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名族朝倉家に栄光あれ  作者: マーマリアン
加賀三国志
52/54

第52話 揺れる顔

遅くなりました。

リアルが忙しくなったのと、プロットの大幅な修正が必要となったので更新が遅れました。

今後はもう少し早く投稿できると思います。


「御主には浅井の様子を見に行って貰いたい」



「私が...ですか?」



鷹瑳と二人で昼間に見た明智光秀について「光秀ってヤバくない?」「(アレは)無理でしょうな」等と危険性について認識を深めている最中に呼び出されたかと思えば、こんな話。


......浅井と言えば先ほどの会議で誰か人を送ると言っていたが....まさかね?




「うむ。親として心苦しいが朝倉の為だ。堪え忍んでくれ」


俺の何かを察し、困惑する顔を見ても構わずに話を進める父上。どうやらマジらしい。いや、いやいや。


「えっ、ちょっ」



狼狽えた表情の俺をそのままに、父上は言葉を続ける。



「ワシ等は十中八九、浅井を攻めねばならぬじゃろう。ワシは皆を納得させる手前、ああは言ったがマムシが冨樫の身を渡した後の事を考えておらぬハズがあるまい。此度も我等を後手に回した伽奴(きゃやつ)の知謀は.....明智なる剽軽者ひょうきんものが質になるのも算の内なのであろう。ならば少しでも奴等の謀術を崩すのだ」



決まった事だと、有無を言わさない父上に抗議の声を上げようとしたのだが、再度俺の口はつぐんでしまう。見上げた父上の顔が苦渋の形相だったからだ。



眉間は潜み、目は左右の開きが異なって口角がヒきついている。憤激ふんげきやら哀哭あいこくやらの表情が入り混じったそんな表情.....今まで聞こえていた音声はどうにかして抑揚を整えていたらしい。

図らずも身が引き締った。




「お主を行かせる理由は...三つある。一つは浅井を安心させるためだ。建前だろうがワシの子が名代として(おもむ)けば気持ちがこちらに傾くやもしれぬ。二つは浅井との関係が友誼になるにせよ対立するにしても、お主が身を持って近江の地を知るに越したことはない。どちらにせよ今後のお主の財となるだろう」



「....もう1つはなんでございましょうか?」


一つ目は人心...二つ目は合理的な意味なのだろう。浅井が敵となるならば地理は勿論だが、さらには敵の顔を知れるに越したことはない。



けれども、もう一つは何なのだろうか?思い辺りがない。

その答えを得るために視線を送ると、父上はさらに深く顔に皺を深めながら説明を続けた。



「...お主に才有ることは皆が知っておる。その歳で大人に負けぬ考えを持ち、儂とも対等に話し合える。此度こたびの坊主の正体を見破ったのも見事。....だが幾ら優秀であっても我が跡目は長夜叉である。酷な事を言うが御主は代わりにしか過ぎない。そして如何に才を宿しても跡目に能う物がお主には無い」


「跡目のことは分かっておりまする」



褒められた内容の殆どが転生の恩恵です。ありがとうございました。

....後半の面と向かって後継ぎに相応しくないと言われるのはかなりショックである。

けれども同時に、ホッとしてたりもする。



正直に言えばこの時代に生まれた当初、君主になりたいという気持ちもあった。



既存の制度からは考えられない画期的な制度を導入し、朝倉の新しい風が世を変える!後世に名高い名君主が見せた政治・軍事の卓越した六郎式ドクトリン!



そんな俺tueeee!を夢想しなかったわけじゃない。


けれど夢想は夢想だった。

父上の傍らで国のトップというものを見てきたからわかる。



周辺国は尖ったナイフよりも尖った奴らばかりで隙を見せようものなら直ぐにでも刺そうとするし、下の国人衆の基本スタンスは面従腹背。


己の下す決断は政も戦も自国他国含めて多くの人の生死に直結する。重い責任を幾度となく背負う。



この時代でそんな立場、平成の世を過ごした俺じゃあ....まあ無理だ。というより出来ない。

ヤることはやると決断はしたけど、脆い俺に国主なんて能わない。生まれの順番に従い、分家の立場から支える事に全力を尽くすこそ妥当であり、精神的にも楽である。



「お主がわきまえてはいても理解が足らぬ輩もいるだろう。が、これはワシの国主としての落ち度もある。お主にも兄と変わらぬ愛を与えたせいで長幼ちょうようじょないがしろにする者も増えてきよった」



父上が今に悔んでいるこんな国主としての面も、嫌悪してしまう。我が子へ向ける愛情も理性をもって調節しなければならないし。



「国が揺れることは避けねばなりません。兄弟は共にあらねば負けます」



「それよ。御主には欲がない。イヤ、人並みにはあろうが兄を害してまで当主になろうとする気概がない。親としては嬉しいがこの世の強者にはなり得ぬ。強者あらんずんば当主になり得ぬ」




...俺が兄上を殺すのは無理だろう。既に大きな情が出来ている。俺は...それを自ら断ち切れる人間ではない。だからこそ俺が当主になるのは無理なのだ。



「長夜叉を残し、お主を駒として浅井に向かわせる。幼子に危険ではあるが...いや、ならばこそ危険が伴う役目をお主にやらせる事で内外に序列を示す事ができよう」




思惑を全て露したからだろうか?それとも俺が意図を咀嚼するまでの時間を与えるためか?父上はそれっきり黙ってしまった。


音の無い時間が流れる。



「.....この世は選択の連続よなぁ、そしてままならぬ。善き物を選んでも苦しい時がある。棄てた物の痛みはずっと残る...」


「.......」


.....なにやら父上が小さく溢した気がしたが気のせいだろう。父上の話し声はいつも朗らかで大きいのだ。弱気とは無縁な人なのだから...そう、きっと気のせいに違いないのだ。


