第4話
コーヒーハウスを出るとアッシュは嬉しそうにカインに声を掛ける。
「なぁ、この後は酒場行こうぜ?とりあえず知りたい情報は仕入れられたんだろ?」
「却下。どうせ君の介抱しなきゃいけなくなるじゃないか。行きたいなら一人で行けばいいじゃないか。」
「そんな事言わずにさ、頼むよ。」
そう言うと、カインを引きずるようにアッシュは酒場に入っていく。
そして翌日、宿屋の部屋にてアッシュは床に座らせていた。アッシュの前には静かな怒りを滲ませながら仁王立ちしている。
「おい、もう昼もとっくに過ぎているんですけど?」
「はい……」
「昨日のこと覚えていますか?」
「……すいません。覚えてないです。」
「は?」
「……すいません。」
酒場に入った後、アッシュは浴びるように酒を飲み泥酔し、結局カインが介抱し宿屋まで運んだのだった。
「ねぇ、行きたいなら一人で行けって言ったよね?」
「……と思いまして。」
「あ?聞こえないよ。」
「カインがいればどれだけ酔っても大丈夫だと思いまして……」
「おい。」
「……すいません。」
こんなやり取りをもう30分近く続けていることに嫌気がさしたカインは、諦めたように呟く。
「はぁ……もう分かったから今日は例の医者の所に行くよ。」
「ようやく終わったか。女かよ、お前は……」
「ん?」
「すいません……」
そんなやり取りがあり、目的のアルベルトの診療所がある工業地区に足を踏み入れる頃にはもうすっかり夜に差し掛かろうとしていた。辺りの建物は工場から出る煙のせいなのだろう、どこも黒く汚れており視界も悪い。また、かなり入り組んだ造りになっており、一本小道に入ろうものなら街灯もなく真っ暗な通りも多かった。
そんなせいもあり、二人はすっかり迷ってしまったのだった。
「迷っちゃったみたいだね。」
「面倒くさい造りしてんな、この地区はよ。」
「しょうがないでしょ。出るのも遅くなったんだから。」
「それを言われると何も言えないけどよ……」
「あ、あそこに人がいるしあの人に聞いてみようか。」
二人が歩く少し前に少女が歩いており、二人はこれ幸いにと道を尋ねる事にした。
「すいません。ちょっと道を聞きたいのですが。」
「はい?」
「アルベルト先生の診療所はどう行けば良いでしょうか。」
「あぁ、それなら私も今から向かう所ですので良かったら案内しますよ。」
アッシュはたまらず声を上げる。
「おお、ラッキー!」
「それは有難いです。僕はカインでこっちはアッシュと言います。」
「私はアンナって言います。」
アンナと名乗った少女は14、5歳くらいの栗色のきれいな髪をした少女で、質素ながらも清潔な衣服を身にまとっており、確かに労働者といった雰囲気はなかった
「アンナさんですね。よろしくお願いします。」
「ここ辺りは道が複雑ですからね、お気になさらないでください。」
そうして、三人は工業地区を奥へと歩き始めるのだった。