カラクリ兵士は幸せの王子になりたい。
「平和な世の中になったものだよ」
この街に住む人は昔を思い返すとき、こんな感じの言葉を口にする。
それはこの街ではからくり技術が発達して、人間たちとからくりが仕事を分担して生活しているからだ。
特に、カラクリ兵隊が軍の主力になってから戦争で人間が血を流すことはほとんどなくなった。
かくいう私も、その恩恵をうけているし、そんな恩恵をもたらした、からくり技師の第一人者の一人だ。
「さて、いきましょうか。博士」
コーヒーを片手に図面とにらめっこしていると、歯車のガタガタとなる音をたてながらコサクが近づいてくる。
コサクというのは私が作ったカラクリで、私の助手をしてくれている。気配りができるいいヤツだ。
「おそいですよ! 今日は王様に呼ばれて城にいく予定ではありませんか? 急がないとおこられますよ」
カラクリの機械的な声とはいっても精巧なもので、声からしっかりと焦りを感じてとれる。
私がやったことだが、なんでここまで人間に近づけてしまったのか、後悔しか無かった。
ああ、コサクよ。なぜ、お前はそんなに人間なのだ。
これから、死ににいくというのに。
*
「よし!完成したぞ!」
私が上げた声は暗い研究室に響き渡る。
思考するカラクリ、そのために私がこれまで開発にかけた労力がついに報われるのだ。
蓄電池につながれた、武骨な直立二足歩行のオートマタ、その頭を私は撫でる。
「よし……」
私は嬉々とした心持ちでそのカラクリの電源を入れた。
すると、先程まで私の顔が反射して写っていた透明なビー玉のような目玉に光が灯り、ガタガタと歯車の回る音がしだした。
このカラクリがこの世の常識を変える、そう思うと胸が高鳴る。
「初めまして、マスター。私は自律戦闘機構、コサクです。よろしくおねがいします」
コレが、コサクの上げた最初の産声だった。




