青のルーツ
青視点の日常回です
僕は自分の容姿が良いことを自覚している。
物心ついたときから「かわいい」「カッコいい」「イケメン」と親からも言われ続けていたし、親以外の人もみんなそう言ってたから「自分は見た目がいいらしい」というのは漠然と幼いころから感じていた。
小学校のころからバレンタインにチョコを山ほど貰っていたし、告白されることも結構あった。僕が女の子と遊んだらその子が威張るようになったり、逆にイジメられることも何度か見た。当時の僕は何でなのかよくわからなかったけど、今は理解できる。
ハッキリと自覚したのは中学2年生の時、担任だった女性の先生に迫られたのがキッカケだったかな。
進路相談を口実に呼び出された教室で鼻息荒く豹変した担任を前に、大人の女性でも変になっちゃうのか、と妙に冷静だったのを覚えている。その時はたまたま別件で僕を探してた男の先生が見つけてくれて事なきをえたけど、助けがあと5分遅かったら僕の貞操は奪われてただろうね。
それだけじゃない、中学高校の間は女性関係のトラブルがひっきりなしだった。
数度会話しただけで彼女面する子もいたし、僕に好きな子を盗られただとかでいきなり男子に殴られたこともある。付き合ってないのに浮気したと言いがかりをつけてカッターナイフで刺しにきた子もいた。勝手に僕を取り合って殴り合いまでした女性達もいた。
本当にヤバイときは警察のお世話になったけど、そしたら女性警察官が僕を好きになっておかしくなっちゃうこともあったね。お陰で「青山春人には女性警官接近禁止」という、前代未聞のお達しが出る始末だよ。
学校に親が呼び出されることもしょっちゅうで、両親には本当に申し訳なかったな。まあ当の本人たちは「息子がイケメン過ぎて申し訳ありません。美男美女である私たちの子なので当然ですけど!」となぜか自慢気にしてたっけ。実際に父さんと母さんは文句のつけようがない美男美女な上にものすごく自信満々な人だから、雰囲気だけで相手を黙らせてたねぇ。
そんな両親は「もしこれだけカッコいい俺と綺麗な貴女が子どもをつくったらスゴい子が生まれると思わないか?」というセクハラ甚だしい父さんのカスみたいな口説き文句に「それはいいわね。早く見てみたいからこれから作る?」という貞操観念どうなってんだと頭を抱えたくなるセリフで母さんがOKしたことでその日にヤることヤって意気投合、次の週には結婚したらしい。どうなってんだこの親。
なお、お祖父ちゃんやお祖母ちゃんはそんな息子と娘の馴れ初めを結婚前の報告で聞いて両家お互いに土下座しあったと遠い目をしていたね。僕も初めて聞いたときは理解が追い付かなかったし、タイミング的に出会った日の夜にお前ができたんだよと言われて3回くらい死にたくなった。
街を歩けば逆ナンとスカウトなんて日常茶飯事。それで今の事務所に所属した理由は「モテすぎて大変だろ?女性との上手い折り合いの付け方を教えてやるよ」と言われたから。徹底的にお得意様のお客様だと思え、女性に笑顔を向けるのは仕事だからと自分に言い訳しろ、ビジネスライクという言葉を心身に叩き込め、仕事だからこそ女性には紳士であれ、と教えられたのにはさすがに顔がひきつりそうだったけど、結局はそれでうまく行くようになったから侮れない。
「まあ、そんな人間なわけですよ僕は。6だね、えーっと……子どもが生まれたから御祝儀ちょうだい」
トントントン、と赤と青のピンがこれでもかと突き刺さった車の模型をマスに沿って進め、その先に書かれていた文を読んで対面に座る赤にお金をせびる。
「マジかよ、子ども8人めじゃん。で、なんで俺は人生ゲームしながら親友の人生を聞かされてんだ?」
「んー……なんとなく、かな。そういや僕のことあんまりちゃんと話したことなかったなーって」
赤のことは趣味嗜好や家族構成どころか何があってコミュ障になったのかまで知ってるのに、僕のことは容姿が良すぎて苦労したことがあるくらいしか喋ってなかったから、フェアじゃないなとふいに思ったんだ。
「どう?何か思うところあった?」
「エキセントリックな考えをする男女もいるもんだな、と思った。あんま友達の親をどうこう言いたくないけど、さすがにぶっ飛びすぎだろ。あ、臨時ボーナスだ」
