妹の友達の妹は自分の友達
最後の更新がちょうど一年前だったので更新です。
なんということはない現実側の日常風景です。
「ということでエネルギーブレードの方がいいと思うんですよ。いえ、実体剣のメリットも捨てがたいんですけどね?」
ちょっと買い物に出かけたら外できーちゃんとばったり出会い、お互い暇だしちょっとウチによってゲームでもしていかない?と帰宅中。相変わらず尋常じゃない熱量をIRにかけてる娘だこと。
「俺のレムナントはエネルギー消費がカッツカツだから実体剣かなぁ。まあ続きは中に入ってからにしよう。ただいまー……あれ?」
「おじゃましまーす、ってどうしました?」
「見たことない靴がある。優芽の友達か?とりあえずお菓子と飲み物とってくるから俺の部屋に行ってて」
「お手伝いしますよ、あーちゃんの友達なら私も知ってるかも知れませんし」
リビングの方から漏れてくる声からして優芽の友達で間違いなさそうだし、正直その申し出は大変助かる。優芽がいるなら大したことにはならないだろうけど、それでも知らない人がいるところにいくのは精神的によろしくない。
妹が友達と遊んでいるところに兄貴がズカズカ入っていって良いことは何もない。サッサと取るもの取って俺の部屋に行こう。
大きく深呼吸を数回繰り返し、一度きーちゃんの方を振り向き頷きあう。よし、覚悟は決まった。
「すまん、邪魔するぞ優芽」
「あ、おかえりー。いいところに来たね、ちょうどお兄ちゃんに会いたいって話になっててさ」
「俺に?誰が……」
優芽の言葉に首を傾げると同時、ソファに座っていた誰かが俺に向かってブンブンと元気よく手を振った。
「アカシンさーん!わたしです、あんずですー!」
「お久しぶりです、お邪魔してます」
ちょんと頭のてっぺんで結んだ髪に無邪気な笑顔、俺の胸くらいまでしかない身長。リビングにいたのは我がゲーム仲間のちびっ子あんずとその姉だった。何でここにと思ったけれど姉ちゃん、萌さんだったかな?は優芽と同じクラスの友達なんだっけ。
と、いうことは……
「朝緑さん?」
「あれ、黄崎さん?どうしてお兄さんと?」
まあ、そうなるよな。
「あーさん……いや、お兄さんとはゲーム友達で。出先で会ったからちょっと寄らせてもらったの」
「そうなんだ。私と妹もゲームでお兄さんと会ってね」
素の口調で喋るきーちゃんを久しぶりに見た気がする。そしてそれはそれとしてものすごく手持ち無沙汰でどうしよう。
あんずがさっきからソファから降りた自分の横をポンポンと叩きながら手招きしてるんだけどあそこに座れってこと?女の子三人の中に俺が入るなんて、それは社会的に許されるのか?
「みんな知らない仲じゃないんだし、二人も座りなよ。ね、あんずちゃん」
「はい!アカシンさん、こっちこっち、こっちですよ!」
「あ、うん」
勢いに流されて座ってしまった。しかしワクワクと期待しているあんずの誘いを無下にできる人間がはたしてこの世にいるだろうか。この笑顔を守れない男は男ではない、いやもはや人間ですらない。そして俺はまだかろうじて自分が人間であるという自覚を持っている。
そんな感じで二つあるソファにはそれぞれ優芽と萌さん、きーちゃんが座り、俺とあんずは床に敷いたラグに腰を下ろした。ニコニコ顔のあんずをぴったりとくっつけた俺を見る萌さんの視線が妙に痛い。
「あんずはお兄さんのことが大好きだね」
「うん。アカシンさんは強くてかっこよくて、あんずと真剣に遊んでくれるから!」
「嬉しいけどやめてくれ……」
幼い子に手放しで褒められるのは恥ずかしいというかいたたまれないというか。こういう時はほとんど動かない表情筋でよかったと思う、そうじゃなかったらどんな顔をしているのか自分でもわからん。
「子どもの時って大人や年上の人が真剣に遊んでくれると嬉しいよねぇ」
「それはわかるなぁ。私もあーさんやブルさん、ちゃーさんと遊んでる時がすごく楽しいもん。あれってみんなが真剣に遊んでるから楽しいの」
優芽ときーちゃんがしみじみと語っている。俺も小さい頃は親父やじいちゃんとゲームするってだけで嬉しかったもんだ。今でも楽しいけど、それとはまた違う感覚なんだよなアレって。まああの二人は対戦ゲームだと大人げなく俺をシバきに来てたから嬉しい楽しい以上に必死だった思いがある。
「アカシンさん、おんぶしてください。おんぶー!」
「別にいいけど。またいきなりだな」
