IFの未来(6%): 隣にいるのは誰?
一話の話としては過去最長です
そして人によってはアレルギーが出るかもしれないぜルート
時計の針が午後3時を指し示すころ、俺は自宅であるマンションで乾燥が終わった洗濯物をカゴに入れながら2人の子どもにまとわりつかれていた。
「ねーねー、赤おじちゃん遊ぼうよー」
「そうだよ遊ぼうよー!」
「洗濯ものを畳んだらな。ちょっと待っててくれ」
洗濯カゴを抱えて歩く俺の腰にしがみつく小さな2人を蹴飛ばしたりしないよう、気をつけながらリビングまで移動してカーペットの上に座る。そこまでの量じゃないので普通にやれば5分そこそこで終わるはずだが、背中や肩にのしかかってくる2人を何とかしないと長引きそうだ。
「おじちゃん、まだー?」
「まだー?」
「今始めたばっかりだっつーの……あー、真理と真人が手伝ってくれたら早く終わるんだけどなー。今日は2人が好きなアレをやろうと思ってるんだけどなー」
ワザとらしい棒読みで喋りながら事前に用意しておいたソレを指さすと、2人は目をキラキラ光らせて飛びついてきた。
「ホント!?おじちゃん、太鼓の親方やっていいの!?」
「こわれたんじゃないの!?」
「直したんだよ……さて、よいこの真理と真人はお手伝いしてくれるかな?」
「「する!!」」
元気に手を上げて答える2人に笑いが漏れる。2人は前来た時に和太鼓型コントローラーを使用するシンプルな音ゲーである【太鼓の親方】を大層気に入ったが、気に入りすぎてヒートアップした結果として和太鼓型コントローラーを壊してしまいそれはもうショボくれて帰ったものだ。
俺が子どものころですら既に年代物だったので壊れたこと自体は仕方ないと受け入れたが、真理と真人があまりにも名残惜しそうにしていたものだからチョイと頑張って修理した。このゲームが発売されてから何世代を経たのか分からないレベルだったので部品を手に入れるのはメチャクチャ苦労したけど、2人の笑顔を見ればやった甲斐はあったというもんだ。
「いい子だ。そしたら真理は靴下を集めて同じものをくっつけてくれ。真人はおじちゃんが畳んだものを言ったとおりに分けて置いてくれ。できるか?」
「「できるー!」」
「よし、じゃあ力を合わせて洗濯物をやっつけるぞ!」
「「おー!!」」
子どもながらに一生懸命お手伝いする真理と真人。この双子のことは生まれた時から知っているし、こうしてウチに来て遊ばせることも多い。だから2人の顔もすっかり見慣れたものなのだが、やはりこうして見るとえげつないほどに可愛らしい。
整った顔、などという表現では生温い。まだ5歳だというのにもはや完成されたと言ってもいい容姿。実際2人はキッズモデルとして絶大な人気を博しているし、子役としてデビューしないかという話も数えきれないくらい来ているらしい。
父親は今日まで三週間続く仕事だし、母親は子どもたちの仕事のことで数時間だけだが外せない用事があるとのことで昼前から俺が預かっているのだ。今日は旦那の方も早く帰れるそうだし、せっかくだから晩飯はウチで食う予定。
「おっと、真理と真人が手伝ってくれたからもう洗濯物をやっつけることができたな」
「じゃあ太鼓の親方やっていい!?」
「やっていい!?」
「もちろん。だけどな、腹が減っては戦はできぬと言う。つまり思いっきり遊ぶ前にはおやつでエネルギー補給だ。おばちゃんがプリン作ってくれてるから、おじちゃんが洗濯物をしまって来るまでプリンタイムしていてくれるか?」
「プリン!?マリ、おばちゃんのプリン大好き!」
「ぼくも!ぼくもおばちゃんのプリン大好き!」
言うが早いかダイニングのテーブルに座った2人がプリン!プリン!とウキウキで合唱し始めたので冷蔵庫から取り出した手作りプリンにスプーンを添えて給仕してやる。
プリンという3文字は子どもにとって魔法の言葉。これを使うだけでかなりの精度で子どもの行動をコントロールできるぞ。ただしやりすぎると親の方に甘やかすなと叱られるトラップがあるので気をつけような!
