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名族朝倉家に栄光あれ  作者: マーマリアン
加賀三国志
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第54話



本格的に冷え始めるだろう季節の一歩手前の晴れた朝。今日は俺が浅井家への出張――もとい使節として向かう日である。



同行する人数はかなり多い。


使節団の名目上の代表は俺だが、実際に向こうとの遣り取りを仕切るのは景連叔父上だ。他にも桜井元忠を筆頭に数名の官吏僚と、老将山崎長吉を隊長に()えた100人程の武装した兵。それに道中の荷運びと下働きの下男下女を加えた120人近い集団だ。




こんな大人数の集団の中では味方であっても心狭さを感じるのは前世の小市民性が残っているからだろうか。

だからこそ顔を知る者がいるだけでも安堵できるものだ。

お馴染みの鷹瑳に久し振りに会う滝川一益、そして背丈が多少伸びた中村藤吉郎である。




一益は近江の甲賀出身なので、案内兼護衛として同行することになった。


.....というのは建前で俺が他国から呼び寄せた大人達の中で一益だけがまだ功を立てていない。

父上と面を通して認められた真田や工藤と違い、一益は面会どころか活躍する機会を得られず、日々無為としてパッとせず過ごしている。


そのため外様を良く思わない連中からは良い標的となっており、「御恩を貪るだけの者」等と陰口を言われているらしい。

そこで少しでも功を上げる機会を与えようと俺が捻じ込ませて貰ったのである。




藤吉郎は戦力ではなく俺の小性としての参加だ。本当は連れて行きたくは無かったけれども、小性の一人くらいは連れていくべきと言われたので任命させてもらった。



最近は二転三転する状況に目まぐるしい日々をおくっていたので顔を見合わせるのも久方ぶりである。

改めて見ると随分と逞しくなった気がする。初めて会った時と比べ、芋臭さが抜けた彼はちょっとだけ武士の顔になっていた。


それでも顔を向ければ小猿の様なくしゃりとした笑顔で、明るく声を掛けてくれる。

多少無礼な行動だが、どうやら硬くなっていた俺を藤吉郎なりに気遣っているようだった。

お堅い処のある鷹瑳もコレには咎めようともせず、それどころかニッコリである。


緊張しつつも頬が適度に緩むような雰囲気。

悪くない、悪くないな。うん。






だったんだよなぁ。


「いやはや、某をー(虎高の登場。よく話す)」






「いやぁ、少しばかり寒いですが善き空模様ですな」



朝倉家中ではない美坊主が、まるで遠足に出掛けるかのようなテンションで言う。

相変わらず皆から敵意を向けられているというのに、気にした素振りもみせやしない。それどころか楽しそうだ。この野郎。





朝倉に囚われていた明智から連絡を受けた斎藤家が、盟約のために冨樫泰縄を連れてきたのが一週間前。


これにより人質として一乗谷に拘留されていた目の前の坊主――明智の役割は終了。であったにも関わらず、コイツは一乗谷に居続けたのだ。理由は「同盟相成ったとはいえ敵同士であったのです。暫く親睦を深めることにしましょう」


という、まさかの人質の延長である。

ウチはキャバクラじゃないんだが。




その図々しさと会談で見せた危険性に追い出すべき、果ては冨樫の累計を手に入れた今こそ殺すべしとの意見が多かったのだが

「ワシも永遠に牢に閉じ込めたかったが、盟は成ったのだ。それも今は無理である。ならば手の届く場所に少しでも留めておくべし」

と父上が厳重な監視の下、逗留(とうりゅう)を認めたのだ。


なので俺を含む朝倉家中とも多少の言葉を交えていたのだが、関係は今現在も敵意を向けられる状態であった。



曰く京に予定があって、暫しばらくしたら出ていくとは言っていたが....今日の俺達が出立する日取りと被せやがったな。



「明智殿。悪いが我等は――」



「承知しております。浅井に此度の件を詰めるのでしょう?ええ、ええ、御邪魔は致しませぬ。どうぞ随意に」


「ならば――」


「分かっております。期せずして顔を合わせたので、挨拶だけを。直ぐに終わります故」


明智は景連叔父上の退きの要求を(ことごと)く笑って遮る。

この何事もお見通しであるというやりとりのせいで、藤吉郎の作った空気も冷え冷えだ。



おお...もう、また始まったよ...

