メリークリスマス
よい子のみなさん、メリークリスマス!私は年明けまで海の上だよハハッ!
ちなみに今回は1万文字くらいあるクソ長日常編です。分割してもよかったんですがクリスマスやしええやろ(適当
「突然ですがクリスマスパーティをしたいと思います!」
とある休日。俺の家でいつもの3人による非フルダイブゲームでの一戦を終えたところで何か青が意味不明なことを言い出した。
「ストレスため込んでるのか?どうする?またどっかで高笑いしながら核爆弾落とすか?」
「いえ、高度に育てた文明を一気に天変地異で更地にするとかじゃないですか?」
「あのさぁ、僕をそんなヤバいタイプの独裁者や邪神みたいな言い方しないでくれる?」
どうやら俺たちごときの案では満足できないらしい。まあ時間ももったいないしマジでストレスためられても困るし、そろそろちゃんと聞くか。
「で、何でまた急に?」
「いやほら、ちょこちょこ遊びに出かけたりこうやって集まったりはするけど、季節っぽいことしてないよね?って思ってさ」
言われてみれば確かにそうだな。夏休みもひたすらゲームしてたらいつの間にか終わってたし、みんなで出かけるのもARゲームセンターとか水族館とかだし。
それが悪いとは微塵も思わないが、世間一般でいうところのバラ色の青春とは程遠いかも知れない。むしろゲームの中だから極彩色に近いかも。
「でもそれがクリスマスパーティなのは何でですか?冬っぽいことならスキーとかそういうのもありますよ」
「え?だってどうせ2人ともクリスマス暇でしょ?茶管は彼女さんがいるから空いてないと思うけど。だから確実に集まれるじゃない?」
「ら、ラオシャンのクリスマスイベントが……」
「あ、IRのクリスマスイベントが……」
「つまり暇なんだね」
なんだろうな、この確実にそうだけど釈然としない感じは。宿題をやろうかなと思った瞬間に宿題やりなさいよと言われるのに似てるか?俺は両親にそんなこと言われたこと無いから結局わからんね。
しかし、きーちゃんもそうだとは。この子をどうにかして誘えないか悶々してる男子は1人や2人じゃ足りないと思うが。
でも顔が良いのが幸せに繋がるとは限らないって見本がすぐそこにいるもんな。俺も男だから人並みにモテたいと思わないこともないけど、刺されるほど愛されたいとは思わんわ。
「クリスマスパーティをやるのはわかった。でもウチは使えないぞ、優芽が先に予約してるからな。親父と母さんはデートに行くらしいし」
「えっ、じゃあ君は優芽ちゃんたちがワイワイやってる中で独り電脳の海に潜ろうとしてたの?それは……ちょっと、寂しすぎない?」
うっせ黙ってろ。いいだろ別にクリスマスをラオシャンで過ごしてもよ。なんなら年越しだってラオシャンでもいいが、それはさすがに優芽に張り倒されそうだし親父も母さんも許さないと思う。
ん?ちょっと待てよ、そういえば思い出したぞ。
「あれ?優芽はきーちゃんも誘ったけど断られたって言ってたような……?」
「私は自分がコミュ障とは思いませんけど、それでも半数が知らない人のパーティはちょっと……。あーちゃん、ゲーム始めてからコミュ力がドンドン強くなっててちょっと怖い……」
「ああ、うん……」
優芽はもともと物怖じしないやつだったけど、カラマジ始めてクランを率いるようになってから潜在能力が開花した。あんずから話を聞いただけだけど、優芽のコミュ力に絆されてクランごと傘下に入った人たちもいるとか。なんだあいつ、前世は豊臣秀吉か?
