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【 竜族の姫君は、…… 】  作者: 上田リサ
6/8

 竜族の姫君は、呼び捨てしたい(3)

二章は(4)までです。

今回も区切りが悪いです。すみません。


 城に戻ったら、ガーランドはエーデル王子に連れて行かれた。

 わたくしは最後までダメダメだったわ。


「では、失礼いたします」

「え、ええ。今日はあなたに会えて本当に良かったわ、が……ガーランド、殿!」


 会えてうれしいという気持ちを思い切って言葉にしたら、やっぱり気恥ずかしくなって名前につい力がこもってしまう。

 では、と二人が歩き出すと、シュテフも「さて」と黒い笑みを浮かべながら、国王のところへ『話し合い』という名の脅しをかけるべく立ち去った。

 泣かされるがよい、ボンクラ王め。今度から泣き虫王様と呼んでやる。

 去りゆくガーランドの後ろ姿をボーっと見ていたら、モンテル夫人が低い声で囁く。


「姫様。そろそろお姿を」

「!」


 ハッと気がつけば、わたくしはまだ角と尻尾を出したままでいたらしい。 

 誰も何も言わないからという理由は通用しないとは思うが、ガーランドの横にいるだけで、まるで故郷のベルエンダーシュの王城にいるかのように気が抜けていたのだ。

 あわてて角と尻尾を消すと、モンテル夫人が困ったように微笑む。


「相性が良過ぎるというのも、少々困りものですわね。ですが、これから慣れていかれればよろしいかと」

「そ、そうね」


 顔が熱い、と両手で頬を挟んでいると、侍女や騎士までもがぬっる~い視線を送ってくる。


「も、戻ります」


 逃げるように(と言っても侍女や騎士は付いてくるんだけど)わたくしは足早に部屋へと歩き出した。



 あーあ、どうしていつものように呼び捨てにできないのかしら。



 部屋に戻ったわたくしは身なりをキレイにしてから、一人寝台に横になって考えていた。そのうちどうやら眠ってしまったらしい。

 これも『神気』に癒された効果かもしれない。

 もちろん、動きがあったらすぐ起こすように言っていたのだけど、モンテル夫人に起こされたのは随分たったあとの夕食の時間だった。

 侍女に着替えを手伝ってもらいながら、モンテル夫人から簡単にこれまでの動きを聞く。

 まず、夜会だが決行されている(現在進行形)。

 倒れそうな王、王妃は夜会のあいさつで第一王子の婚約予定がなくなったと宣言したらしい。その原因は国内で第一王子より強い『神気』持ちが見つかり、ベルエンダーシュ国の条件を第一に考えた結果であると言ったらしい。

 ええ、まさに正論だわ。ただし、それは誠実に実行していた結果であるならば、の話。ある程度の人は真実に気がついているはずよ。

 この国の王は、第一王子の婚約者はわたくしだと公言していた。今になって婚約予定だったが、なんて言葉を濁しても意味がない。

 さらに今さら第一王子よりふさわしい『神気』持ちが現れたとしても、二年という間どこにいたのか、またわたくしと第一王子がきちんとした信頼関係を結んでいれば婚約しても何の問題もないことも、ちょっと考えればわかること。

 なにより、夜会に第一王子はおろかわたくしとその新しい相手とされる『神気』持ちも登場しないとなれば、この裏には何かあると公言しているに等しい。

 だって一応婚約発表の場であったのだから、わたくしが一言お詫びなどの挨拶するのが筋ってものじゃない。それなのに、ベルエンダーシュ側は誰一人参加していない。

 ね、おかしいでしょ。

 まあ、そんな第一王子婚約無しになりました、の話のあと、王と王妃は各国要人に「うちの第一王子相手がいません。おたくのお姫様とどうでしょうか」と売り出しにかかったらしい。


 すごいな、王と王妃。しかも婿として出すこともOKらしい。でも相手がいないって、愛人と子どもはいるけどね。どうするのかしらねー。


「ずいぶん詳しいわね、モンテル夫人。その場にうちの国の者はいないのでしょ?」

「エーデル王子の侍従殿からのお話ですわ」

「なるほどね」


 完全に兄を切っているらしい。


 シュテフは一度戻ってきたらしいが、またどこかへ行ったらしい。次の標的は誰だろうか。多すぎて予想がつかない。

それから二名の騎士が、親書を携えてベルエンダーシュへ向かったと聞いて、わたくしは顔を曇らせた。


「どこまで書いたのかしら。お父様がお怒りにならないといいのだけど」

「大丈夫でございますよ。わたくしめもお手紙を書かせていただきましたので」

「モンテル夫人が一筆書いてくれているなら安心ね」

「はい。ガーランド・フォーン殿は、とてもすばらしいと書かせていただきました」

「!」


 彼の名前を聞いただけで、なぜかわたくしの顔が猛烈に熱くなってとっさにうつむく。


 ど、どうしたのかしら……。急に頭の中に彼の姿がパパパッと浮かんできて、今も絶賛脳内再生中なのですけど!?


