表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

人類救済の薬

作者: 神野 守

「博士、うまくいきました!」


 職員の一人が嬉々として叫んだ。私はすぐさま駆け寄り、彼女の目の前にあるモニターを凝視する。そこには、ウェルナー症候群の症状が見てとれる被験者が映っていた。


「おお……完璧だ……」


 想像以上の結果に、私の声が震えているのがわかる。あまりにも感動しすぎて、喜びの表現方法がわからない。体が宙を舞っているかのように感じられ、よろけて転びそうになる。


「危ない! 大丈夫ですか?」


 そばにいた職員が支えてくれた。私は「ありがとう」と声をかけ、彼女の肩を優しく叩く。知らぬ間に、私の目に涙が溜まっているようだ。両頬を伝う涙が冷たい。


 見れば、職員たちの目にも涙が溜まっていた。無理もない。この日を迎えるまで、どれほど困難な道のりだったか。何年もの間、彼らはプライベートを犠牲にしてきたのだから……。


「博士、おめでとうございます」


 そう言って抱きついてきた彼女を、私もそっと抱きしめる。「ありがとう」それしか言えない。彼女は恋人と別れてまで、私の研究に付き合ってくれた。


 私は職員一人一人と握手を交わし、感謝の意を伝えた。そして一同に向かって深々と頭を下げ、その部屋を後にした。


 自分の部屋に戻ると、ゆったりと椅子に座って、机の上のファイルを手にとる。「長かった……」これまでの人生が走馬灯のように蘇ってくる。


 増え続ける人類の人口問題。このままでは人類は滅亡する。その解決のために人生を捧げるきっかけとなったのは、先祖代々家宝とされてきた箱を見つけた事だった。


 我が先祖が一瞬で老人になったというその箱。その箱に隠された秘密をようやく解明し、私は早老症を発症させるメカニズムを解き明かした。これで世界の人口を大幅に削減できる事だろう。


 早い……。私の手が急速にしわくちゃになっていく。体が重だるい。唾がうまく飲み込めない。肺が苦しい。これが年老いると言う事か。もう数時間もすれば心臓も止まる……。


 これを実用するかどうかは、為政者たちに委ねよう。ここに私の論文がある。発表するかどうかは研究所の皆に任せる事にしよう。


 何はともあれ、私は充分に満足だ。私は私の人生を誇りに思う。そして、私の先祖を誇りに思う。我が先祖、浦島太郎……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  怖かったです。しばらく鳥肌が止まりませんでした。  幼い頃、この昔話を聞かされた時の、ほのぼのした思い出もろともえぐられた感じです。  あの話は悲劇(あるいは「暗い喜劇」)のラストだっ…
[良い点] はじめまして。 深い内容のお話ですね。増えすぎる人工問題を解決する手段としてウィルスをばら撒く、という話に通じるような。 これが為政者の手に委ねられたとき、それが政治的に利用され、恣意的理…
2019/04/30 20:08 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