大丈夫だとは思うが少し急ぎ気味で畳んだ洗濯物をタンスにしまいダイニングに戻る。真理も真人もしっかりしているし今までも危ないことはほとんどしてこなかったけど、それは2人から目を離していい理由にはならない。
「プリンは堪能したか?」
「たんのーした!」
「おいしかった!」
あっという間に空になった容器を前にしてご満悦の2人。本当に無邪気で可愛い子たちだ。この子たちを価値の高い商品としか見ていないカスな大人がいるというのだから世の中は狂っている。
少なくとも俺の前ではそんな汚れた世界を気にしなくていいようにしてやりたい。俺もまた三十代も半ばを迎えて子を持つ親になったからこそそう強く思う。
テーブルから移動してモニターの前に陣取って和太鼓型コントローラーを楽しそうにどつきまわす真理と真人がキャッキャと笑う声が部屋に響く。楽しそうなのはいいがもうちょっとこう、手心と言うか何と言うか……次壊れたら多分もう直せないからな。
「赤おじちゃん、アレやってアレ!」
「2ついっぺんに叩くやつー!」
「アレ結構しんどいんだぞ……わかったわかった、バチを貸してくれ」
断ろうとしたら絵に描いたような膨れっ面をされたので折れた。しょうがないなと真人からバチを借りようとしたら真理からも笑顔でバチを突き出されたので両方から1本ずつ受け取っておく。
さてこのゲーム、両手で同時に叩けというノーツが流れてくるが実際は片手で叩いても問題ない。なので片手でクリアできる譜面なら2人モードを1人でやろうが変わらないワケだ。まあ疲労の蓄積は倍では効かないし、2人モードだと譜面が変わる楽曲も多いから一概には言えないが。
難易度が一番低いやつなら二面打ちでもアクビが出るほど簡単だからそれでもいいのだけど、いわゆるスーパープレイを期待されているのにそれではあまりにも不誠実。ゲーム上手のおじさんとしてのメンツとプライドが許さない。
今の子でも知っているであろう国民的アニメの主題歌を最高難易度で行く。最高難易度とはいえ元が子どもがプレイすることを念頭に入れた曲だから、本当に難しい曲と比べたら二面打ちを考慮に入れてもこっちの方が楽かもしれない。でも失敗するのも許されないからこれくらいで勘弁してくれ。
「うぉぉおおお……!!」
「赤おじちゃんすごーい!」
「すごい、すごーい!」
必死になってノーツと格闘すること約2分。なんとかフルコンボを達成できたことに安堵する。子どもと遊ぶために体力づくりは欠かしていないからスタミナ的にはそこまで辛くないものの、どうしても三十代も半ばになって反射神経が鈍ってきている。
世の中のじーさんばーさんたちがフルダイブVRにハマる理由がわかるわ。無限の体力と思考とのラグなしで動く身体が手に入るんなら、重ねた齢は弱点じゃなくて経験という名の武器になる。まあ思考力自体が落ちてくるのはどうしようもないけど。
じゃれついてくる真理の頭を撫でながら一仕事やり終えた達成感に浸っていると玄関の方でガチャガチャと音がする。おや、もう帰ってきたのか。
「たっだいまー!……あ、マリとマサトだ!」
「ゆーごくん、おかえり!」
「ゆーごくんも太鼓の親方しよー!」
「おう、おれもやる!」
「お帰り優吾。外から帰ってきたらゲームより先にやることがあるんじゃないか?」
バタバタとリビングに駆け込み双子とワイワイはしゃぎだした我が息子にストップをかける。顔立ちはともかくあまりにも元気すぎるところは間違いなく母親似だ。
「手洗いとうがい!」
「よし。じゃあ行ってこい」
「らじゃー!」
多少やかましいところはあるけれど素直なのはいいことだ。真理と真人より一歳年上の優吾は小学校に入ってほぼ一年、怪我も病気もなく健康に成長してくれるのは親としてとても嬉しい。