「うーん、困ったなぁ。僕んちもダメなんだよね。大学の知り合いが「俺が男になるためにどうか部屋を貸してくれ!青山君の加護が欲しいんだ!終わった後に不始末があったらこの腹かっ捌いて詫びるから!!」ってさ」
「ああ、アイツな。俺にも一人暮らしかどうか聞いてきたよ」
初彼女との初クリスマスなんだ、ここで男にならなきゃいけないんだ!って気合い入れまくってたけど、気負いすぎると引かれるんじゃないかな。交際経験ゼロの俺がいうのもなんだけど。
はっはっは、と男2人で笑っていたらくいっと袖を引かれた。
「あの、なんで男になるために部屋が必要なんですか?」
「……きーちゃんには、まだちょっと早いみたいだな」
「……だね。下世話なこといってゴメン」
バカな男のノリを純粋な女の子の前でしてしまったことを少し後悔しつつ、俺たちは話を戻した。
「じゃあ会場を押さえないといけないね。でもクリスマスはカラオケもどこもいっぱいだからなぁ~」
「ウチ使いますか?」
「「え?」」
まさかの申し出に俺と青の声が重なった。
「私は一人っ子ですし、家族もクリスマスはご飯のあとにケーキが出てくるくらいですから大丈夫だと思いますよ。というか、私が友達を連れてくるっていったら喜ぶはずです」
「いやでも、友達っていってもコレとコレだぞ?高校生の娘が大学生の男2人連れてくるってヤバくないか?」
「うん、僕がきーちゃんみたいな可愛い娘の父親だったら泣きながらショットガン買いに行くね。まかり間違っても歓迎はしないよ」
きーちゃんはそうなんですか?と首を傾げているけれど、常識的に考えてそうだろうとしか言いようがない。
逆に考えてみよう。俺がいきなり友達だっていって女子高生2人を家に連れ込んだらどうなる?まず間違いなく優芽にシバかれるな。親父と母さんは納得できる話を聞けば歓迎してくれるかも知れないが、最低限の常識を知れと説教されるだろう。
青がやったとしたら顔がいいだけに俺よりも犯罪臭がヤバいな。どう控えめに見てもうぶな女の子を拐かすクソ野郎でしかない。
「はぁ。でも聞くだけ聞いてみますよ。お二人のことは親に話したことありますし、多分大丈夫だと思います」
「俺たちってどんな風に伝わってるんだろうな、ツラだけ野郎」
「予想もつかないねぇ半魚人」
「あ、お母さん?お父さんもいる?クリスマスなんだけど……」
あん?おおん?と俺たちがメンチを切り合っているのをよそに親に電話をかけるきーちゃん。普通ならバカ言ってんじゃないと怒られると思うんだが……
「OKだそうです。お父さんもお母さんもご飯は一緒したいらしいですけど、別にいいですよね?」
俺と青は遺書を書いておこうと心に決めた。
そして来たる日。クリスマスというかもはやXデー。
「どうも、貴理の父です。娘がいつもお世話になっているようで」
「母です。いつか会ってみたいと旦那と言ってたの。お会いできて嬉しいわ」
娘がアレなんだから親もそうなのは当然だろと言わんばかり。きーちゃんのご両親は渋みが入り始めたイケてるおじさんと、おばさんと呼ぶのが憚られるほど美人なお母さまだった。隣に立ってる青を含め周りの顔面偏差値がえげつないほど高すぎて死にたくなってきた。
「ど、どうもご丁寧に。青山春人と申します」
「あかか、赤石、信吾です。こ、こちらをご査収(?)ください」
通されたリビングの机に座り、俺たちは深々と頭を下げて手土産を献上させていただいた。
俺が渡したのは数日前に事情を話したらくれぐれも失礼の無いようにと家族全員からいまだかつてないほどの強い念押しとともに渡された、『父親の社会人センス』『母親の常識的センス』『妹の女子高生センス』が高度に混ざり合い高め合った結果である『定番過ぎず斬新過ぎず、良いものを貰ったと喜ばせつつ申し訳なさを感じさせない絶妙なお菓子』だ。青も仕事の方で培ったらしいセンスで持参したお土産を手渡している。
気を使わなくてもいいのにと受取ってくれたおばさんの笑顔が美人過ぎて後光が見える。いや、そんなことはさておき、俺と青は普通に歓迎されたのでむしろ危機感がMAXである。油断した瞬間に頭カチ割られるんじゃないかとか、めちゃめちゃ失礼ながらそんなことを考えていた。
