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青春チャンネルはこんなゲームもやってます

これともう1つくらいが本編で主人公がアカハゲの中身が自分だと暴露した時にアップしてたやつですね。

「ふーざーけーるーなー!!なんで開幕すぐに三勢力から袋叩きにされるんだよ!?」


雲の上にある都市に建つ神殿、その中にいる青からホログラムウィンドウ越しに抗議のシャウトが飛んでくる。それに対して俺たちができることといえば、頭を掻きながら謝罪することだけだ。


「ゴメン、なんかミスった」


「コンソールの戦争開始ボタンの位置が悪いんですよ」


「まあでも経験者のアオハルならいいかって思ってよ」


「そんなふわっとした感覚で僕の天界に攻め入ってこないで!!げぇっ、神殿の正門破られたぁ!?ていうかみんな戦神で始めてるのなんでぇー!?」


開始十分くらいで三柱の戦神(+天兵)にボコボコにされ、青の神殿が陥落した。さすがにこれはやり直した方がいいかもしれんね。



天界経営型RTSゲーム『Unification of Heaven』、略称UoH。世界中の天界から一つを選んでその主神……に権利を委任された的な何かとなり、自分の天界とその影響下にある人界を盛り立てつつ他の天界を併呑していくことを目的としたストラテジーゲームだ。なおプレイヤーの立ち位置があやふやなのは一神教への配慮らしい。


勝利方法は『一定数の天界を傘下に置く』『信者の数が一定数に達する』の二つをメインとしつつ、選んだ天界ごとに固有の勝利条件が設けられているのでそれを目指す感じになる。当然の様にそれぞれの天界で得意不得意があるからどれを目指すかはプレイヤー次第だな。


どうも青はこのゲームを少し前からやっていたみたいで、第四回青春チャンネルの題材ゲームとして設定したのだが……。


「タケミカヅチとインドラとトールが一斉に襲いかかってくるのは卑怯だと思う!」


「だから偶然なんだって」


「それにしたってなんで僕なんだよ、無難に近い天界を攻めればいいじゃん!」


どこの天界でも自由に攻められるとはいえ、確かに遠いところは兵を送るのに時間がかかるし併呑した後も何かと不便ではある。メリットがあるとしたら神話体系がガラッと変わるから珍しいタイプの神を仲間にできるとかかな。


「私もアカハゲさんも中華が近いので……あそこ戦神多くないですか?」


「目を開けただけで山を吹き飛ばす破壊神様がいるインドが何言ってんですかねぇ……!」


「シヴァはそんなすぐに仲間になりませんよ」


プレイヤーは主神に近い存在ではあるが、実際には最初から天界に所属する神全員が言うことを聞いてくれるわけじゃない。始めに戦神、豊穣神、賢神のうちの誰か一柱をパートナーとして進め、条件を満たすことで他の神たちも力を貸してくれるようになるのだ。最初のパートナーはそれこそインドラみたいな頂点クラスの神が来てくれるかわりに、最初の選択以外でパートナー候補者を仲間にするのはかなり難しいから要注意だ。


割と複雑なシステムで腰を据えてやるタイプだから一回のゲームがかなり長くなると聞いていたんだけど、まあ場合によっちゃ開幕数分で終わることもある、と。これはかなりのレアケースだと思うが。


「俺もなんとなくで北欧神話を選んだんだけどよ、ギリシャとかローマとか有名どころがメッチャ怖ぇわ。あいつらの勢力おかしくねぇ?」


「オーディンとトールの二大戦神抱えといて文句言うなぁー!!ただでさえ戦神兼賢神と戦神兼農耕神でクッソ優秀なのにさぁ!」


よほどの多神教じゃないと権能を兼任してる神なんて珍しくないしな。一神教のところは条件を満たしたら主神からより多くの権限を委任されたり、配下の天使とかが増えたりって感じらしいけど。うちのタケミカヅチ君はすごくフレンドリーだから逆に気後れしたけどいいやつだったよ、出番が十分弱だったのが惜しまれる。