しかしあれだけ元気に走り回ってるのに暇さえあれば俺が親父から受け継いだレトロゲーコレクションを漁っているのはさすが赤石家の男子と言うべきか。俺の親父はすごい喜んでいたが優芽は先行きが不安だって目を細めてたな。
「ただいま、信吾さん。あれ、優吾は?」
「お邪魔します」
腕に赤ん坊を抱いた愛すべき俺の奥さんと、その後ろで両肩にカバンをかけて持つ女性。立ち上がり、外出の装いを解いてもらうために赤ん坊を受け取る。
「おかえり、杏。優吾は手ぇ洗いに行ってるよ。陽介の検査お疲れ様」
「優吾がいろいろと頑張ってくれて助かっちゃった。もうすっかりお兄ちゃんだね」
ふふっと笑う杏の表情は慈愛に満ちていた。杏が高校卒業と同時に俺に告白してきた時は俺はもう27歳になろうかという頃だったのでビビリまくったが、あの時に杏の思いを受け止めて本当に良かった。
お義父さんとお義母さんに筋を通しに行ったときはマジで死ぬと思ったけど、意外なことにすんなりと受け入れられた。年下の義姉となった萌さんに後で聞いたら、杏は俺と初めて会ったころから事あるごとに俺の話を家族にしていたので、杏が俺を好きなことはずっと承知だったらしい。
杏は身長こそ俺の顎くらいまでしか伸びなかったけどしっかり者で料理上手、そして可愛らしい大人の女性になった。彼女と一緒になれた俺は幸せ者だ。職場の人たちが奥さんの愚痴を言うことが俺には信じられない、あいつら『家にいるより職場の方が気が楽』とか言うんだぞ?俺はできうる限り妻子とともに居たい。
「きーちゃんも一緒に来たんだな。荷物を持ってくれたみたいでありがとう」
「ええ、ちょうどエントランスで会いまして。荷物はここに来るまで優吾君が持っていたんですよ。それはそうとして真理と真人はいい子にしてましたか?」
「もちろん。洗濯物を畳む手伝いもしてくれたもんな?」
「そうだよ、お手伝いしたもん」
「ママ、赤おじちゃんが太鼓の親方なおしてくれてた!」
「そう、よかったね。お手伝いもちゃんとしたみたいで偉いわ」
ふわりと柔らかな表情を浮かべるきーちゃんは結婚して母親になったことで学生のころとはまた別の美人になった。旦那を迎えに行けばその業界の人たちですら一瞬言葉を失うほどの美貌のため、勧誘がウザすぎて子どもたちと一緒に1年前から旦那と同じ事務所に所属。基本的に家庭を優先するという条件の下で美人すぎるママさんモデルとして活動している。
旦那と結婚する頃から色々あって業界の人には驚くほど塩対応だけど、母としては愛情たっぷりで子どもに接している。ウチの優吾も実の子みたいに可愛がってくれるしな。
「手洗いうがいしてきた!マリ、マサト、太鼓の親方やろう!」
「「うん!」」
洗面所から戻ってきた優吾が双子に混ざって遊び始める。物心つく前から頻繁に会って遊んでいるからかとにかくこの子らは仲がいい。今日も優吾は弟の検査についていくか真理&真人と遊ぶかでギリギリまで悩んでいたものだ。
俺の腕の中でウトウトしている陽介がもう少し大きくなってあの子たちと一緒に遊ぶには少し年が離れすぎているだろうか。まあ友達は親に与えられるものじゃなくて自分で作るものだから俺からどうこう言うつもりはないが。偉そうに言えるような子ども時代でもなかったしな。
「信吾さん、陽介はこっちに任せて子どもたちと遊んであげたら?」
「さっき派手なパフォーマンスをしたから休憩中なんだ。あの子たちもしばらくは子ども同士で遊びたいだろうしな。まあ、子どもたちが退屈し始めたら出動するよ」
「じゃあ今のうちに晩ごはんの下ごしらえしちゃおうかな。きぃ姉さん、旦那さんはいつくらいに来れそうなんですか?」
「もうそろそろ仕事場を出るってメッセージが入ってたから、一時間もしないうちに来ると思うよ。お料理、私も手伝うね杏ちゃん」
