればそれはそれで助かる』
「じゃあ連れてってあげるよ。ああ、私はコハク。あなたは?」
『オオカミだ』
彼女は俺を水筒に入れた。
「向こうで飲みなおしかな~。店員さーん。エールと蜂蜜酒、お持ち帰りでー」
「はいよ!」
俺とエールと蜂蜜酒を持ち、彼女は店の外へ。
その足で年季の入った一軒家へ。
「着いた」
「ノナー、いるー?」
「コハクじゃない? どうしたの、こんな時間に」
「実はね」
俺が入った水筒を持ち上げるコハク。
『酒になってしまった元人間のオオカミだ』
「酔っ払ってるの?」
『いあ、本物だよ』
「……」
「なーにこれ」
「いやー、なんだか困ってそうだったから連れてきちゃった。ノナならなんとか出来るかもって思って」
「そ、そう」
「んでもマンドラゴラとかいるんだし多少はね?」
「しゃべるお酒は初めてね……」
「まあ、いいわ。入って」
「はーい」
『はーい』
その後、彼女がいろいろ調べてくれた。
◯飲み切ると他のお酒に転生する。お酒の種類は問わず。
◯俺以外の酒が100メートル以内にない場合、固形化する。その際とても頑丈になるようで、適当な物理攻撃、魔法は一切効かなかった。
◯ポーションが作れる。連続で作成はできない。詳しいクールタイムは不明。1回の作成でミニポーション10個分。1個分までなら俺の意識はミニポーションに残り続ける。使い切るとまたお酒へ。
今はこんなところか。
「凄いわ、ミニポーションが一瞬で!」
アルコールを入れたビーカーに材料を入れ転生するとそのビーカーへ。と、同時に水がミニポーションへと変化する。
「そんなにすごいの?」
「アイテム制作って結構時間かかるのよ」
「ポーションにお酒が使われているから出来るのかな?」
「多分そうね」
『はー、人間に戻れるのかな~』
「なんとも言えないけど、せっかくだから人生楽しむべきだと思うわ」
『そーだな』
最終目標は人間になることかな。
こうして俺の奇妙なお酒生活が始まった。