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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

雪空の下

作者: 旭

TRPG:マギカロギア

PC:柊 直也

その日常の一幕です。


いつから自分がここにいたのかわからない。

視界は白く、そして赤い。

赤い液体が白い土地を汚し、人間が散らばり、倒れていた。

は、と息が漏れる。

下を見ると、男がいた。


紺色の髪を短く切りそろえた男は、一見するとまるで寝ているかのように安らかだった。

ただ、腹に穴が空き、手足が腐敗している様を見て、死んでいるのだと気付いた。

「…う、」

血溜まりに自身の顔が写る。

同じ顔だった。


「ナオ!」

身を裂かれるような、男の悲鳴のような声が響いた。

身を翻し、林の中に飛び込む。

現れた男女は、青い顔であの男に駆け寄った。腹の膨れた女が、男を見て、力なく崩れ落ちる。後から来た男が彼女を支えた。

「鳥沢、誠を頼む」

短く告げた男は女を先に来た男に預け、死体へ歩み寄る。腹に空いた穴に、顔を歪め、言葉が出ないかのように、ただ首を振った。

「……自殺か」

「嘘つけ、…どう見ても連中の仕業だろうが」

「それも死因の一つだとは思うが、…辺りの連中の死体を見るのだよ。

この大馬鹿者は、召喚したのだろうな。大掛かりな自爆テロのようなものだ」

「…くそ、」

鳥沢と呼ばれた男が顔を歪める。


チリ、と首筋が嫌に震えた。

たまらずしゃがみ込んだ瞬間、発砲音と共に立て続けに何かが飛んでくる。

追い払われるように、その場を離れた。


「…何かいたのか」

「フードの…体格からして男っぽかった。よく見えなかったけどな。当たれば身動き取れないだろうしと思ったけど、逃げられちまった」


気が付くと、大きな木の下に立っていた。

「…俺は」

俺は何だ。

答えが出ないまま、木にもたれかかる。

ずるずると滑り落ち、雪の積もる地面に身を横たえ、膝を丸める。

その時だった。

「禁書の反応がしたと思ったんだけどなぁ」

声に、そちらを見た。

先程誠と呼ばれていた女に似た、しかし笑っていない目の男が、立っていた。

雪の降る中、甚平を羽織り、刀を右手で回す男は、自分を見て、ふぅんと薄く笑う。

「『出来立て』か」

「…何だ、お前は」

「君は?」

答えに詰まると、だろうねと彼は笑った。

刀を仕舞い、歩み寄り、手を差し出してくる。

「記憶がないんだろう。たまに居る」

「…何故分かる」

「見た事があるから。

だが、記憶はなくとも、『願い』はあるだろう」

「ねがい」

声に出すと、背筋が震えた。

理由はわからない。だが、男の問に対する答えを持っている事は知っていた。

「そうだ、俺の、願い。

もう、」


「『もう、魔法にかかわる人間が増えないように』…ですか」

「そうだ」

自分の研究所で、直也は頷いた。

椅子に座り、向かいに座る青年が淹れた紅茶に手を伸ばす。時折ふらりと現れる彼のお茶はおいしいのだ。

青年は、眼鏡を中指で押し上げながら、はあと生返事を返した。

「だから、大法典の方向性とも近いし、外典にならないか…と、誘われたのですか?」

「ああ。もっと直情的な願いならその場で編纂するつもりだったと言われたこともある」

「うわあ…あー、柊さんを拾ったのってあの人ですよね。円卓の」

「『暁』夜明壱也」

「ですよねぇ…猟鬼みたいに書籍卿狩りまくって第五階梯に上がったって天涯でも噂になってますよ」

「もともと、円卓入りする前は猟鬼だったと聞いたことがある」

「え、そうなんですか」

「大崩壊の後、人手不足で円卓入り。猟鬼時代に書籍卿から守った異端者などに話をつけて、契約などで雇用を結ぶ今の関係にしたらしい」

「そうなんですか…おっかないというか、なんというか」

音もなく紅茶を飲む青年。

その仕草に直也が洗練された、一種の何かを感じていると、それでと青年は直也を見た。

「あの人なら単騎で禁書一冊ぐらいなら倒せてしまいそうで、怖いですね。柊さんがそうならなくて何よりです。

そして今は、記憶を探りながら、願いのために大法典に下っている…こんなところですかね」

「そうだな。今の環境には満足している」

「それは良かったです。

…なら、話しても大丈夫でしょうね」

カップの中身を空にした青年は、直也を見据えた。探るような、しかしどこか気遣うような視線に、直也は首を傾げる。

「天涯の予知夢か?」

「恐らくは。

…近い未来、黒い霧が魔法世界に手を伸ばします。大法典だけでない、書籍卿も霧に覆われ、人形となるでしょう。

その霧の中央に立つ男性は…柊さん、あなたにとても似ていた」

「俺に、か」

「はい。ただ、他の天涯の中には、あなたがあなたとそっくりな男と戦っている夢を見た者もいます。

僕達の見解では、恐らくはその男が、黒い霧に何らかの関係があると考えています」

「そうか」

今やれることは無い。

そう結論づけた直也は、紅茶をひとくち、口に含んだ。


「おいしい」

「ありがとうございます」

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