子どもたちが元気に遊び、奥さんたちが料理している風景を赤ん坊を抱いてソファから眺める……実に心が満たされる。この光景を守るために平日は人外になる仕事してるんだよなぁ。
「赤おじちゃん、よーすけくんだっこしていい?」
優吾と真理がプレイしていて暇になった真人が陽介に構いに来た。もう半年経って首もとっくに座ったから俺が目を離さなければ任せてもいいのだが……よし。
「真人、ここにおいで」
ソファから降りて胡坐をかいて座り、その上に真人を招く。真人もよし来たとばかりに俺の腹に背を預けて座り、広げた両手の上に陽介をゆっくりと置いてやる。この体勢なら俺が真人ごと抱えてやれるから陽介を落としてしまう心配もない。
「よーすけくん、かわいいね」
「当然だ。杏と俺の息子だからな」
人の容姿を数値で表すなら真人や真理の方が上なのは客観的に見て間違いないが、俺は全力で我が子を親のひいき目で見ることを躊躇わないので優吾も陽介も世界で一位タイに可愛いと断言する。
「ぼくもお兄ちゃんか弟がほしいなぁ……」
「なに言ってんだマサト。お兄ちゃんならおれがいるし、弟なら陽介がいるだろ」
「ゆーごくん」
交代なのか、いつの間にか近くに来ていた優吾がバチを真人に向けながら言った。そのあまりにも主人公みたいなセリフにお父さん涙が出そうだ。
「マリもゆーごくんの妹でよーすけくんのお姉ちゃんだもん!」
「うん、おれたちは兄妹だ!」
素晴らしきは子どもたちの友情と親愛よ。尊すぎて全身の老廃物が浄化されるかのようだ……改めて覚悟を決めた、俺はこの子たちのためなら命すら惜しくはない。
その後しばらくみんなで陽介を構い倒したり太鼓を叩きまくったり、しがみつく子を腕からぶら下げたり肩車したりしているとインターホンが鳴った。
「はい、赤石です……はい、どうぞ!」
「ウチの旦那だった?」
「はい。お土産いっぱい買ってきたそうですよ」
「三週間かけて海外を転々としながら撮影だろ?アイツもお疲れだな」
「顔で生きているんですから今のうちにしっかり稼いでもらわないと困ります」
憎まれ口を叩いているがその顔は優しい。何のかんのと言っていても三週間ぶりに会えるのは嬉しいんだな。仮に俺が三週間も仕事で家族と離れることになったとしたら帰宅日は全力ダッシュ間違いなしだろう。きっとアイツも今はエレベーターの中で一秒でもいいから早く動けと思っているはずだ。
「真理、真人。もうすぐパパが帰ってくるって」
「「ほんと!?」」
「本当よ。さ、ママと玄関で待ち伏せしてパパをビックリさせようか」
「うん!」
「ママ、いこ!」
双子に左右から手を引かれてきーちゃんが玄関へと歩いていく。アイツも愛されてるなぁ、まあアイツ自身も妻子にダダ甘だし。ウチの子にも同じくらい甘いが。
そして数分が経った頃、二回目のインターホンが鳴ったと思ったら玄関から賑やかな声が聞こえてくる。そしてその声がだんだんと俺たちのいるリビングの方へと近づいてきて……
「やあ赤石家のみんな、ただいま!優吾君、陽介君、青おじさんだよ!ほら、ヨーロッパで買ってきたお土産がたくさんあるからねー!」
紙袋を死ぬほど両手にぶら下げたサングラスにコート姿の爽やかな不審者としか形容できない我が親友、青山春人が現れそのまま優吾にアホみたいな量のお土産を渡し始めた。後で中身を確認しないと、コイツ優吾の小学校入学祝いにってとんでもないもの渡してきやがったからな。あれは少なくとも10年は金庫で塩漬けだ。
「お帰り、青。ちゃんと節度を守ったお土産なんだろうな?」
「心配しないでよ、赤。僕だってそこまで考えなしじゃないとも」
「その割には袋に描かれているロゴは聞いたことのあるブランドばかりですよ、春人さん?」