「そう緊張しないで欲しいな。会いたいと思っていたのは本当なんだ。そして二人には、特に赤石君にはずっとお礼を言いたかった」
「お礼、ですか?」
「ああ。貴理の目を覚まさせてくれたお礼だ。学校に行かず部屋に閉じこもってゲームに依存していた自分を叩きのめして叱り、現実に引き戻してくれたんだと娘が嬉しそうに教えてくれたよ」
俺そんなカッコいいことしたっけ?当時のきーちゃんに優芽のことをバカにされてブチギレた記憶はあるんだけど……ああいや、なんか説教臭いこと言ったな。
うん、改めて言われると恥ずかしい。きーちゃんなんか珍しく何も言わずに目を伏せて知らんぷりしている。
「本当は私たち親がやらなきゃいけない事だったの。でも私たちは貴理の急な変化にオロオロしてるだけで何もできなかったわ。叱ることも、寄り添うこともできなかった。私たちがしていたことといえば、鍵がかけられた娘の部屋の扉を意味もなく見つめることくらい」
「あの日、部屋から出てきた貴理に『お父さんお母さん、今までごめんなさい』と謝られた時は妻と共に泣いたよ。己の不甲斐なさと娘が戻ってきてくれたことの嬉しさに涙が止まらなかった。僕たち夫婦は君たちに感謝してもしきれない」
本当にありがとう、と頭を下げるご両親の姿からきーちゃんをどれだけ大切に思っているかが伝わってくる。娘を持つ親の気持ちは俺にはわからないけれど、いいご両親であることだけはわかる。
青も同じく感じたようで、俺たちも揃って頭を下げた。
「こちらこそ、娘さんにはよくしていただいてます。僕たちがバカやってる時も一緒に楽しんでくれたり、時には冷静にツッコミを入れてくれたり。彼女ほど得難い友人もそうはいません」
「いつも遊んでいるグループの中でも最年少なのに一番大人びていて、それでも自分の好きなことには全力を貫き通す。一緒にいてとても楽しい、尊敬すべき大切な友達です」
伝えるべきことは伝えるべき時に伝えなきゃいけない。そしてそれが偽らざる本心だからか、今日この時ばかりは俺も自分でビックリするほど考えるより先にスラスラと言葉が流れた。
そして俺たちとご両親が同時に頭を上げた時、これ以上ないほど顔を真っ赤に染めたきーちゃんが慌てたように少し大きな声を出した。
「もう、お父さんもお母さんもその辺にして!お二人も、本人の目の前でそんな真面目腐ったことを言わないでください!ほら、クリスマスなんだからもっと楽しくしましょう!いつも通り、ね!?」
「そう、貴理はいつも楽しいのね。よかった、本当によかった。……さて、それじゃあ楽しいパーティにしましょうか!美味しいものをたくさん用意したのよ、遠慮せずに食べてね!」
キッチンに向かっていったおばさんを手伝うためにきーちゃんも席を立ち、俺たちも手伝おうかとしたところでおじさんにお客さんなんだから座っていて欲しいと言われてしまった。
「二人はもう二十歳だそうだね?少しだけどお酒もある、もし飲めるのなら一杯どうだい?」
俺たちがぜひと頷いた時のおじさんの笑顔ときたら、これぞきーちゃんの父親とでもいうべきイケオジスマイル。黄崎家はおじさんしか飲まないそうで、家で誰かと飲むのがほとんどないから嬉しいらしい。
鼻歌でも歌いだしそうなほどのご機嫌でシャンパンのボトルとグラスを持ってきたおじさんはウキウキ気分そのままにグラスを手渡してくれた。
「いやぁ嬉しいなぁ。同僚が息子と飲む酒は上手いぞ!って言っててね。娘一人だけなのが不満だとは決して思わないけど、ないものねだりというのかな。そういうのに憧れてしまってね。でも今日は貴理が結婚するまではありえないと思っていた願いが叶った気分だよ」
「あはは、僕らでよければいくらでも。でも注ぐのは後にしましょうか」
「……先走ったらきーちゃんに睨まれそうだもんな」
「はっははは、そうだねありがとう。僕も妻と娘には睨まれたくないし、もう少し待とうか。いや、それにしても貴理は君たちとうまくやれてるようで安心したよ。一緒に遊んでいるのが年上ばかりだと聞いて少し心配していたんだけどね」
オンラインでの交友関係に歳が上も下もないけど、だからって親からしたら心配だろうな。でもその心配は杞憂でしかない。
「いやー、まあ、実際きーちゃんが一番大人ですので」