「まあ落ち着けって。出オチとしてはいい画が撮れたんだからそれで納得してくれ」


「まあね……最後に聞くけど、本当にワザとじゃないんだよね?」


「おう(震え声)」

「もちろんです(目を逸らす)」

「当然じゃねえか(渾身の作り笑い)」


「僕はもう誰も信じないよ!!」


落ち着け、確かにケンカを売ったのはワザとだけどまさか他の二人もやるとは思ってなかったんだ。だからほら、うん、ゴメンて。


「気を取り直して、UoH始めましょう。カメラ回しますからアオハルさんもこっち来てください、メインパーソナリティでしょう?」


隅でまだいじけているアオハルをチャハゲと一緒に引きずり出して立たせる。ここまでむすっとした顔の青は珍しいから撮っとけ撮っとけ。


「好きな神様はアフラ・マズダ、でもゾロアスターはいろいろ厳しいからキリスト教系でやるよ。忠実なる神の(しもべ)、アオハルもといアオエルだよ」


「好きな神様はオオワタツミ。日本神話やっていきます、アカハゲノミコトです」


「今回はギリシャ神話でいくぜ、チャハゲウスだ。神話はよくわかんねぇけどギリシャのは有名だからな。強いて言うなら好きな神様は韋駄天(イダテン)だがそれ以外知らねぇから中華はパスだ」


「インドのキハゲースラです。好きな神はデウス・エクス・マキナ……え?それ自体は神じゃない?えー、じゃあルドラが語感的にいいと思います、はい」


要所要所で通話をしつつもそれぞれで録画をして、あとは編集さんに丸投げする感じだけど大丈夫かな。まあある意味で最高の撮れ高はすでに出てるし、いい感じにしてくれると祈ろう。


「とりあえず最初の一年はプレイヤー同士の戦いは無しでいこうよ。別にいじけてるわけじゃなくて、極端な速攻は成功しても失敗しても味気ないからさ」


「同じことを何回もしても面白くねぇからな、いいんじゃねぇか」


「「異議なし」」


意見もまとまったところでいざ天界。最高の天界を作るのは果たして誰になるかな?




みんなと別れて日本の天界こと高天原にある自分の神殿にやってきたが、この日本神話特有の木造建築っぷりよ。いい雰囲気をだしてくれてるじゃないか、これだから日本神話は落ち着くんだ。


「最初の三柱はタケミカヅチ、ウカノミタマ、オモイカネ……うーん、多少なりとも猶予があるなら内政を安定させるべきかなぁ」


よし、今回のパートナーは豊穣神であるウカノミタマに来てもらおう。本名よりもお稲荷様と言った方が通りはいいかもだけど、日本人としてこれ以上親しみのある神様もそうはいないよな。


それじゃあカモーン、ウカノミタマ!


「ウカノミタマです。アカハゲノミコト様の統治が実り多きものになりますよう、微力ながらお力添えします」


足元には二匹の狐が寄り添っていて、自身も狐耳が生えているという優しげなお姉さん。わかりやすくていいけど、なんと言いますか稲荷感全開できたねぇ。


「よろしく、まず食料を安定供給して飢えをなくすつもりだ。衣食足りてこそ他のことができると俺は思ってる」


「そのための私です。我が豊穣の力、ドンと使ってください」


開始即侵略をしといて何をぬかすかと青から嫌味が飛んできそうだが、前は前、今は今で切り替えていこう。今回の俺は民に優しい慈悲深い統治神である。なお他の天界に優しいとは言っていない。


UoHでの主な動きをざっくりと分けると『天界の統治』と『人界への干渉』だ。他の神からの要請やら苦情を宥めすかし、神の権能を振るって人界に加護を与えたり天罰を落とすといった行動をとっていく。


大抵の日本の神は酒と食べ物があればあんまり文句を言わないので、豊穣神でスタートをするとそういうところも楽だという。この辺は事前に軽く調べた程度だから実際のところはやってみないことにはわからないけどな。


人界についてはどこも同じようなものだけど、加護を与えてばかりでは神への敬意が薄まってそれを当然と考えだすので、適度に天罰を与えたりして引き締めて行かなくてはいけない。ただ、天罰以外でも自然災害とかは起こるからタイミングを見てやらないと洪水を起こしたら台風も来て人界壊滅、なんてこともあり得る。なにごともバランスが重要だな。


「恐怖政治をするつもりもないし、最初の方は飴を舐めさせとくかな」


人口が増えないと人界も発展しないし、なにより供物が増えないので天界の神様からも不満が出てくる。てなわけでまずは穀物だ、すなわち米だ!そして酒だ!