「いやホントに事前に言われてた予算は守ってるって!ちゃんと全部領収書もらってるから!」
再会早々に情けない感じになってる青は大学を卒業した後は本格的に芸能界に進出。そのルックスと親しみやすい話術、そして妙に芸人くさい美味しい不運を持っていることであっという間に絶大な人気を博し、今や知らない人を探す方が難しい有名モデル兼俳優として多忙な日々を過ごしている。
歳を重ねて得た大人の色気といまだ学生役すらできてしまうほどの若々しさを奇跡的なレベルで両立していることで『イケメンというかもはやそういう種類の魔物』と言われ、男性アイドルが選ぶ隣に立ちたくない男ナンバーワンの座を欲しいままにしているほどだ。
きーちゃんと結婚すると発表した時の騒動といったら大変なもので、リアルに命の危機があるからとほとぼりが冷めるまできーちゃん共々家にも実家にも帰らず信頼のできるレベルの高いホテルを転々としていたっけな。
だけど中身は何も変わらない。完璧なようでどこか抜けてて時々信じられない屑運に見舞われる、俺の大事な親友のままだ。
「ゆーごくん、パパからどんなおみやげもらったの?」
「見て見て!キラキラのお菓子!」
「えっと……うわっ、なんだこれ!スゲー!青おじさんスゲー!」
子どもたちがお土産の中身を確認しては声を上げてはしゃいでいる。それにしても優吾が持っているリアルな造形の手のひらサイズ恐竜チョコレートは食った時にギザギザの部分で口の中をケガしたりしないだろうか。まあ急いで飲み込みでもしなけりゃ溶けるから大丈夫か?
「おや?太鼓の親方、直せたんだね。それであの子たちがあんなに嬉しそうだったんだ。あ、陽介くん抱っこさせて」
俺の隣に腰を下ろした青に陽介を渡すと、慣れた手つきで頭の位置を調整してやって身体をゆっくりと揺すり出す。だてに二児の父ではないのだ。
「いやいや、大好きなパパが帰ってきたからだろ。三週間もお疲れだったな、天下のモデル兼俳優は引く手数多で大変だな」
「本当だよ。僕ももう少し家族とゆっくり過ごしたいんだけど、またすぐに仕事だしね」
今日と明日は休みらしいが、この2日を捻出するのだって相当頑張ったはずだ。真理と真人の小学校入学式にはどんな手を使おうが絶対に出ると言い張って1年前から準備してるからそこは大丈夫らしいが。
「でも仕事がどうこうって話なら君だって大したもんでしょ、ショゴス赤石」
「その名前で呼ぶなっつってるだろ」
「いやいや誇っていいと思うよ。フルダイブVRゲームの開発において『赤石信吾に動かせないキャラは作るな』とまで言われてるんだから。君をスタッフクレジットに入れるだけでゲームの信頼性が跳ね上がるって海外企業にまで引っ張りだこ。プロゲーマーへの操作指南まで請け負い、ついたあだ名が『不定形の魔物』ときたもんだ」
俺は今フリーのゲームテストプレイヤーを仕事としている。開発段階から携わりアバターの動作確認をすることもあれば、新作ゲームの御披露目イベントでデモプレイをすることもある。要するに『こんなアバターでもちゃんと人間が動かせますよ』と保証するのが俺の仕事だ。
大学卒業後は就職に失敗してしばらくただのバイトとしてデバッガーやテスターをやっていたのだが、その時のプレイ映像をPR用に使われたのがことの発端となり、いろんなゲーム開発会社からテスターとして声をかけて貰えるようになって気づけば今のような立ち位置にいた。
その過程で何度か他のテスターでは動かせないアバターを動かして来たことを面白がって誰かが言い出したのが『ショゴス赤石』。最近じゃイベントに参加するときの名前もそれになっているのだから微妙な気分になる。
「信吾さーん、もうそろそろご飯できるよー!」
「わかった。子どもたち、集合!」