「それは間違いない。きーちゃんと一緒にいるとたまに思うんだよな、あれ?俺って中学生だったっけ?って」
そう思わせる心当たりがありすぎて俺たちは何ともいえない表情になった。青春チャンネルでもキハゲの立ち位置はバカどもから半歩引いたところにいる大人だ。チャハゲも兄貴分的な言動が多いから必然的にアカハゲとアオハルがガキっぽい扱いになる。それはそれで別にいいんだけど。
そんな俺たちを見ておじさんはまた笑った。
「はっはっは、いや、娘はいい友達に恵まれたようだ。君たちくらいの人間が、年下を自分より精神的に上だなんて言うことはそうそうないんだよ。君たちも貴理も心から認め合ってるということだ。嬉しいね、親としてこれ以上なく嬉しいよ」
「お父さん、今日は珍しく大声で笑うね」
大きなトレーの上にたくさんの食べ物を乗せたきーちゃんが目をぱちくりさせながらそう言った。おばさんもうんうん頷いてるし、普段おじさんは物静かな人なんだろうか。だとしたら見た目とものすごくマッチしていてさらにイケメン度が上がるな。
「それくらい楽しいってことさ。友達はその人の鏡というからね、二人と話したら貴理がいい子だってことを再確認できたんだ」
わーお、年頃の娘をこんなドストレートに褒める父親っているんだな。ウチの親父も子どもを褒める方だけど、こんな直球でカッコいいことは言わないぞ。
それを友達の目の前でやられた本人の恥ずかしさたるや、想像を絶するものだろうな。案の定、きーちゃんは空になったトレーでおじさんの頭をパコンと叩いた。ていうかこれ間接的に俺たちもいい子だって言われてるよな、照れるぜ。
「恥ずかしいこと言わないで!」
「自慢の娘を誇って何が悪い。貴理は昔っから可愛くて頭が良くて最高の娘だと思っていたけど、まさか交友関係までパーフェクトだとは。こんな素晴らしい娘を誇らないなんて親じゃない!なあ母さん」
ああ、これただの親バカだ。ポカポカ頭を叩かれても全く意に介していないところがマジな感じする。
「貴理がいい子なのはその通りだけど、そのあたりにしなさいな。貴理も、食べ物の近くで暴れないの」
「「はい」」
なるほど、黄崎家は母親が一番上か。ウチとヒエラルキー構造が同じだからむしろ安心するわ。ウチも母さんが真面目に注意した時は親父も優芽もバチっと一瞬で大人しくなるからな。もちろん俺も。
そんなこんなで準備が整い、女性陣はジュース、男性陣はシャンパンが注がれたグラスを掲げた。音頭を取るのはおじさんだ。
「今日という日を楽しみ、思い出に残るクリスマスにしよう。乾杯!」
「「「乾杯!」」」
友達の家で過ごすクリスマスという、人生初めてのイベントが始まった。
用意された食事はどれもこれも美味しく、お酒もなかなかいいものだそうで食が進む。そして青が軽妙なトークで場を盛り上げ、合間合間で俺に話が振られる。きーちゃんのご両親からもいろんなことを聞かれたりもするけれど、まあ無難に回答できてると思いたい。
ご両親は普段きーちゃんがどんなゲームで俺たちとどう遊んでいるのかに興味があるらしく、ロボットのゲームに(ちょっと危ないレベルで)ドハマりしてますねと答えたら納得していた。どうもきーちゃんが大学は工学系に進みたいと早くも言いいだした理由が知りたかったそうだ。
それ以外にもハゲマッチョになって一定の人気を博していますよ、とは流石に言えなかった。言っていい事と悪いことがあるくらい俺と青もわきまえているつもりだ。青春チャンネル出演のギャラもそこまでの額じゃないし、秘密にしておいてもいいだろう。世間的には知らんけど。
「僕たちの知らない娘の側面を知れる。これ以上ないクリスマスプレゼントだよ」
「二人とも誠実だし、本当にいいお友達ね」
「「誠実……?」」
誠実、誠実ってなんだ?一発逆転を狙って所持金全部カジノに突っ込むやつのことを指すのか?だとしたら俺の知らないうちに日本語はだいぶ様変わりしてしまったんだろうな。なんだ青、その『友達を捕食することに疑問も躊躇も抱かない奴が?』って顔は。海底に沈められたいのか。
そんな一幕があったりしながらも時は進み、食事を綺麗に平らげてから二時間ほどまったりと喋ったり遊んだり。時計の針もいい時間を指しているし、そろそろお暇だな。
