第7話 歴史が変わる一歩になるのだろう
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1542年6月
初めての石鹸作りは失敗だった。
貝殻と油の分量が悪かったのか、はたまた油の種類、放置した場所・期間等のどれが要因かも分からない。出来たものは総じて固形とならず、触れるとザラザラしており固形物にはならなかった。
たしか貝殻を焼いて粉々にした方が水酸化ナトリウムの抽出率が高くなる。その方が固形に近付くんだが、もう少し上等な器具がなきゃ出来ないな...
それと灰を煮詰めた灰汁も水酸化ナトリウムと同じアルカリ性だったはずだ。海藻は敦賀の海では採取が難しいらしい。
話に聞けば海藻は蝦夷から輸入されてるらしいが、薬や食用の高級品として扱われてるので、とてもじゃないが石鹸の実験には使えそうにない。
金が掛からない点でいえば石灰なんかもあるが...火山灰か土砂から入手するのだろう。だけどそんな伝ないしなぁ。
油も今回は蝋燭のカスを集めた物を使ったので油分が足りなかったかもしれない。
本当ならサポニンを多く含む植物を使って石鹸を作りたかったがどの植物がサポニンを多く含むか覚えてないし、そもそも俺は植物自体に詳しい訳じゃない。座学で知っているというだけであって、外見は教科書の写真で見たことあるだけだ。ちゃんと覚えてる訳じゃない。
もし界面活性の性質を利用した石鹸を作るとなったら余裕があるときだろうな。
うーん、前途多難。
今後は幾つかのパターンで作ることも考えているが、実行するなら材料も足りないし人手も足りない。
...父上に助力を上奏したほうが良いのだろうか?と思ったがダメだろう。今回の貝殻も「試したいことがある」と言って集めてもらったものだ。貝殻は越前には捨てるほどあるが輸送費等でお金は掛かっているのだ。今回は微々たるものだったが、計画として実行に移すとなるとそれ以上にお金が掛かるだろう。
となればそれは政だ。そして認められないだろう。兄上を差し置いて俺が内政に関わると要らぬ噂を呼んでしまう。そんなことで国力を下げたくはない。
どうするべきだろうか?
と頭を悩ませていた数日後、父上に呼び出された。評定の間に行くと父上の他に鷹瑳、景連叔父上の二人の傅育役がいた。3人ともニコニコとした笑顔―を通り越して、ニヤニヤしている。
声に出さないけど3人の男が揃ってそうなるのは......ちょっと怖かった。
「父上、お呼びと伺いました」
「うむ、六郎よ。呼んだのは鷹瑳から話を聞いてな。石鹸とやらを作っているそうだな。それについて話してほしい」
...鷹瑳には口止めしなかったがまさか父上から、しかもこんな早くに話を持って来てくれるとは思っていなかった。だか渡りに船だ。石鹸についての計画を含めて話そう。
「それが本当に作れるのならば新たな産業になりますな」
「確かに。ただ材料費が高いのが難点だが油はどんな油でも良いのだろう?胡麻や松ノ木でも試してみるか」
「他にも動物の油でも出来ます。また椿が良い香になるそうです」俺がそう話したら3人とも顔をしかめる。
「動物の油は集めにくいぞ。それに椿は縁起が悪い..まぁ沢山落ちているから集めるには問題なかろうし...使うにしてもそこまでは気にせぬか?というよりお主は如何様にしてその様な知識があるのじゃ?鷹瑳から聞いたのだが、いつの間にかあったらしい等と...そのような話は余り妄らに口にするでない」
「知識は大切な物なので話す時と場所は考えておりますが...不味いでしょうか?」
父上はすかさず答える。
「ああ不味い。始めたばかりとは言え、今の所は成しておらぬだろう。そしてそのままだと、只の虚言となりお主は頭のおかしい者になる。....そうなるとわかるよな?」
ゾクリとした。いつも見ていた父上ではない、朝倉孝景としての顔だ。初めてみた。
「...殺されないためには成功させろと言うことですね?」
「馬鹿者!誰が殺すと言った!寺か何処かに押し込めてほとぼりが冷めるまで待つのよ!」
あぁ、いつもの父上だ。声がデカイのもいつも通りだ。
「だかな、愛情ばかりで殺さないわけではないぞ。男児が二人しかおらぬからじゃ!心せよ!」
そうだよな。少し緩んでしまった。本当心に背負わなければ。
「はっ!」
とりあえずこの件は父上の預かる所となった。父上も俺具体的に話したのを見て俺の計画に沿うように進めておくらしい。
正直有り難かった。別に俺の手から離れても構わない。それで朝倉が強く為れるなら。ただおかしな事と思われるのを長期的にやるのは狐憑き扱いされそうだ。それは避けなければならないな。
何か一つ即効性があるものを提案して実績を残そう。
そうすればある程度は、やること為すこと容認されるだろう。