明智の滞在中に何度も見た光景。




策謀を行った明智が、堂々とした態度で一乗谷に滞在するのも気に食わない。

そんな朝倉武士達がアレコレ難癖を付けて明智を叩きのめそうとしたが、逆に返り討ちに合ってキレるというものである。


この文面だけ見れば明智がどこか物語の主人公に見え、朝倉武士はカタルシス用の小物だ。


とは言うものの明智自身が、常に油を含んでいるかのように口が滑らかである。

加えて良く回る口と頭は、人をおちょくるために回しているようなモノなので何とも言えないのだけれども。




そのためいさかいが絶えず行われていたが、刃傷沙汰に発展しなかったのは以外にも兄上のお陰である。


兄上は明智と馬が合ったのか随分と会話も弾んでいた。明智の振る舞いも個性として受け入れている感じだった。


俺は面倒事ばかり起こすから死ねばいいのにと思っていたが...さす兄である。





最後の最後まで喧嘩を売りまくるコイツには感心する。






「...よくもまぁなぁ...それにしても気前良く冨樫泰縄を渡したが、その時点で朝倉が裏切っていたらどうしていたのだ?」


剣呑となった空気を変えるついでに、ふと疑問に思ってたことを訪ねてみる。


「朝倉家にしては随分と明け透けで、飾り気の無い。...ふむ、朝倉家が貴殿のように左様に素直であるから。ではいけませぬかな?おっと、私が言葉を飾ってしまいましたな」



「ああ、成程な。ではな。さぁ皆の者、行くぞ!」

相手にした俺がバカだった。



トレンディドラマのような時代を先取りした気障(キザ)ったらしい返しに、ついおざなりに終わらせようとしまうのは仕方ないと思う。





「ははは、連れぬのはいけませんなぁ。では一つ。何も冨樫家を継げるのは一人ではありますまい」

けれども明智は鼻で笑いながら爆弾を投下。理解してしまった。


「あ、明智殿!」

この発言に明智の側近も慌てている。



「...兄が手の内にあるのか?」

はあああ!?ふざけんなよ!

ジョーカー貰って安心してたのに....実はもう一枚ありました、とか笑えない。







「御明察!いやはや、賢い賢い!拙僧は兄弟揃ってますます好きなりもうした」

ああ、本当良かった。めげずに仲裁してて。面倒だから殺されてしまえとか思ってたけど頑張っててよかった。



俺の顔が察したのを見て、実に愉しそうに笑う。

何が「いい」だ。この野郎。とてつもない事だぞ。大きすぎる情報だ。泰縄の兄である泰俊が生きていて斎藤の元で暗躍でもされてみろ。加賀はまた荒れる。

全く良くない。



「ふふ、やはり越前に滞在して良かった。ふぅむ。都への公方へのご機嫌取りを辞めて、貴殿らに同行したいものですな。いや、むしろ六郎様だけでも共に京へ向かいませぬか?面白きモノを届ける故退屈はさせませぬぞ」


「アホ抜かせ。そんでとっとと行け」


「そうですぞ明智殿っ!いい加減になされよ!役目をお忘れか!」

従者も気の毒に思う。こうも機密をペラペラ喋る奴が上司とはたまったもんじゃないだろう。



「はは、スマンな。六郎様の関心を引こうと熱くなったのだ」







「もそっと会話を続けたいのですが、旅の門出が近付いておりますからな。では最後に私からも一つ窺いたい。滝川殿。貴殿は甲賀の出と御聞きしました」


「それがなにか?」

明智の矛先はなんと一益だった。


「ふむ、先に言いますが悪意はありませぬぞ。貴殿の生家は高貴な朝倉家に入る程に相当な御家柄なのでしょうか?」



「...いえ。私は六郎様に縁を頂いて...」


「ほほう。頂いたとは...与太の類いと思いましたが、それは六郎様の噂に聞く(えき)ですかな?」


「.....」


「あいや、某にも貴殿の凄さがわかりまする。足運びといい、所作といい、一角の人物でしょうや。うーむ。そんな遠く離れた場所にいた貴殿のような人物を合わずして見出だした六郎殿は...一体なんなのでしょうな?」


不敵な笑みを深めてこちらを見る。


作麼生(そもさん)



間を作って放った禅門の言葉はまるで決め台詞。

推理小説の探偵バリに追い詰めてくる。明智の名も伊達じゃないな。...というか周りの皆もなんだかんだ明智の提議した疑問が気になるらしい。...視線が俺に集まった。



咄嗟の視線に答えに窮してしまう。

役者としても、ぼろ負けである。


「ふふふ、問い過ぎましたな。僧としての癖が出てしまいましたな。では此にて。皆の旅の御武運を祈っておりますぞ」


クソッタレが何が武運だ!テメーのせいで幸先良くないわ!







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受魂の先に~ロメオと裸の紳士
― 新着の感想 ―
6年ぶりかぁ
結構忘れてる。 明智?状態です。
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