第44話 人任せ
遅れてスミマセン。勉強会とその息抜きにファンタジー物を書いていて、朝倉家が疎かになってました。
見逃してください。
まだ数話の投稿ですが、数日は連投の予定です。なので興味のある方は新作の方も見て頂き、評価も貰えると嬉しいです。
クロスワードを作成した翌日。終わりが近付いてきた戦国武将顛末伝の講義前にナンプレについて提案があると鷹瑳が持ち掛けて来た。
「昨日の埋数字と埋言葉でしたな?2つで埋書?なるもの...まぁ兎に角、あの埋数字を領内の寺の者に創らせ、それを我等が買い取るのはどうでしょうか?」
埋数字と埋言葉はナンプレとクロスワードの事だ。
数板や交言葉という直訳も考えたが、どちらも俺の中でシックリ来なかった。なので埋数字・埋言葉と名付けたが、これも前者と比べて幾分マシと言うだけで俺の中ではまだシックリ来ない。
それでも名が無いのは困るので世に出るまでの仮称としている。
その内に父上が良い名を付けてくれるだろう。
「坊主に?」
「左様です。あれは売り物にすることは出来ないでしょう。同じ紙でも数絵札は丈夫な和紙に絵付けを施しております。何度も使えますし、一度買えばそう何度も買う物ではありますまい。それに比べ埋書は一度使えば紙を捨てるのです。買えば誰もが模写するでしょうな。余り益を見込めないでしょう」
「ウムぅ」と鷹瑳の言う事に唸ってしまう。
未来の知識と言う、他人のフンドシで儲けようとする俺が知的財産権を主張するなんて盗人猛々しいモノだが誰も咎める者は居ない。
だがこの時代に俺の主張を聞き入れて、それを保護してくれる機関も存在しない。
「銭が見込めないならば、いっそのこと広めてしまえば良いのです。朝倉がまた新たな物も出したぞと」
「それで何故寺なのだ?家臣やその子でも良いではないか」
思った疑問を鷹瑳にぶつける。それも考えていたらしい。鷹瑳は笑顔を崩さず返す。
「寺だから良いのです。我等は夏に加賀に攻め込みますから」
「つまりは...大人しくさせる餌にすると言うか」
言いたい事が分かってしまった。
坊主がブイブイ言わせてるこの時代、仏教は日常生活にも政治にも強く関わってくる。そうなると携わる人間も多い訳で...
特に加賀には坊主が多い。「百姓の国」的な感じで現代で呼ばれてたけど実際に加賀を支配しているのは坊主だ。
そして彼等と戦う時に一番面倒なのが宗派による連携だ。
加賀のお隣である我が越前にも大人しい一向衆門徒もいる。
そんな状況で加賀の坊主を殺しては、次は自分達も殺されるのではないかと不安に思う者もいるし、同門が殺されるのを黙って見過ごせない!と言って立ち上がる者もいる。
加賀の坊主は毎回それを利用する。戦の度に越前の門徒を煽ることで後方を攪乱し前線を乱す。
鷹瑳はその越前の坊主達に金を撒いて大人しくさせようと言っているのだ。
「坊主達に出来ると思うか。コレには根気がいるぞ」
俺なんて直ぐに根を上げてナンプレからクロスワードに逃げたんだ。
「越前の寺は存じませんが、私の寺の僧侶は存外暇でしたぞ。作務の多くは子坊主がやっておりました。悪い者は箒を一払いすると後は子坊主にさせる者も居りましたからなぁ」
懐かしそうに目を細めながら語る鷹瑳。
「それに暇な者にも色々いて、単純な怠け者と。経も、毎日写本する学問にも飽きて、かと言って悟りを開こうとせずぬらりくらりと過ごす者。ぬらりくらり者は新たな物に飢えて、女人に奔り、生臭へ踏み出すか修行と称して旅に出るのです」
「ほぅ。成程なぁ」
つい間延びな返事をしてしまった。やっぱ坊主も人なんだなと思ったからだ。
「なのでぬらりくらり者には歓迎されると思います。如何でしょうか」
「わかった。では仮に坊主達から出来た埋書を買い取って如何にする?埋書で益を出さなければ我等は損をするだけだぞ」
「そこは六郎様がお考えくださいませ。私では思いつきませんでした」
そこは人任せなのかよ。
だけど確かに良いアイデアだと思う。僧侶ならではの視点で、僧侶を経験した鷹瑳だから思い付いたのだろう。ただ俺も簡単には思いつかないから、俺も人任せにしよう。
「では一応俺も考えておくが、取り敢えずはこの案を報告して後は父上達に任せるとしよう。ちなみにだが、埋書による餌付けはどの時期が良いと思うか?」
「さぁ、それも分かりませぬ。それは軍略に詳しい吉家殿か孝綱殿が考えてくれるのでは?」
これも人任せだ。ただ
「そうよな。俺もわからん」
俺も同じだった。二人して笑いあう。山崎吉家と真田幸綱の活躍については鷹瑳にも話してある。吉家についてはあまり詳しくないが朝倉の将として歴戦としたと言ってある。真田については言わずもがなだ。
戦は戦のプロに大人しく任せよう。