「今日はとても楽しいクリスマスをありがとうございました」
「ご飯、美味しかったです。ごちそうさまでした」
「もうそんな時間かい?いや、楽しい時が経つのは速いものだな」
「またいつでも遊びに来てね。二人ならいつでも大歓迎よ」
「お二人とも、お気をつけて」
お互いに深く礼をしあって俺たちは帰路についた。といっても小学生のころから優芽ときーちゃんが行ったり来たりできる距離だ、俺の家までは15分も歩けばつく。
暖かい家から冬の道に出てもそこまで寒さを感じないのはなんでだろうか。吐く息が白く煙っても、それすらも楽しいと思えてしまう。
「いい親御さんだったな」
「うん、絵に描いたような理想の家族だよね。そんな家で育った子でもあんなになっちゃうこともあるのは、ゲームの危ういところだなって思ったよ」
「まあな。でも大概の趣味はそんなもんだろ」
趣味にお金をかけすぎて極貧生活、なんてのはありふれた話だ。読書ですら本を買い過ぎて重みで床が抜けたなんて話もあるし、なんでものめり込みすぎはよくない。
「あ、そうだ。今日は家に帰れないから赤んちに泊めてよ」
「そういえば男の階段を上る会場になってるんだったか。別にいいぞ」
青は何回かウチに泊ったこともあるし、もう優芽の友達たちも帰っているころだろう。酒も入ってるし、一人で適当な場所を探すと言われるよりよっぽどいい。ちょくちょく忘れるけど青はそれなりに有名なモデルでもあるんだから。
話しながら歩いていたら帰り道なんてあっという間。家の近くに着いた時、ちょうど優芽たちもお開きにしたようで玄関から何人かが出てくるのが見えた。
「今日はありがとう、また明日カラマジで会おうね」
「あかりむさん、ありがとうございました!アカシンさんにもよろしくです」
「あたしたちで最後だよね。お邪魔しました、またこうやって会えたら嬉しいな」
おや、あれは見覚えのあるチビッ子。なんだ、パーティに呼んだ友達ってあんずたちの事だったのか。もしかしてクリスマスパーティ兼カラマジのオフ会?
「こっちこそ楽しかったよ。みんな、気をつけて帰ってね……ってお兄ちゃんと青山さん!?うわ、ちょうどいいところに。こっち来てこっち!」
「なんだなんだ?」
みんなが帰るまでちょっと待ってようかと思ってたら目ざとく見つけた優芽に呼ばれてしまった。あんずとその姉の萌さんはいいけどもう一人の女の人は知らんぞ。
「あー!アカシンさん、メリークリスマスです!」
「ぐっ……お、おう。今日も元気いっぱいだな、あんず」
子どもに寒さに身が縮まるなんて言葉は存在しないのか、ハグという名のなかなかにいいタックルを腹に食らったが俺は堪えた。まあこれでも二十歳の男ですから?小学六年生のタックルくらい余裕だよ余裕。食後の一休みが無かったら危なかったけど。
「すいませんお兄さん。あんず、お兄さんに会えると思ってたんですけどいらっしゃらなかったんで。そのぶん嬉しさが爆発しちゃったみたいです」
「大丈夫だから気にしないで。クリスマスは楽しんだか、あんず」
「はい!でも最後にアカシンさんに会えてもっと楽しくなりました!えへへ」
なんだと可愛いやつめ、そんなこと言われたらお兄さん嬉しくなっちゃうぞ。
ふわふわのコートを着込んだあんずを持ち上げてくるりと一回転。きゃー、と笑うあんずの声に癒されるというか、精神的体温がちょっと上がるね。
「お兄ちゃん、あんずちゃんを可愛がるのもいいけどさ。知らない人じゃないんだからこっちの人にも挨拶しなきゃ」
「ん?俺が知ってる人?」
あんずを降ろした俺をほらほらと優芽が見覚えのない女性を示す。歳は俺よりちょっと上くらいか?スポーツでもやってるのか、着込んでいても結構しっかりした体系なのがわかるな。髪はサイドテールにしてて、快活な雰囲気があるけど今は少し意地悪そうに笑っている。
確かに見覚えが無いかと言われたら、どこかで見たような気がする。思い出せ赤石慎吾、俺の交友関係は広くない。特に女性の心当たりなんてゲーム関係以外にほとんどないから知り合いなら思い出せるはずだ。
あれ?隣の青がまさかって顔をしてる。ってことはもしかして俺と青の共通の知り合い……?