「出会いのエピソードはアレだけど、父さんも母さんも僕のことは大切にしてくれてるし愛情もちゃんと感じてるよ。まあエキセントリックなのは否定できないけど。え、子どもが万引きしてお金払うことになったんだけど?」
「それだけ子どもがいればグレるやつも1人くらいいるだろ。ああそうだ、お前が愛されて育ったのは家族のこと話してる時の顔を見たらわかるよ。苦笑いが優しすぎる。なんだかんだ好きなんだろ、親のことが」
「……そんなに分かりやすい?」
表情筋が半分死んでる赤に比べたら人類の99%以上が表情に出やすいだろうけど、そこまで察せられるとは思わなかった。
でも確かに僕は両親が好きだ。1人の人間としてはどうなんだろうと思わされる言動も多いけど、それでも親として僕をちゃんと育ててくれた。いけないことをしたら叱ってくれたし、良いことをしたり頑張ったら褒めてくれる。顔だけじゃなくてキチンと内面も見てくれるいい親だと思う。
僕がどれだけ女性関係のトラブルに巻き込まれても嫌な顔ひとつせず対処してくれるどころか、「これだけモテモテだなんてさすがは私たちの息子だ」と自慢気に笑って抱き締めてくれた。
「子は親の背を見て育つんだよ、良くも悪くも。……青、お前は面がいい。客観的に見てそれは事実だ。でもそんなもん俺にとっちゃどうでもいい。俺が知ってる青山春人はコミュ力に長けていてノリが良く、意外とリーダーシップがあって優しくて礼儀正しく、嫌なことやストレスを溜め込みがちで、自分の容姿に複雑な感情があってもそれを武器にできる強さを持つ、俺の大切な親友だ」
赤がいつもの無表情ではなく真剣な顔で、普段ではめったに出ない長文をハッキリと言いきった。
「お前は面だけじゃない。そもそも面だけの人間と俺が親友同士だって言い合うなんて無理だ。忘れるなよ、少なくとも俺やきーちゃん、茶管はお前がイケメンだから友達になったわけじゃない。なんならもしお前が顔面に大火傷でもして人前に出れない顔になったとしても、俺たちにとっての『青山春人の価値』にはなんの変わりもないんだ」
「……ゲームの中なら平気で顔面に飛び蹴りしてくる人間の説得力はスゴイなぁ」
「それだけお前の顔がどうでもいいと思ってる証拠だ。謹んで蹴られてろ」
顔だけじゃないなんて言えるのは容姿に恵まれた人間か不細工の僻みだ、なんてよく言われるものだけど、僕の親友はそのどちらでもない意味で使った。
僕に近づいてくる女の子を狙って近寄ってくる自称友人のクズは掃いて捨てるほどいたし、高級アクセサリー感覚でイケメンを欲しがるだけの吐き気すらしそうな女性はもっといた。
友達でいるのに顔なんてどうでもいい。僕が欲してやまなかった言葉。
このかけがえのない親友に会えるまでに折れなくてよかったと心から思う。
「あーあ、赤が女の子だったら全力でアプローチしてたのになぁ」
「気色悪。友達やめるわ」
「酷くない!?さっきアレだけ真剣に友情について語ったのにさぁ!」
「性癖に巻き込まれたら話は別だろ。おら、俺にも子どもができたぞ御祝儀よこせ」
「ファッキュー」
ファンには絶対に見せられないくらい全力で中指を立てたら、ザザザッと僕から距離を取った。
「ええ……この流れでファッキューは無いわ……日本語訳知らないのかお前」
「えっ……あっ、違っ!そういう意味じゃなくて!!」
「あーはいはい冗談冗談。早くルーレット回せって」
基本的に無表情だから赤の冗談は質が悪い。妹の優芽ちゃんは無表情の違いが分かるらしいけど、それはもはや兄妹の絆というより超能力の類いじゃないかな。
「くっそー……あー!家が燃えたーーー!?」
「ハイざまぁー。火災保険入ってないお前が悪い」
「だって家が燃えるマスなんてほとんどないじゃん!確率いくらだよぉー!」
「だから自分の屑運を計算に入れろって」
わざとらしく僕の肩をポンポンと叩くその無表情だけはドヤ顔だとなぜか分かった。
絶対に負けない。僕はこいつより幸せな人生を掴み取ってやる……!
青の両親は顔がいいことで特に何の苦労もせず生きてきたチャランポランでいい加減な人間でしたが、青が生まれた瞬間にその可愛さにやられ「この子は俺(私)が守護らねば…!」と覚醒しました。
それでも自分の容姿に絶対の自信を持つところは変わりませんでしたが、逆にその堂々たる態度が青が変に拗れることなく育った要因の1つでもあります。