 一人狼狽えるわたくしに気がつかないふりをして、モンテル夫人はそしらぬ顔で話し続ける。


「そういえば、ガーランド殿は無事お一人身に戻られたそうです。そして、姫様との契約についてのお日にちは十日後に、とのことです。エーデル王子が仲介者となって執り行われるそうですわ」

「い、十日も会えないの?」


正直な気持ちを口に出して顔を上げたら、モンテル夫人が「まあ」と嬉しそうに驚いて微笑む。


「ガーランド殿でしたら、また明日お会いできますわ」

「そ、そうなのね」

「そうでなくても、姫様がお呼びすれば何を差し置いても参りますわ」

「それは命令じゃなくて?」

「いえ、命令です」

「そ、それはなんだか嫌だわ」

「あらあら、姫様ったら」


 ほほほ、と上品に笑ってモンテル夫人はうなずく。


「実は、ガーランド殿を姫様の護衛騎士にという申し出がありましたが」

「護衛? わたくしにはもういるわ」

「ええ。少しでもお側にとのエーデル王子からの申し出です」


 確かに護衛騎士なら日中のほとんどを一緒に過ごせる、とふわっと考えたのだけど、わたくしはため息をついて首を横に振る。


「ダメ。それも結局『仕事』ね。わたくしと一緒にいるのが今までの『仕事』と同じだなんて、考えただけでも不愉快だわ」

「まあ、姫様。ではどうやってガーランド殿にお会いするのですか?」

「そ、そうね。できれば会いに来て欲しいのだけど、それも周りから言われてくるご機嫌伺いだったら嫌だわ」

「姫様に会いたい、と恐れ多くも言える男なら良いのですが」

「彼は……違うわね。彼はわたくしを自分の出世の道具にしようとかそういうタイプではないみたいだし、しばらくはわたくしが会いに行くわ。だから、こっそりと彼のスケジュールを把握しておいてちょうだい」

「まあ、姫様がこっそりですか?」

「そうよ。だって前もって知らせたら……に、逃げられたり、隠れられたりしたら嫌じゃない。それに、変に気をつかわれても……」


 そうよ。わたくしガーランドのことをほとんど知らないの。だから、ちょっと普段の彼を見たいというのは当然のことだと思う。

 今日の感じでは、特に嫌われているようなことはなかったはず。


 たぶん――だ、大丈夫だったはずよ。角は出しても彼に突き刺さったりしてなかったし、ケガもさせてないわ。


 アベル王子にトカゲなど何だの言われても気にしないけど、ガーンランドまでそんなふうにわたくしを避けたら――と、言いながら考えついて声がしぼんでいく。

 わたくしの言葉が途切れたのを待って、モンテル夫人が急に「うふふ」とかわいらしい声で笑い出す。

 珍しいな、と顔を上げると喜色満面のモンテル夫人と、わたくしの支度を終えその後方に控える侍女達もなぜかみんな笑顔を向けている。


「姫様、それは恋ですわ」

「こ、こい?」

「異性を愛しく、自分を見て欲しい、知りたいと強くお思いなのでしょう?」

「い、愛しい!?」


 思わず叫んだ声が動揺から裏返ったが、今日のモンテル夫人は注意してこない。それどころか、ますます笑みが深まる。


「た、確かに彼のことを知りたいとは思っているけど、そ、それは契約者としてで!」


 自分でも慌てているとわかりつつ、どうにか言葉を紡ぐ。

 だが、次のモンテル夫人の質問ですぅっと熱が冷める。


「まあ、ではあのマリアとかいう令嬢がガーンランド殿を呼び捨てにされていましたが、こちらの件についてはどう思われましたか?」

「不愉快ね。アレの存在は無視していいかと思っていたけど、彼をあそこまで罵ったのだから、それ相応の報いは受けてもらうわ。次に見かけた時は怒気を浴びせてやりたいわね」


 黙っていればかわいい顔をしているのに、あの人を見下げた態度は昨日今日でついたものではない。きっと前からあの態度はあちこちで出ていたに違いない。


「ふふふ。姫様、それが恋の第一歩ですわ」

「ち、違うと思うわ!」

「ふふふ、そうですか。ではそうしておきましょう」

「ちが、違うのよ、モンテル夫人! わたくしは契約者としてちゃんと見て欲しい、という思いがあるだけで」

「では護衛騎士の話は適任ではないですか」

「それは嫌!」

「あらあら」


 顔を真っ赤にして怒鳴るわたくしに、モンテル夫人は「きちんとお断りしておきます」と言って立ち上がる。


「姫様、お夕食の後に少々お時間をいただけますか?」

「ええ、いいわよ」


 これ以上妙なことを追及されるとこっちの身が持たないので、わたくしは用件も聞かずに了承する。

 きっとシュテフから話があるのね、とわたくしは思っていたのだけど――。






読んでいただきありがとうございます。

次回水曜日、よろしくお願いいたします。

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