初めての人殺し
見ていただいて、ありがとうございます。
初作品なのでお見苦しい所もありますが、よろしくお願いします。
(言い訳)
―――ガチャ
ドアノブが周り、ゆっくり軋む音が部屋に響く。
自分を殺そうと探す人間から逃げる。
この日本で普通に生きていれば、そんな経験などしない。
だが、悲劇はいつも突然やってくる。
暗闇の中、鼓動と動機が早くなる。
粘度の高いつばを飲み込む。
―――ガチャ
ゆっくりとドアが開く。
ライトの光が暗い部屋に差し込む。
息を止め、開いた扉の後ろに来るよう壁に張り付く。
歯が恐怖で震えそうになり勝手に動く。
それを歯を食いしばり押しとどめる。
「ここじゃないかぁー。まったく、どこいったんだ」
初老の医者だ、懐中電灯を左右に動かし俺を探している。
ここで必要なのは情報と、逃走経路に武器や協力者。
挙げればきりがない。
(この医者を捕まえて、人質に……。)
冷凍庫の幾千の人の皮を思い出し、自分を叱咤する。
人間の悲痛な顔に見えた皮が、頭の中に焼き付いている。
人質が効きそうな甘い場所ではないのは確かだ。
この医者は見た目は丸腰、俺がこの工場の真の姿に気が付いてない前提だろう。
ならば……
ジッポライターを右拳に握りこみ、背後から医者を殴りつける。
倒れ込む初老の男の頭を何度も踏みつけ、ボロボロにした。
この部屋を知っている男が、大量殺人を知らないはずがない。
「この腐れ外道が! 死んで詫びろ! 死ね! 死ね!」
「ま、まてぇ。っごふ! 助けてくれぇ!! 何でじゃ、やめてく……っぐふ」
「お前には聞くことが山とある、さっさと立て!」
「…………」
暗闇の中、転がり落ちたライトの光だけが部屋を照らす。
ライトを拾い上げ、照らす。
……医師は死んでいた。
俺は初めて人をこの手で殺した、息が上がり肩で息をする。
鼓動は急ぎ心音を刻む。息が熱く焼けるようだった。
相手の死を認識すると、自分の思考に言い訳が雪崩の様に流れて来る。
狂った殺人者を倒した、殺らなければ殺られていた。
ここを脱出できたら、これは罪になるのか? いやならないだろう。
言い訳は自己保身へと変わる。
一通り自己保身の理論武装が終わると、力が抜けてその場にへたり込んでしまった。
「初めて殺してしまった……人を」
後悔している暇などない。自分のTシャツを脱ぎ手袋の様に巻く。
今更指紋など気にする余裕はないのだが、焦って思考が追い付かない。
医者の死体を漁っていく。
名前入り入場許可書・血で汚れた白衣・懐中電灯・白いランニングシャツ・茶色のチノパン。
懐中電灯と入場許可書を、死体から奪い取る。
白衣を脱がし、地面の血痕を拭きとっていく。
医者をひきずり、冷凍庫の奥へとしまう。
「ふぅぅぅ、どうしてこうなったんだ。何で、こう……っ糞! 糞!」
とにかくここにはいられない、行動の前にタバコを吸う。
医師の死体を見下ろす、ストレスが体を蝕む。
額の汗を拭い、廊下へ恐る恐る出ていく。
廊下は5メートル毎に蛍光灯が天井に着いているが、薄暗く先は見えない程長い。
「……これからどうすればいいんだ」
最初の保健室を目指し、無我夢中で逃げた道を思い出しながらただ進む。
人を殺した精神的な痛みは、タバコでも一時的にしか取れない。
ただ自我もなく、目的地へ足は動き出す。
長い長い薄暗い廊下をヒタヒタと、ヒタヒタと。