第8話 定番は一定の効果があるから定番なんだ
1542年 6月
石鹸作りが事業になったのは良いことだろう。俺が主体でやるより国主の方がスピードも速いし人を使うことに慣れている。知識面で製作チームが躓いた時に俺が助言すればいい。父上もそうしろと言ってた。
だが、まだだ。銭はいくらあっても足りないモノだ。石鹸がどれ程の金になるかは分からんが、入ってきた金は今後新たな事業に使いたい。どうせ一乗谷で研究開発するのだから金は全て越前に落ちる。父上も認めてくれるだろうさ。
ただ、時間の懸かるものは今はダメだ。石鹸が成功しないと父上から新規事業は認められないだろう。他の速効性がある物で結果を出さなければならない。
それらを実行に移すには大にも小にも人手が必要だ。
俺に理解を示してくれてる景連叔父上にならアイデアとその概要を話すのは問題ないのだろう。先程の会談では好意的だったし父上からの信頼もある。話位は聞いてくれるはず。
景連叔父上も良さげな話なら吟味してくれるハズだ。プレゼンには残念な事に自信はないが、幾つかまとめて提案する予定だ。一つ位は当たるよ。多分...
1日中考えて直ぐに実行可能だと思ったのはチョークとリバーシ、千把扱きの3つだ。
とりあえずこの3つの案を持っていこう。特に千把扱きは農家への影響が良い意味でも悪い意味でも大きい。官使である叔父上なら理解してくれるだろう。
◇◇◇
結論から言うと、景連叔父上が言うには今すぐ出来るのは千把扱きだけだろうとのことだった。
リバーシも簡易な作りだから大量生産も可能。だが直ぐに模造品が作られるだろうとのことだった。そのためには現代で言う高級路線、ブランドとした方が良いとだろうとなった。そうなると基盤と、返し石の材料の選択や職人の育成が必要になる。これに存外、時間が掛かってしまった。
また景連叔父上が一番懸念しているのが、リバーシが面白いのかということだった。なのでまずは簡易版を試しに作り、父上の周囲で試してみるとのことになり現在は結果待ちである。
チョークは材料の卵の殻が集まるまで出来ないらしい。そもそもこの時代は養鶏や養豚での家畜化は行われていない。鶏も闘鶏用として飼われているのが現状だ。ある程度卵の殻が集まるまでは待ちだろう。
それにしても卵の話をしていると鶏肉が食べたくなるなぁ。
この時代では自ら進んでの食肉は仏教の教えで忌避されている。
だが美味しさや食糧になると分かれば父上も家畜化には賛成してくれるだろう。何だかんだで父上は戦国大名だ。実利があるならやってくれるだろう。と言うかやって貰いたい。
以上のことから千把扱きが直ぐ作られることになった。
一応機密扱いになるので城下にいる口が硬い細工師を呼んで作らせることになった。間藤善次郎という40近い男である。城に呼ばれて、国の重鎮と当主の息子と対面し終始ガチガチになっていてちゃんと理解したか心配だったが、その5日には興奮しながら試作品を持ってきてくれた。
どうやら実際に作ってる内に有用性を理解したのだろう。寡黙な見た目とは裏腹にペラペラ喋る。景連叔父上も苦笑していた。ただ、景連叔父上も実物を見ると真剣な顔で善次郎といくつか問答していた。千把扱きの可能性を見たのかもしれない。作る費用等を詰めていた。
ただ稲刈りまで早くても一月以上ある。御披露目はまだ先だろう。
1542年7月
さらに日差しが強くなってきた頃の、室内に居ながらも汗をかく温度の中、勉学している最中に父上からお呼び出しを受けた。
「お呼びでしょうか?」
今日は父上と景連叔父上、俺と一緒に来た鷹瑳の他に3名ほどいた。
「うむ、良う来たな。早速だかりばーしの件だ。生産に入ろうと思う。」
えー!本当に早速すぎるよ!挨拶もそこそこにいきなり本題に入る父上。
「..御認めになられるのでしょうか?」
「うむ!皆嵌まったわ!初めはポツポツと進んでおったがいつの間にか刻が過ぎておった!為政者が刻を忘れる程に熱中するのだ!売れるに違いない!」
いつもの3割増しで声がデカイ父上。そんな父上に続いて回りの人達も力強く頷いている。
「然り!きちんとした碁盤と石を作りましょう!」
「いつの間にか黒石が見えなくなってましてな。夜になってることに相手も気付きませんでした。」
「早く家中の者とも楽しみたいですな!」
うわぁお。激アツゥ。
と言うか鷹瑳、お前もか!石鹸作りの時と同じくらい笑ってやがる。そんな熱い中で父上が俺に話す。
「六郎よ。誠に良くやった。新たな工芸じゃ。これよりお主もりばーしの製作に関わることを命ずる」
「はっ!有難き幸せ!」
事前に話し合ったのだろうか、回りには不服そうな人はいない。確定事項なのだろう。
「では良質な物を目指せ!楽しく遊べるようにな!...それとな、何か名前をつけよ。りばーしでは呼びにくい。何か無いか?」
「では、石を反すと書いて石反か、石を反転させる意味の石転が良いかと」
「うーむ、...どちらも良いが儂は石転の方が響きが良いと思う。では石転と致す!」
という父上の一声でリバーシ改め石転となった。
リバーシが石転となりました。
やはり定番は皆が認めるから定番なんですね。