執務室に置かれた大きな鏡型のモニターに映る人界の様子を見ながら、この辺りに豊穣の加護を、とウカノミタマにお願いしていく。当然ながら権能を振るうのにも限度やクールタイムがあるので乱発はできないが、とりあえず今のところはやれるだけやっといた方がいいだろう。


現在の信者の数は百人。これは人口の増加やら他の天界を吸収したりするとかなりのスピードで増えていくのでそこまで気に病むことはない。中盤以降で天界と人界の両方が安定してくるとなかなか増えなくなるらしいけど。宗教って世の中が荒れてる時ほど信者が増えるっていうしな。


「アカハゲノミコト様、我らが大御神アマテラス様がお目見えです」


ウカノミタマの案内で執務室に入ってきたのは、暖色系の美しい着物に身を包み神々しくも柔らかい光を纏った女神。この高天原の主神であるアマテラスだ。


「大事はありませんか、アカハゲノミコト。そなたとウカノミタマがいれば大丈夫だと思いますが、何か困ったことがあればいつでも申しなさい。我が日輪の加護はいつでもそなたと共にありますからね」


「有り難きお言葉」


実際に協力を得られるのはまだまだ先だけど、アマテラスの権能は任意で天候を変えられるというシンプルにして超強力なものだからな。さすがは主神だ、スケールが違うぜ。


こんな感じでイベントを挟みつつ、あっという間に数か月が経った頃に通話を求めるホログラムウィンドウが浮かび上がった。対象は全員、発信者はキハゲか。


「あのーすいません、キハゲースラですけど。みなさん、今大丈夫ですか?」


「どうしたの?何か不具合?」


「さっそく宣戦布告か」


「いえ、ちょっとお聞きしたいんですけど誰か戦神で始めた人います?もしいたら私のところに個別連絡ください」


俺は違うから関係なしっと。始まってまだ間もないのに戦神を求めるって何事だろう、インドの固有イベントかな?


日本に神無月もとい神在月のイベントがあるようにそれぞれの天界でも固有のイベントがある。それはメリットだけではなくデメリットがあるものも存在するが、だいたいは強大な神がいる天界ほど面倒なイベントになる傾向が強い。ラグナロクとかマジ勘弁だろ。


日本の神様は一柱一柱の権能こそそこまで大きくないものの、神様同士の仲はそれなりに良好だし積極的に殺戮と破壊に勤しむタイプの神様もいない。その辺も含めて統治が安定しやすく初心者向けらしい。逆に人界も天界も狭い日本に閉じこもってるから外敵相手にどうこうするっていう権能がある神が少ないんだけどな、無いわけじゃないけど。




そして数年が経った頃……


「お礼参りに来たぞアカハゲノミコト!我らが主の栄光の下にひれ伏せ、天使軍突撃ィィィ!!」


「はいはい神風神風。シナツヒコ様お願いしまーす」


「ぬわぁー!?こ、この民族総引きこもり野郎ぉーー!!」


おうおう天使軍が扇風機の前に置いたタンポポの綿毛のように散っとるわ、良きかな良きかな。どうせお前はそういうことをしてくるだろうなと思って、早めに風神であるシナツヒコ様と協力関係になっといたのさ。


そして俺の国防策は神風だけではない。さあ、後ろを見るがいいぞ駄天使アオエル。


「どうも、同盟の名のもとにやってきましたインド神軍です。私たち一神教は肌に合わないんでお引き取り願えますか。やっちゃってください、インドラさんスカンダさん」


「神風でズタボロにされた上でインドまで相手にしてられないよ!おのれ、覚えてろー!!」


神風も突破できない程度の軍勢でよく攻めてこようと思ったなコイツ、さすがに日本を舐め過ぎだろ。まあ無理に突破してきてもキハゲースラのインド軍が来るまで余裕で耐えられるくらいの備えはしてあるけどな。


「救援、感謝する」


「いえいえ、同盟天ですから。次のヴリトラ討伐イベントの時に派兵してくれたらそれでいいですよ」


彼女に聞いた話だとインドには定期的にヴリトラが要らんことしてくるイベントがあるらしい。しかも回を重ねるごとに強化されていくので戦神や軍神を継続的に増やしていかないとダメなんだとか。


