第9話 悪役の取り調べは死亡率が高い
1542年9月
石転の熱狂から2ヶ月経った。
石転が認められたからか千把扱きも幾つか量産された。その試作品は一乗谷周辺の朝倉宗家の直轄領だけで試験的に使われている。農民領主共々からの感触は悪くないとのことだ。試作品なだけあって不具合を起こすこともあるだろうが、それをフィードバックして来年以降に改良型が出来るだろう。
そんな俺の歴史介入の先駆けとなった石転だが、まだ領内で流行ってはいない。というかモノを流通させずに鋭意制作中だ。家中でのプレイヤーは増やしたらしいが皆に口止めしている。
あれから話し合った所、どうせなら廉価版もウチで作ってしまおうという俺の意見が通った。他国が類似品を作ってもそのシェアを先に奪っておこうぜ!という理由からだ。
勿論高級品には朝倉家の家紋を入れる。木瓜がトリプルだ。織田家の3倍よ!
それにコチラは石転の本家であって、製造のノウハウもある。廉価版も模造品よりマシになるだろう。
それに一乗谷は北ノ京と呼ばれるだけあって文化に付随する職人も多い。また大国の朝倉家に喧嘩を売る周辺国はいないだろう。
ただ影響力のない所では知ったこっちゃ無いとバンバン造られるだろうが、其処はしょうがない。金になるやつ>>著作権がまかり通る世の中なのだから。
ただ、石転がこんなに熱くなるのは予想外だった。娯楽に飢えているのかと思ったがそうじゃないようだ。ルールが単純だかららしい。
まず、将棋は既にこの時代には存在していた。というかかなり古い。
若干変なコマが混じっていたりするが本質は現代のとそう変わりは無い。残念な事に長い歴史の中で研究も進み、将棋の定跡も確立されているらしく、俺の未来知識を活かした介入は思いつかなかった。囲碁も同様だったのは言うまでもない。
その点、石転はルールを覚えれば子供でも楽しく遊べる物だ。なので成人男性以外にプレイ人口が大幅に増えるから利益は確実に見込めるという。
そんなことを僧侶の鷹瑳が笑顔で話してくれた。君は一応僧侶だよね?
お金についてそんな良い笑顔で話してたら生臭になるんじゃないの?
石転企画は俺から離れて父上が主導して行うことになったが、俺は父上の命で石鹸製作に加わることになった。
その際に有益に成るものがあれば、どんどん知識を出せと言われた。嬉しいっちゃ嬉しいが少し辛い。
別に忙しいことに不満じゃない。
この幼児の体に不満があるのだ。朝早くに勉強や会議を行うとお昼には眠くなってしまう。会議中にウトウトすると家臣達からは暖かい目で見られるが父上からは怒られるのだ。公私混同はしないタイプらしい。
だけどそれが終わると「良くやった」と言いながら頭を撫でて、抱っこしながら夕飯を食べる部屋まで連れてってくれる。
それで夕食の時間に兄上と母上の前で褒めてくれるんだ。
イヤ本当、中身は良い歳してるんだけど、こういう可愛がりされると嬉しいのよね。こんなベタな飴と鞭にヤられるのは少し悔しいんだけど...心の奥底から嬉しくなるよ。
心も幼児になってんのかな?
一応知識の上奏する時は俺と父上、傅育役の二人が居るときのみに行う様にしている。機密を守る事は勿論だがツッコミ処満載の俺を護る為でもある。まぁこの三人も俺に対して色々ツッコミたいのだろうが抑えてくれている。軽口で「どこから来るのやら」とは言うものの、それ以上は追及してこないのは誠に有難い。
そんな中で動物の家畜化について話題を挙げたが、鷹瑳と父上は余り良い顔をしない。父上も鷹瑳も仏教勢力からの反発を危惧しているらしい。
景連叔父上が言うには実際は貧民、難民では食肉を行う者も多く、京でも公家が食べる物がなくて密かに食べているとか。職業人口ナンバーワンの農民だって農耕用の牛を冬の前に殺して食べるのだ。
ただ公的に推奨するとなると仏教勢力の反発が大きい。しかも越前は他国と比べると貧窮はしていない。それらを含めて黙らせる大義名分が無いのだ。
.....なら鶏だけでも羽毛布団を理由に進めるか?
そう思い羽毛布団について話すと、これは好感触だった。それがあれば冬は暖かく過ごせると話したからだ。
布団の話が出たので、「良質な布も欲しいですね」と話したら余裕ができたら養蚕業を推奨すると言っていた。そのついでに「鶏に死んだ蚕を餌にしたら安上がりなのでは?」と言うと皆が思案し始める。
鶏はなんでも食べるから飼育しやすいと思う。
別に蚕の死骸以外にも大抵の物は食べるのだ。ヒトとの食料が被らないのも利点だと思う。やはり家畜化するべきだ。
そのことも話すと父上はさらに深く考え込んでいく。父上も有用性がわかってきたのだろう。だからこそ大義名分に悩む。
大義名分かぁ...「羽を集めてる過程で死んでしまいました」とか?
何だろう...この取り調べ中に死んでしまいました。的なやつは。
...誠残念なことに俺はこんなバカなことしか思い浮かばない。家康のブレーンといわれた天海僧侶のような切れ者が欲しい。豊臣攻めの大義名分を考える以外にも江戸の町構築に関わったり幕政初期に上手く采配振るったらしいしな。今の内に青田買いでも考えておくか?比叡山出身だっけ?
うーん、何か他にも理由はないかな?
他の食されている動物からヒントはないだろうか?
江戸時代には鹿や猪、熊は害獣であり畑を荒らし、人を襲うので駆逐されていたがその肉は薬と称して美味しく戴いていたらしいが。いつの時代だってお肉を美味と思うのは人の性なんだよなぁ。
薬かぁ...待てよ、鹿と熊は生薬の原料となったはずだ。鹿は角が、熊は有名な熊胆だ!猪は...知らん。
鶏も生薬があったハズだ。鶏って漢字が生薬のテストで出た気がするぞ。
そうだな、思い出してみれば大体の生き物は生薬に使われていた。猪だって何かに使われているかもしれない。漢方はバイタリティー溢れる中国人達が創った偉大なモノだ。何千年の歴史の中で利用出来る物はなんでも試しているのが中国だ。
オケラだってアメンボだって猪だって何かしらの記述はあるはず。
よし!生薬に使うとしての名分を提案してみよう。
俺の案は協議の末に仮採用となった。医師の確認をとって鶏を原料とした生薬が存在するのならばそれを名分に鶏の家畜化を進める形だ。
上手く行くといいが。
鶏の生薬部位は胃や肝臓になるそうです。
胃は現代では鶏内金と呼ばれる漢方薬に使われ、肝臓は鶏肝丸と言う虚弱改善に使われるみたいですね。
ちなみにテストで出たのは鶏内金の方です(笑)