....!ほらっ、現に憮然として話を再開したじゃないかっ。




「御主は次男だ。当家では戦となると宗家は一乗谷から動かずに構え、分家が手足の如く動くのは知っておろう」


「ええ、存じております」


「その役割を兄弟二人で上手くこなせば朝倉は今より大きくなる。強くなる。だからこそ御主は外を見る必要がある。六郎よ。御主は終生、犬の様に長夜叉に従い、手足の如く長夜叉を支えるのだ」


「ははっ!」


幸いにして兄弟仲はいいと思う。


兄上も愚者と評された人物とは思えない程に文武に秀でている。いや、本当に。人柄だって多少はのほほんとしているが、支えたいと思わせる器量はある。



俺の了承した声に満足すると、父上は不意に張り詰めた空気と顔を緩めた。




「儂は50を越えた、もう長くないだろう」


「その様なことはあり得ませぬ」


...そういう話は辞めてくれよ。先程の呟きをスルーした俺の努力が無駄になるじゃないかっ。こうも感傷的になった父上は...本当に似合わない。ならばこういう時にこそ、元気になって貰うために否定してあげるべきだ!



「いや、あるのだ。日に日に衰えも感じる。先程も柄にも無く熱うなって家を傾けるところであった」


「たまたまでありましょう」


「最近は飯もろくに通らぬのだ」


「...昨日に鶏肉の塊を平らげていたではありませぬか?お代わりを所望していたのも記憶しておりますが」


「いいから聞けい!ともかく衰えたのだ!良いな!?」


「えぇ...」



「まぁ聞け!」と言いながら、いきり立った踵を改めて向き直る....どうやらコレは、前置きの為のなんちゃって弱音だったらしい。




「儂と徳が遅くにお主らを拵えたせいで要らぬ労を掛けるであろう。だからこそお主を強くさせる義務がワシにはある。家の為に、我が子のために」



自らの衰えを元気良く主張した父上だが...父上が死ぬのは、いつなのだろうか?


朝倉義景が家督を継いだ正確な年代は知らないが、若くして家督を継いだのは記憶している。また関連する事柄で、宗滴殿も義景に仕えながらも主君が若輩のままこの世を去るのも覚えている。





見知った歴史上の人物との別れを想起すると、痛みに近い悲しみが身体中をよぎる。と、同時に恐れも巡る。



朝倉家の有能なトップと稀代の軍役者も消える...


となると訪れるのは武辺者、貴人、能人の栄枯盛衰が激しいこの時代に、誰よりも一躍する男の台頭だ...



その到来を思うと...胸の奥が焦がれる様にひりつく。



勝たねば!勝たねばならぬ!

こう思わずにはいられない。


転生した当初の信条は己の長生きのみだったが、今は違う。


8年で土地と人々が、家族の情が俺を(はぐく)み、縛り付けたのだ。


喪いたくないモノが多く出来たのだ。



「そんな顔が出来るのならば善い。ちゃんと先のことも()()()()()()()()()....なれば親としての甘言を言うても問題あるまい」



ニヤリとした父上が顔を綻ばせる。



「本当のところな、これは武家失格であるが、御主らには家名に囚われず只生きていて欲しいのだ。徳も同じように思っているだろう」



ああ、本当に辞めてくれぇ。俺自身こういうのに弱いんだ。その上に熱くなったこの状態に優しい言葉は良く響く。



「長夜叉が生まれた時は儂らは喜んだ。徳は表では気丈にしていたが石女と蔑まれ陰で泣いておったからな。そこに御主が生まれてから更に喜んだものよ」



「兄弟仲良く、家族で団欒だんらんとするのは我が宝。だからこそ守りたいのだ。その為に蝮を倒す力を持たねばならぬ。お主はもそっと強くあれ!その役目はお主自身が担うのだ。大事な物を守れ」



ちくしょう....色々とたまらんな。


幾ら自分が子供の姿とはいえ、尊敬する男の前で感情のままに垂れ流すだけでは恥ずかしい。

そう思い誤魔化そうと何とか言葉をひねり出したのだが...



「なら私はからい言葉を送りましょう。我等はまだ未熟。御家のことを考えるなら父上はせめて兄上が元服して数年は生きねばなりませぬ。そのような気弱ではそれさえままなりませぬ」



強がりなのも丸分かりだろうな。今の濡れた顔では様になっていないだろうし。


「フッ、そうだな」


現に暖かい目を向けられていた。


...兎も角だ。ちゃんと締まらなかったがこの主命はやり遂げよう。

次男として、家臣として、朝倉家の一員として生き残る為に。





本来なら

加賀の本願寺門徒が朝倉に従わず暴れる

→対策として「天竺に連れていってやろう」と懐柔し、南蛮船に乗せて利益を得る


という奴隷貿易を行う予定だったのですが、書いている内にコレって色々と不味いんじゃないのかな?と感じ修正することにしました。


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宜しければ私のファンタジー作品も宜しくお願いします

受魂の先に~ロメオと裸の紳士
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