第43話 フフフー!フフフーン!
タイトルは「有りの侭で」を鼻歌したものです。
1546年 1月
鷹嵯に胸中の不安を告白したあの日の翌日。朝起きて頭が覚醒すると同時に、心臓の鼓動が凄かったのを覚えてる。
秘匿していた知識の事柄を誰かと共有しようにも、今まで誰にも話さずに胸に秘めていたのだ。言っても良かったのだろうか?なんて不安に心臓が一生懸命に応えてくれたらしい。
鷹瑳が真剣な顔で昨夜の続きを強請らなければ「鷹瑳が誰かに秘密をバラすのでは無いか?」という俺の一抹の不安も続いていたかもしれない。
熱くぶつかってきた鷹瑳を疑ってしまった自分を少し情けなく思う。
だがそんな鷹瑳は現在、正直に言って失礼だが、面倒です。
知りたがるのは無理のない事だと分かるが、ここまで知識の欲しがり屋さんを相手にするのに、こうも疲れるものだとは思いもしなかった。
まず鷹瑳に話す内容が多過ぎて俺達二人が携わっている物事が進まない。
それでも鷹瑳は頑なに話を求めたので必然的に鷹瑳の生活リズムに俺も合わせる様になった事と、そのせいで新たな用件が出来てしまったので子供である俺の睡眠時間が減ることになった。
そんなちょっぴりハードになった生活は、漸く三ヶ月経って一端の終わりが見えてきた。それでも戦国の知識全てでは無く、有名武将の今後の活躍と有名な大名家のその後についてだけだ。
一回聞いただけで覚えられる事でもないから、何度か同じ話を繰り返した。
漏洩の危険を考えて紙に纏める事を禁止にしたため、授業内容を全て口頭で覚えるという生徒からすれば憤飯モノだが、俺としては記憶の整理を兼ねて話しているからそこは有難いと思ってる。
頭だけで考えるよりも、口に出しながら考えること方がスッキリするからな。
それでも三ヵ月は長かったが、人の知識の定着はこんなもんだと割り切って続けた。
一度で覚えられる人なんて見たこと聞いたこと無いし歴史上でも類を見ないだろう。それこそ嘘か真か分からないが一度で多くの人の話を聞き、其れを一人一人に丁寧に返したという彼の聖徳太子か曹操に喧嘩を売ってボコられた張松ぐらいじゃないか?
教授内容は戦国の人物についてが中心だったのだが、限られた時間の中で話が脱線しないように常に気を付けていた。こういう時は蘊蓄を語りがちになるのは人の、もとい俺の性だからな。俺は教職者には向いて無いのかもしれないと思った。
問題はまだあった。
思った以上に二人だけで居られる時間は多いが、俺達が長時間に渡って密談することは、父上達も不審に思うだろうし、何の話をしているか聞かれる可能性は大いにあるので、スカウトの選考と新な遊び、そして数絵札の新な遊び方の作成及びルール策定と称して通している。
ただ、遊び方の作成については父上も参加したがっていてルール策定後にテスターとして参加してもらう事を条件に退いて貰った。
父上を退かせるとは言え、嘘を誠にする為に大富豪とババ抜き、ポーカーやブラックジャック等のルール策定に時間を取られた。これでローカルルールも無くなるだろうが、策定書の末尾に「万民が楽しむ為にこの書を強要せず。これは一例である」と注釈を付けた。
前に石転大会を提案した時は、道三との戦中だった為に父上には怒られたが、今後に朝倉家主催の大会を開く時にはこのルールブック(仮)なるものを使って行うようにしよう。
それに新な遊びとしてナンバープレイス、略してナンプレを提案することにした。俺が高校生の時に授業中に黒板を一切見ない程にド嵌まりしていた。その分熱が冷めるのも早かったが。
3マス×3マスの9マスからなる小正方形の9つの集合体。合計81マスの大正方形、そこには1~9までの数字がバラバラに羅列されている。所々が穴空きになっており、縦横と小正方形に同じ数字が被らない様に1~9まで埋めていく。
と言う感じで鷹瑳に説明しても、俺と鷹瑳の二人は朧気な表情だった。ゴメンな。説明が下手くそで。やっぱ教職に向いて無いな。
兎に角実際にやってみようという事で紙に書いてやってみたが無理だった。
「自分で適当に数字を入れていけばいいや。全て埋めたら穴を作ろう。」そう気軽に思いフリーハンドで書いたマス目に数字を入れていくが途中で縦なり横なりに数字が被ってしまう。
やっちまったかー、と思いつつ新な紙にやり直してマス目を挿入し、数字を書いていくが、10回失敗した所で筆を置いた。
舐めてたわ。
自分で作るの無理でーす。
簡単に自作出来ると思ってた。俺自身楽しみながら作ろうとしてたし。
だが実際に残ったのは長時間の頭脳労働による疲労と廃棄されるであろう紙だけだった。
その事で鉛筆と消しゴム、大学ノートが切実に欲しいと思ったさ。
何度もマス目を書くのも面倒だし、一度書いたら消せないというのはヤル気を削ぐのに充分だったよ...
鷹瑳も俺の作成姿を見て、どういうものか理解したのか俺が三枚目に入った所で俺と同じ作業を始めたが、今では隣で難しい顔をしている。
.....クロスワードに切り替えよう。
隣の鷹瑳はまだ考えるのを続けたい様だが俺が限界だ。一度切り替えて「マスを埋める」という点で似ていたクロスワードを思い出し試してみることにする。
ワガママだが鷹瑳にはナンプレ制作を中断して俺に付き合って貰おう。一人で考えるより二人の方が良いというのもある。
俺の説明下手と作業を中断された事によって朧気な顔に不満気な顔が足された表情の鷹瑳だったが、説明後に二人でなんとかして作ったナンプレを見て満足そうな顔に変わった。
表情が良く変わる男だと染々と思う。初めて会った頃には「コレがマジもんの僧侶か...」と畏を感じさせる位に落ち着いた品格があったのに。
それがここ一年は僧侶で在ろうとしていた為に常日頃の感情を抑えていたが、武家社会に帰属した為だろうか?激情である武士と共に生活する中で、抑えていた感情が大きくなって表に滲み出て来たのかもしれない。
最近は顔の表情や雰囲気に出る感じになったな。
感情を無理矢理抑えつけようとせず、有りの侭に感情を出している。武士としても僧侶としても良いか悪いか分からないが誰も何も言わないのでそのままにしている。
俺も分からない事柄に突っ込むことはしないので何も言わないが有りの侭に生きれるのは人として良いことだと思う。
なので放置が正しいはずだ。
ありのままでいいんだよ。多分。
遅れたことをお詫びします。
この話は投稿しておいてナンですが自分で上手く纏まった気がしないので後に大きく推敲するかもしれません。
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