子どもたちにはどんなことがあろうと集合と言われたらすぐに集まるよう教えている。おかげで自分から俺たち大人の声が聞こえない場所に行くことがなくなり、迷子になることも少なくなった。
そうやって集まった子どもたちの前に立ち、わざとらしい威厳に満ちた声を出す。
「もうすぐ晩御飯だが、その前にお片付け大作戦だ。優吾はゲーム、真理と真人はパパが持ってきたお土産の片付けを頼む。俺はテーブルの片付けと拭き掃除、青は陽介を抱きながら真理と真人のフォローだ。みんな、わかったか?」
「「「らじゃー!」」」
「よし、美味しい晩御飯のために作戦開始!」
パッと子どもたちが散らばったことですぐに部屋のあちこちから楽しそうな声が聞こえてくる。その光景を見て反響を聞くだけで満ち足りた気分になってくる。まあ腹は減っているが。
そこにテーブルを拭くための布巾を持ってきてくれた杏の手をゆっくりと引いて抱き寄せると、一瞬だけ驚いた後に腰に手を回してくれた。
柔らかくて暖かい。包んでいるはずなのに包まれていると感じるほどに。
「どうしたの?珍しいね」
「なんでかな。そんな気分になったんだ」
「そっか。でもお料理が焦げちゃうから……」
「あー、私がやってるんでごゆっくりどうぞー」
少し惜しいが仕方ないと手を緩めたら、キッチンの方から抑揚の無いきーちゃんの声が飛んできた。杏と目を合わせて笑い、もう一度だけ抱き合って手を離した。偉そうに言いながら俺が一番働いてないことに気づいたので手早くテーブルを拭く。
「僕らもどうだい、きーちゃん?」
「はいはい、帰ったら思う存分どうぞ」
「真理ぃー、真人ぉー、ママがパパに冷たくするよー!」
「「パパ、いつもおうちにいないからじゃない?」」
「うわぁぁあああ!!僕もうモデルと俳優の仕事辞める!在宅の仕事に転職する!家族の愛以上に欲しいものなんて仕事にはないんだぁーーー!!」
陽介を抱く腕は微動だにさせず器用に慟哭する青を見て笑っていると、ゲームの片付けを終わらせた優吾が俺の手を引いた。その目は何かを欲しがっているように見える……ふむ。
「よいしょっと」
「うわっ!?」
「なんだ、抱っこじゃなかったか?」
ハズレか?どうも陽介を羨ましそうにしてると見えたんだが。
「……とーさんっておれが何かんがえてるか分かるの?」
「いや?とーさんは人の気持ちを分かるのも、自分の気持ちを分かってもらうのも苦手だからなぁ。そういうのを知りたかったら優芽に聞くといい。あいつは人の考えを当てるのがものすごく得意だから」
優芽も既に結婚しているが子どもはおらず、優吾を可愛がっていて優吾もよく懐いている。なお優芽おばさんと呼んだら般若みたいな顔になるので優吾は優芽ちゃんと呼ばされている。同い年のきーちゃんはおばさん呼びを何とも思っていないのに……と言ったらシバかれかけたので俺はこの件については口を挟まない。
「とーさん」
「どうした?」
「おれとマリとマサトも、とーさんと青おじさんみたいにいつまでも仲よくいれるかな?」
おお、子ども特有の唐突なシリアス質問がきたな。抱き上げたことで目線がほぼ同じになった優吾の表情は真剣そのもので、適当な通りいっぺんの答えでは憚られるな。
「わからん。でも、仲良くいたいと思う気持ちは大切にしろ。そうじゃないと仲良くなんてできないからな」
「んー……とーさんの言うことは難しくて分かりにくい!」
「そうか。まあ今はそれでいいんじゃないか」
俺が『人と仲良くなりたいなら、人と仲良くなろうとしなければならない』と気づいたのは成人を迎えてからだった。そんな俺でもこうして最愛の妻と子どもたちを得て、最高の友人たちと笑いあっているんだ。優吾だって自分なりにゆっくりと成長していけばいいとも。