「エヴァーズホーンと戦った時のことを思い出したんです。あれであんずはゲームというものに目覚めたのです!」
きゃー、と楽しそうに背中に乗りかかってくるあんずを受け止める。おんぶとはいってもさすがに立ち上がったりはせず、座ったままのやつだけどな。
いくらあんずが小柄だとはいえ、背中に感じる重さはゲームの中のそれとは違ってそれなりにあるけどそれを口にはしない。女の子だらけの空間でデリカシーの無い発言をしようものなら何をされるかわかったもんじゃない。さすがの俺でもそれくらいの空気は読める。
「ちょっと前まではお姉ちゃんお姉ちゃんって言ってくれてたのに、最近はずっとアカシンさんのことばっかり……!」
「よしよし、姉離れってやつだね。私は妹だからそっちの気持ちはわかんないけど」
「私もひとりっ子なんでピンとこないかな。でもほら、それもあんずちゃんの成長の証なんだから喜んであげないと。ね?」
顔を手で覆った萌さんを二人が慰めている。おそらくこの中で萌さんの感情を最も共有できるのは兄という立場を持つ俺なんだろうが、妹の関心を奪った本人の慰めなんて逆効果にもほどがある。それが数年とはいえ先を歩む者の義務だと思い、ここは甘んじて恨みの矛先を向けられよう。
「アカシンさんアカシンさん、青春チャンネルの人たちってアカシンさんのお友だちなんですよね?みんな普段はどんな人なんですか?」
「んー、まあみんな普段とほぼ変わらないけど……そうだな。アオハルは頼りになる。俺にできないことをサラッとできるし、なんだかんだで人をまとめるのが上手い。パッと見は真逆なんだけどピッタリはまるみたいにウマが合う。チャハゲはそんなに離れてないけど一番年上でな。豪快で大雑把に見えて細かいところまでちゃんと見て気にかけてくれる。キハゲは年下だけど一番落ち着いてる。でもある一点においてはメチャクチャに熱い心を持ってるし、優しいところもあるんだよ。……これは内緒だけど、キハゲの中身は可愛い女の子なんだぞ」
俺の肩に顎を乗せて聞いていたあんずはどうもびっくりしてるみたいだ。お互いの顔が近すぎてそっちを向くことができないけど、なんとなく雰囲気で分かる。
「ほえー、アカシンさんがこんなに長く喋ってるの初めて見ました……」
「なんだそっちにビックリしてたのか?」
「あ、えっと、そうじゃなくて。アカシンさん、ハゲさんたちのことが大好きなんですね?」
「ああ。かけがえのない友だちだ。付き合い自体はまだまだ短いもんだけど、あいつらがいないことなんてもう想像もできない。友情に時間は関係ないんだよ。あんずとだって出会って少ししか経ってないけど、こんな風に仲良しだろ?」
みんなと出会ってからまだ一年も経っていない。それでも俺の世界は大きく色づき広がった。
人見知りやコミュ障も少しずつだけど良くなっていると思うし、こうして知り合いや友だちが家に来ることも増えた。
一人でいる時間も変わらず好きだけど、一人でいるしかない時間はずいぶんと無くなった。それが嬉しくて、俺を変えてくれた友だちといつも見守ってくれる家族は何よりも大切な存在だ。
「わたしたちは仲良しです、いいことですね!」
「うん、いいことだ。よしあんず、フルダイブじゃない古いゲームならウチには博物館みたいにたくさんあるぞ。我が赤石家のコレクションを見せてやろう」
「あんずが生まれる前のゲームもあるんですか?」
「甘いなあんず。それどころかあんずのお父さんお母さんが生まれる前のゲームすらあるぞ。部屋はあっちだ、出発!」
「出発ー!」
あんずを背負ったまま立ち上がり、ゲーム保管庫になっている部屋へと歩いていく。驚くがいいあんず、あの部屋には白黒の人間を左右に動かすだけのゲームだってあるんだぞ。ふふふ、どこからがあんずにとってゲームと認識できるのか楽しみだわ!
「ああ、あんずがすごく楽しそう……ってどうしたの黄崎さん、顔真っ赤だよ!?」
「いや、あの、その……ストレートに可愛いと言われたから、予想外に、うう……」
「可愛いなんてきーちゃんにとっては耳にタコができるくらい言われ慣れてる言葉でも、相手と状況によっては効くってことだねぇ」
リビングを出る前に三人が話していた言葉はよく聞こえなかったけど、仲良きことは素晴らしい。それがすべてで真理だよな。
恋愛感情を持っているかと言えばそうとも言えるしそうでないとも言える。今回は予想外の人に予想外のタイミングで言われたのでガード判定が間に合わなかった、という感じ。