「だとしたら……モモちゃんさん?」
「はーい、大正解!リアルでは初めましてだよね、赤信号さん。とブルマン会長だよね、青山春人さん?」
「やっぱりモモちゃんだった、世界ってのは狭いもんだね。そうだよ、僕は青山春人で君の知ってるブルマン会長」
わーお、こんなことある?あるから今こうなってるんだけどさ。いやー、なんか今日はすごい日だな。
「うっはー、アバターがそっくりそのままだからもしかしてと思ってたけど、ブルマン会長って本当にモデルの青山春人なんだ!すっごいイケメン。こんな顔面の解像度が高い人、リアルにいるんだねー」
「青山さんとモモちゃんって知り合いなの?」
「うん、別ゲーのね。同じ商会、クランみたいなのに所属してるんだ」
そっか、優芽はそのこと知らなかったっけ。人の縁というのはどこにつながっているのか分かんないもんだよなぁ。
「んふふ、あかりむちゃんにお招きされたから赤信号さんとも会えると思ってたんだけど、ブルマン会長とも会えるなんてね。あ、そうだ赤信号さん。あかりむちゃんに赤信号さん宛のクリスマスプレゼントを渡しといたから、あとで貰ってね。自信作の絵だよ」
「え、そんな、ありがとうございます。……今はお礼になるものが無いんで、今度セレスティアル・ラインで何かお返しします。必ず」
クリスマスプレゼントを頂いたからには俺の誠意を見せるしかねぇな。パラダイス・オブ・シーフード号を全力稼働させて船一杯の魚介類を持参いたします!へっへっへ、腕が鳴るぜ。シナトと一本釣りでもするか。
「気にしないでいいよー、またウチの船に遊びに来てくれればいいからさ。それじゃあいつまでも玄関に居てもアレだし、そろそろ帰るよ。バイバーイ!」
「では私たちも。いつまでもお兄さんに引っついてないで、帰るよあんず」
「はぁい。アカシンさん、あかりむさん、もう一人のお兄さん、さようなら!」
「ん、またな」
去っていく三人を見送った俺たちは家に入った。青が泊まっていくことを優芽に言い、ついでに親父と母さんにもメッセージを入れておく。二人は一泊してくるらしいけど、まあ一応な。
交代で手早く風呂に入ったら、楽しく遊んでいるときには気にならなかった疲れが出たのか俺たちは揃って大きなあくびをした。
優芽のパーティの後片付けも終わっているし、今日はもう寝ようか。モモちゃんさんから貰ったプレゼントの絵はまた明日ちゃんと飾ろう。俺とシナトが釣竿を持って船首に座ってる絵だった。最高。
「今日は楽しかったね。来年もこんな楽しいクリスマスになるといいな」
「おまえに会うまで友達ゼロ人だった俺が一年も経たずにこんなに変わったんだ。何が起こるかなんてわからない……もっともっと楽しくなるさ」
「そうだね。じゃ、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
明かりを消して目をつむると、楽しかった今日の出来事が自然と思い返される。
きーちゃんの事を心から想い、俺たちを歓迎してくれたおじさんとおばさん。
恥ずかしそうに顔を赤くしていたきーちゃん。
嬉しそうに抱き着いてきたあんずと、困ったように笑っていた萌さん。
まさかここで会うとは思わなかったモモちゃんさん。
一日中ずっと一緒だったうえに泊まっていくことになった青。
ゲームの中じゃないのにこんなにも多くの人と関わり過ごした日があっただろうか。それも、クリスマスという日に。
一年前の俺は予想もしていなかった今年のクリスマス。きっと来年も俺の予想を超えてくれるものになるだろう。予想もできないことになると予想するなんて少しおかしな感じだけど、そんな気がしてならない。
それでは皆さんメリークリスマス。俺は堪能したから余韻と共にもう寝ます。おやすみ!
黄崎家は父も母も赤と青を家族の恩人として心から歓迎しています。ですがそれはそれとして『娘とずっと一緒にいる年上の男』としてその人となりを見定めてました。
結果は言わずもがなです。どっちが義息子になってくれてもええんやで、くらいには思っているかもしれません。口にすれば娘に嫌がられるので黙ってるくらいの分別はありますが。
もうちょっと赤が早く帰っていればたー子とSUMIDAもいました。家庭の事情で赤以上にクリスマスに縁のなかったSUMIDA君は帰り際に嬉し涙を流していたそうな。