さて俺としてはいつまでも優吾と親子の語らいをしていたいところだが、そろそろ出来上がった料理を配膳しなきゃな。いつもニコニコしていて滅多に怒らない杏だがメシに関することだけはキッチリしていて、ふざけた食べ方をしたらバチクソに怖くなる。
それを知ったのは優吾が1人で食事ができるようになったころ。具体的な話はともかくかなり厳しく躾られ、小学1年生とは思えないほど箸の使い方が上手だし食べ物で遊んだりは絶対にしない。それくらい怒った杏は怖い。
そんなわけで優吾を降ろしたら妻子にあしらわれた青が絡んできた。めんどくさくなりそうだったので陽介はベビーベッドに寝かす。我が子ながらこの喧騒の中で爆睡してるのスゴいな。
「ほら赤、早く用意して食べようよ。僕ぁきーちゃんと杏ちゃんのご飯が楽しみで向こうを出てから機内食すら食べてないんだからね」
「さすがにそれはアホすぎないか」
「そう言わないで。君と飲む酒のために禁酒もしてたんだよ?そしてその酒がこちら……!」
「っっバカバカバカ!こんなもんきーちゃんに見られたらシバかれるじゃすまないぞ!?」
ニタァ……と笑いながら青が取り出したのは俺でもわかる高級酒。そのお値段、俺の月の収入とほぼ同じという一般庶民にはまず手が届かないバケモノウイスキーだ。グラス一杯数万円するレベルの酒に手が震える。
「大丈夫、大丈夫。赤のために買ったって言ったらだいたいなんとかなるから」
「「ママー、パパが悪い顔してるー」」
「いつも良い顔してないといけないんだから、家族や友達の前でくらい悪い顔したっていいのよ」
「おぉ、君こそ我が最愛の妻だよグハァッッ!?」
「きぃおばさんナイスキック!」
料理を運んでいるきーちゃんに抱きつこうとして綺麗なノールックキックを食らった青が床に崩れ落ち、それが当然のように料理を運ぶ手伝いをする子どもたち。重々承知していたが青山家において父のヒエラルキーは低いようだ。
「青山さんちが揃うと賑やかでいいね。きぃ姉さんも楽しそう」
「ああ、そうだな」
8人が掛けられる大きめのテーブルにたくさんの料理が並べられ、それぞれのグラスに飲み物が注がれる。大人で子どもを挟むようにしてみんなが席に着くと、さっき蹴られたばかりだというのにやたらと元気な青がグラスを掲げた。
「赤、よろしく!」
「お前が言うんじゃないのかよ……はい、赤石家と青山家の友情と青の帰国を祝って、乾杯」
「「「かんぱーい!」」」
子どもたちに料理を取り分ける杏と、初っ端からメインのハンバーグにかぶりつく優吾。
本当に丸一日以上絶食していた反動で美味しい以外の語彙を失う青にきーちゃんが苦笑する。
子どもには珍しく野菜が大好きな真人の皿に自分の嫌いな野菜をこっそり移す真理。
それらを横に我関せずと熟睡を続ける陽介。
「……うん。素晴らしきかな、我が人生」
「何オッサン臭いこと言ってんの」
「俺もお前も立派なオッサンだろうが」
こいつをオッサン呼ばわりしたら世の中の女性から批難の嵐だろうが、少なくとも年齢的には十分オッサンだ。そして言われた等の本人はオッサン呼ばわりを逆に少し嬉しそうにしているくらいだし。
「確かに。じゃあ立派な爺さんになってもよろしく、親友」
「言われるまでもない、親友」
チン、とまだ酒ではなくウーロン茶が入っているグラスを軽く合わせ、一気に呷る。
まったく、これからの人生も楽しみだ!
このエピソード時は赤34歳、杏26歳、青34歳、黄30歳になります。
最短で杏ルートに入るのが6%というだけで、杏が大学卒業する時点(=赤30歳時点)で赤が誰とも付き合っていない場合は高確率で杏ルートに行きます。それでも大体の場合はそれまでに誰かとくっついているので杏ルートに入るのは全体で見れば15%くらいですかね。
ちなみに青は黄、赤妹、桃の誰かとくっつかない場合は生涯独身を貫きます。




