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名族朝倉家に栄光あれ  作者: マーマリアン
良き結末とその覚悟
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第6話 鷹瑳


〜松林院鷹瑳〜



私が大和にある興福寺から故郷の一乗谷に帰郷して二ヶ月が経った。私が所属していた興福寺は京の近くにあるため京の町の様子が良くわかる。一言で言うなら「どうしようもない」だ。



数多の戦乱で荒廃し、賊紛いの足軽による乱取りが蔓延(はびこ)んでいる。女人は貴賤に関わらず襲われるか、自ら体を売り生活する有り様だった。仏に従う僧侶も札をばら蒔き、酒肉に溺れ、仏様の教えに背く。

そんな時に父上からの呼び出しは複雑だが有り難かった。生来生真面目な私があのままでは心が負けて生臭坊主に成るか、その生真面目さを通して鉄より硬い石頭坊主になっていただろうから。




呼び出された理由としては当主の子息御側付きとして召し抱えられることになったからだ。栄転なのだろう。父上には感謝してる。右腕が動かぬ私に愛情をくれて生かしてくれた。

心無い中傷もあった。否、彼等が言っていたことは正しいことだったのだ。実際に私の腕は動かなかったのだから。


だがそれも運命だと捉え、言われたことは愚直にやった。名将の跡継ぎと目され日々精進している父にとって私はお荷物でしかなかったのだから。せめて私のせいで父上の評価が下がることを、少しでも減らすことが父上への恩返しだ。


兄上という世継もいて武家として安泰であったにも関わらず、私を棄てなかったばかりか有象無象の寺ではなく名あり歴史ありの寺に寄進までしてくれて入れてくれたのだから。




◇◇◇



出自から私に期待する人は多かったが、実際に顔を合わせると侮蔑の目を向ける者も多かった。例に漏れず六郎様が右腕を見て落胆することも知っていた。


それでも私は頭を下げて仕えることを示した。





六郎様に仕えて10日程経つが彼は驚く程に思量深かった。多くの物事を精通しており学ぶ姿勢も良い。私と初めて話した言葉通りに、私からは京や仏様について中心に学んでいく。彼は英邁なのだろう。彼から学ぶことも時たまある。そして時折見せる不可思議な知識にも驚かされる。


「六郎様の知は書では思い付きません。如何にそのようにお知りに?」

「書物は勿論だが、占いによる啓示。そして何故か知り得ていたのだ」

嘘だろう。多少の動揺があるな。幼児にしては嘘も得意な様だが稚拙な部分もある。

もう一人の御側付きである孫三郎殿の方は夜に服を身に付けずに尻を月に向けて寝るという、不思議な奇行が見られるらしいが普段の振る舞いは年相応だ。




六郎様に仕えて一月程経った頃に六郎様が外に出ようと言ってきた。何やら荷物を持っている三人の下男と孫三郎殿、そして10名近くの護衛を引き連れて。その武士の集団と下働き達に混じり共に城外の人気の無い所に向かう。

何をするのだろうか?




何やら石鹸というものを作るらしい。懸命に越前の海からもって来て貰ったという貝殻を必死に砕く下男二人、それを孫三郎殿が少量ずつ水を入れた鍋に加えて溶かしていく。

もう一人の下男は火を起こしている。一応傅育役の私がいるとは言え、城近くで火を起こされては堪らないので止めに入りたかったが、六郎様の目には知性がある。目的があってやることなのだろう。危険かもしれないがこのままやらせてみよう。



溶かした貝殻を起こした火で煮詰めた次第に冷ましていく。その間に石鹸が如何なるものか聞いたが驚くしかない。体の汚れを余すこと無く落とす物と!香料にも成りえると!そしてこれを販売して銭を朝倉に入れると!


「何故」


「?」


「何故朝倉に銭を入れる?」


「あぁそういう。朝倉を強くするため」


「何故強く成るために銭を入れる?武士の誇りは?」


「銭が力になるからだ。六角も大内もやっている」


「...朝倉が力を手に入れてどう為される?」


「天下」

いつの間にか目が開く!!


「だと良いがそれは父上や兄上が決めること。まぁ俺は生き残る為に朝倉の天下が欲しいが」

生き残る為に?どういう意味だろうか?


「生き残る為に?」


「ああ、敵が居なくなれば良く眠れるだろう」


「...ハッハッハッハ」思わず笑ってしまう。

六郎様が訝した顔をしているがしょうがない。

彼が嘘をついてないと解るからこそ笑いが止まらない。

聞いたこともない新たな物を作り、武士から嘲られる商人の真似事をして天下を獲るという。処が獲った天下は自分の物ではなく父か兄のもの!また自分の安寧が為に天下を欲するという!

大きいのか小さいのか解らなくなり笑いが出てしまった。



興福寺での同輩が京から故郷に向かい主君の子息の傅育役になることに対して「まるで雪斎僧侶よな」と言っていたが、かの僧人もこのように大笑いしたのだろうか?


私が彼の人のように為れるとは思ってはいない。だが私の全力をこの小さな弓取りに尽くそう。



それが父上、延いては朝倉家の為になると信じて。



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