「了解、タケミナカタを送るよ」


「その神様ってタケミカヅチにボコボコにされて逃げ出した先で地元の神の領地をぶんどった神でしたっけ?」


「その逸話にはいろんな説があるから一概には言えないな、ここのタケミナカタは割と穏便にタケミカヅチと和解したらしいし。メッチャ追いかけ回されたのは事実らしいけど」


ははははは、と二人で笑っていると全体会話用のウィンドウが立ち上がった。発信者はアオエルか、改めての宣戦布告かな?アイツも懲りないねぇ……。


「た、助けてー!本拠地に戻ったらエジプトの天界に強襲された!誰か、ヘルプミー!!」


「「敵対した相手とは一年間手を組んだりできないんで……」」


「クソァ!チャハゲウス、君なら来てくれるよね!?」


「すまねぇ、今ギガントマキアでそれどころじゃねぇわ」


「ガッデーッム!!」


そういやギリシャ神話も結構な規模の戦いがある神話だよな。戦いの歴史がある神話は大変だなぁ、やっぱり平和な島に引きこもるのが一番だわ。


「あーダメだ落ちる落ちる!ていうかエジプト神って顔だけ別の生き物なの怖っ!えっ何アレ顔だけ虫なんだけど怖っ!!エジプトの人には悪いけど怖っっ!!」


「インドも顔と手がいっぱいですけど、キリスト教の天使にもスゴイのいますよね。全身目玉だらけとか常に燃えてるとか」


「ああ、天使って上位になるほど意味不明な姿してるっていうよな。日本は……せいぜい尻から食べ物を出す女神がいるくらいかな」


「ほのぼの神様トークしてる場合かぁ!なんでだよ、今回も僕なにも悪いことしてないじゃないかぁぁああ!!あっ……」


ものすごく切ない声を残して青のウィンドウが消えた。まあこれはつまり、うん……グッバイ アオエル、フォーエバー。


「弱みを見せたやつから死ぬ、古代神話時代からの真理だぁな……」


俺の日本に攻め入らず神風を受けてなければアオエルがやられることはなかっただろう。一時の感情に身を任せて機を見誤ったことが全ての間違いだったのだ……。



その後ローマ・北欧連合にチャハゲウスが呑みこまれ、キハゲースラは乳海攪拌(にゅうかいかくはん)のイベント中に中華に滅ぼされた。そして俺も中華に滅ぼされるカウントダウンが点滅したところでメソポタミア神話が規定の信者数獲得により全天の覇者となったのであった。


「NPCに負けちゃったな……」


「アイツら機を見るに敏すぎんだろぉがよ……」


「乳海攪拌中は全神の能力が半分になるとか聞いてませんよ……」


ぽっと出のメソポタミアに負けるというしょっぱい終わり方に誰もが納得いってない中、最初に脱落したアオエルもといアオハルがボソッと呟いた。


「やっぱりベリーハードはきつかったかな……」


は?今なんと仰いましたかね君ぃ……俺の耳がおかしくなければ、ベリーハードとな?


「お前ド級の悪いことしてんじゃねぇか、ふざけるな!」


「被害者ヅラしやがってクソボケがぁ!!」


「神の名のもとに天罰を下しますよ!」


「うるさーい!ちょっとくらい難しくしないと撮れ高でないだろ!遊びでやってんじゃないんだよ!!」


「オイ、こいつを合法的に袋叩きできるゲームねぇのか!?」


「俺まだ持ってないけど『OUT LAWS(アウトローズ)』ってのがいい感じらしいぞ。釘バットとかある」


「次のゲームは決まりですね、夜露死苦Deathよ!」


漁夫の利はストラテジーの基本です、漁夫れない時は完全に押しつぶせるくらいの戦力を整えないとこうなりますよって話。

エンターテインメント性や遊び抜きで真剣に勝ちを狙いに行くなら、青は内政をがっちり整えた後で膨大なリソースを背景に押しつぶすタイプです。

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― 新着の感想 ―
[一言] ただただ一言、仲良いなこいつらwww
[一言] 追加パッチで外なる神々追加来ないかな?byハスター教徒
[一言] 天使軍が扇風機の前に置いたタンポポの綿毛のように散っとる そのシーンとても見たい! ゲームで何かに感情任せに意識を向けた途端、予想外のことが起きるのはあるあるですよねぇ。 やるからにはしっ…
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