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病院工場  作者: 灰得名
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目が覚めると

廃院した病院って、それだけで怖いですよね。




「ねぇねぇ? 知ってる? 梅田病院の噂」




「あぁ、知ってる。 廃院になったあの病院だろ。確か豚丼の梅田病院だっけ?」



「そう、行方不明者とか頭のおかしい人間が暴れたとか………病院には地下室があるって知ってる?」



「あー建築会社の建築設計図が流出して噂になったやつ?」



「そう、その地下室は拷問部屋になってるんだって!」



「あぁ、よくある噂だ」




 俺は誰と話してるんだろう?

辺りは何も見えない墨汁の様な暗闇。

若い女の親し気な声、この人は誰だ? そしてここはどこ?



―――ガシャン!



 突如、スポットライトが付く。

深い暗闇の中、どこからか照された光源。

自分の足元を円く照射した。



「うおっ!」



 暗闇に慣れた目を、強烈な光が襲う。

突然の眩しさに目を細める。



「きゃはははは」



 暗闇に甲高い声が響く。

足元は石のタイル、辺りを見回すが深い暗闇ばかり。

俺は深呼吸をし、精神を落ち着かせる。



「あー、君は誰だ? ここはどこか教えてくれないか?」



「ここは梅田病院。廃院の地下室だよ。早く起きないと一生起きれないよ?」



 そうだ……思い出した。

廃院した大企業が運営する病院、梅田病院。

就職が決まり、暇を持て余した俺と大学のメンバー。

卒業最後の思い出と、廃院した梅田病院に肝試しで乗り込んだ。

記憶が濁流の如く流れ込んでくる。



「これは夢なのか?」



「さぁーね、ただ最初の部屋で寝たらゲームオーバー! ふふ、ふふふふ」



「よ、よく分からないが起こしてくれ」



「了承した」


「了承した! 了承した! 了承した! 了承した! 了承した! 了承した! 了承した! 了承した! 了承した! 了承した! 了承した! 了承した! 了承した! 了承した! 了承した! 了承した! 了承した! 了承した! 了承した! 了承した! 了承した! 了承した! 了承した! 了承した! 了承した! 了承した! 了承した! 了承した! 了承した! 了承した! 了承した! 了承した!」



 壊れた玩具の如く、同じ言葉を激しく羅列していく。

ライトで照らされた自分以外は、暗闇。


暗闇から聞こえる狂気じみた声。

声が鳴りやむと、何も聞こえない静寂が戻る。



「そろそろ開幕だね」



――ガシャン!



 スポットライトが消え、俺は漆黒の暗闇に飲みこまれた。

消えたライトと共に意識が途絶える。



 目を覚ますと明るいベットの上に横たわっていた。

清潔そうな白で統一された部屋。

病院の殺風景な一室とでも言うべきか。

扉は一つ、家具はベットと薬品の棚のみの殺風景な部屋だ。


 目の前には、白衣を着た白髭の優しそうな初老の男。

どうやら医者の様だ、こちらをのぞき込んでいる。



「ここは?」



先程の会話は、夢なのか……。

それにしては臨場感が、いや記憶に鮮烈に刻まれている。

ベットから起きようとすると、頭の中が揺れ景色がぼやける。



「落ち着いて、大丈夫だ。ここは医務室だね、君は頭を打って混乱しているんだよ。異常がないか簡単な検査をするからゆっくりしていたまえ」



 満面の笑みで笑う初老の男。

何があったのか、思い出せないがここは安全な気がする。

目にライトを当て、喉奥を検査される。



「うん、これなら大丈夫だ。健康的な男の子だ。最後に麻酔の注射を打つよ、最初ちくっとするけどゆっくり眠れるからね」



「はい、ありがとうございます……」



 医者が注射を取りに、薬品庫に向かう。

先ほどの夢を思い出す、狂気を具現化した女の声。



 ―――最初の部屋で寝たらゲームオーバー!



「まさかな」



 周囲を見回す、明るい照明と清潔感のある部屋。

医師の背中に、薬品棚と入り口なんにも変わらない。

被害妄想に振り回されそうになるのも、記憶が戻らない事が一番の原因。

ポケットに手を入れると、何やらくしゃくしゃの紙が出て来た。


 ベットの上には梅田病院のパンフレットと、数枚の小銭。

地図が乗っているので、廃院前に貰った奴を持ってきていた。

キャッチフレーズは一度も体験したことのない病院のはずだった。



「っな! こ、これは……」



 白とピンクの明るい基調に、ピンクの可愛いマスコットキャラの梅田兎。

見た事も無い幸せを体験と大きい見出し。

そんなパンフレットだったはずだ。


 俺のポケットに入っていたパンフレットは違っていた。

紫と血の様な赤を基調に、蛍光の不気味な白い文字。

赤紫のナロウ兎は太り、中年の腹をベルトがきつそうに抑えている。

不気味な笑いでこっちを見ている。



「な、なんだこれ」



―――!!


 突然イラストのナロウ兎の目が、泳ぐ。

青い瞳の中を白い目が猛烈な勢いで泳いでいる。



「うお! 気持ち悪っ」



 思わずパンフレットをベットの下に投げつける。

衝撃で小銭が数枚散らばる。

小銭は転がり、ベットの下のパンフレットの文字の上で立つ。

横に倒れるのではなく、5枚とも立ったのだ。

その側面の当たる文字の左隣の指し示した文字を見てぞっとする。



こかげがあって気持ちいい。


「こ」



ロビーには大きなモニターTV。


「ロ」



最高の体験ができる入院生活


「さ」



レールの上を走る全自動、車椅子



「レ」



ルールを守って楽しい院内生活を!


「ル」



 全てを繋げると、こロさレル。

つまり殺されるになる、安易な暗示だが今の自分の心を揺さぶるには十分だった。

ぼやけた頭を回転させ、自分を落ち着かせようとする。


そんな時、恐ろしい事に気づいてしまう。




―――廃病院になんで医者がいるんだ。



医者が帰ってくる、急いでポケットに小銭とパンフレットをしまう。

眠ったら殺される……医者の麻酔。

思考の濁流と、恐怖が体を震わせる。



背筋から冷たい気配が放たれ、体に電気が走る。

自分の腕を持って笑う医者がいる。

腕を動かそうにも、すごい力だ。



「それじゃぁ刺しますよぉ」



 その医者の笑顔はどことなく邪悪に見える。

背筋がどんどん冷たくなり、冷汗が落ちる感覚が分かる。

この医者が自分を殺す気なら、拒否や時間稼ぎは無駄だ。


―――ッドン!



「な、何を! 待ちなさい君! 一人で出てはいけない! 君は今不安定なんだ!」


 考えるより先に、医者を突き飛ばし扉へ走った。

幸いなことに鍵は開いていた。

長く薄暗い廊下を何も考えず、ただひたすらに走った。

後ろからは医者が走って追いかけて来る。

命が懸かった追いかけっこに、自分でも考えられないスピードだ。

迷路の如く入り組んだ廊下を走り回り、鍵の開いてる部屋に滑り込む。



「はぁ、はぁはぁ。っく、糞。はぁ、なんとか逃げ延びたか」


記憶を取り戻し、ここから逃げねば。

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