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名族朝倉家に栄光あれ  作者: マーマリアン
良き結末とその覚悟
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第41話 一乗谷で相を叫ぶ



俺がどのくらい悩んでいたのかは分からないが、鷹瑳は先程まで話していた内容について資料に書き加えることを終えたらしい。硯の丘に乗せた筆もとっくに乾いてるみたいだ。


キョロキョロと回りを見渡すと、鷹瑳と目が合う。俺は直ぐ様目を剃らし、何処かを見ている仕草をとる。そんな静まった空間は、時を長く感じさせる。



「六郎様。随分と思案されていたようですが」

不意に沈黙を破り鷹瑳が話かける。

「何やらお悩みのご様子」


キョロキョロと不審な行動している知人に声を掛けるのが人間として適応な行為だろうが、正直言って今はそっとしておいて欲しい。

鷹瑳はそういう雰囲気を感じ取れる人間なのに今は俺に笑顔で話掛けてくる。




「今の六郎様は分かりやすいものです。石鹸作りが上手くいかず材料や油の種類の配合を考えている時や、鶏をお食べになる理由を探している時と同じ顔でした。この様に」

そう言いながら自分のデコを左手の親指と中指で集める様につまみ上げ、出来た窪みを左手の人差し指でなぞっていく。

人為的に、眉間に皺を作りながら話す坊主頭の鷹瑳は、少し可笑しかった。いつもはツルツルなのに今はおデコだけがしわくちゃだ。



笑いを取ってまで、俺の意識を自分に誘導した鷹瑳を俺は見続ける。鷹瑳はいつの間にか真剣な顔だ。



「貴方は多くの事を知っておられる。一回り歳が上の私が知らぬ、それ処か仏門に身を尽くし、生涯に置いて研鑽を辞めぬ老僧でさえ聞いたこと無いであろうことも。それをどの様に使えば良いのかも。...また人に関しても...工藤兄弟を初め真田殿、それと滝川殿も。実際にお会いして彼等の力を垣間見た所、何かしらの才があると分かりました。...そして藤吉郎もそうなのでしょうな。...」



...初めてのスカウトの時と同じ様な雰囲気だが、鷹瑳には激昂する様子は見られない。




「そんな六郎様のせいで、孝景様を狂って、否、狂わされてしまわれた」



「何を言うッ!」

思わず声が出る!これは焦りじゃなくて怒りだ。鷹瑳が危ない事を言ったからじゃない。父上をバカにしたからだ!バカにされた!


憤る俺を前にしても話は止まらない。


「羽毛布団や石転は誰かがいずれは思い付くものだったのでしょう。ですが石鹸や茸の栽培は試行錯誤も無しに製法を知り得る事は神仏の賜物なのでしょうか?(まじな)いとは全くの摩訶不思議...まあ...それは私にも分かりません。...只、それ等が朝倉家に力を与えたことは事実。だが孝景様はそれを得た朝倉家が周囲に狙われることを知った。思っていた以上の力に成ったのでしょう」


「...」


「なればこそ前に出ようと決心なされたのです。周囲に倒されるより一乗谷を。越前を。朝倉を守るために。本来なら美濃の割譲を要求することは無かった。大野郡の力はもっと時間を掛けて削ぐ べきだった」


「だが、その事により朝倉は野心ありと周囲に知らしめた」


........。


「六郎様が狂わせたのです。孝景様の英邁な名主たる道を。貴方が居なければ朝倉家は、越前は何もせずとも安穏でいられた。長夜叉様の世代でもそれは変わらなかったでしょう」




!っそれは違う!朝倉は滅んでしまう!俺の第2の故郷が...一乗谷が燃えてしまう!

兄上は負けて永遠に暗愚の敗者として名を残し、1人の風雲児の、歴史に輝く男の為の雑輩の1人になっちまう!!

だからこのままじゃ






「やはり知っているのですね?先のことを」





鷹瑳の言葉で深い処まで潜っていた意識が甦った。そして固まる。体の骨が動かないように固定されたみたいに。


「その反応から見てもそうなのでしょうなぁ。貴方は多く摩訶不思議を知っているのに、未来のことを知らないとなるのがおかしい」

俺は何も喋れない。喋ろうにも口が動かない。仮に出たとしても吃音になってしまうだろう。



そんな俺に構わず、急に鷹瑳が頭を下げて土下座になる。

「話して貰えないでしょうか?如何なることがあろうとも誰にも漏らしません。父や孝景様に強要されても命を捨ててでも秘します」


.....。


「悩んでも分からず、答えが出ない時は人に話すだけでも何かしら光明が見えるものです。ただ、六郎様が命じれば話終えた後に私を亡き者にしても恨みはしません」



どうか!と言いながら鷹瑳は再度額を床に突ける。勢いがあったのか少し音がした。



.....話すべきなのだろうか?

鷹瑳は腹芸は出来るが、俺に対しては嘘を付いたことは無かった。側近になって数年だが忠実であろうとした。

それにここまで命を懸けようとする者を見たことがない。前世では冗談でそんなこと言う奴も居たがここまで()べて(かつ)、迫力を持った奴は見たことはない。



俺には本当にどうすればいいのか分からん。

吉姫の御付きを排除した時も不安しか無く、どうすればいいのか全く分からなかった。あれは戦国時代を生き抜いている父上や鷹瑳達と協議して行った物だ。俺は添え物だった。


俺個人ではまだ策略を主導出来ない。決意はしても能力がまだ足りて無いのが分かる。決意はしても実際にはビビって決意がぶれそうになる時もある。

父上はそんな俺にこそ才能あると言ってくれたが、アレは気休めだろう。もし仮にあったとしてもまだ経験が足りない。

それに指導を受けたわけでも無い。出来る訳がない。




だが、なぁ。仮に話すとしても何処から何処まで話して良いものなのか?



などとウンウン悩んでいるときに、ふと頭が働いて居ることに気付く。固まっていた体の各部も普段通りになっている。



いつの間にか落ち着いたな。そう考えると鷹瑳のお陰だ。少し気が楽になった。



多分俺は仲間が欲しかったのかもしれない。

決めた。




「何故知っているかは言えん」

言ってしまった。




「端的に言えば一乗谷が燃える。未来で一乗谷は燃え、乱取りを受けて何もかもが奪われていく。北の京と呼ばれるが略奪され、荒廃する処まで今の京と同じになる。だいたい30年後だ」

もう言ってしまった。



俺も一族として逃げない。逃げられない。

鷹瑳はいつの間にか顔を上げ、俺の話を聞いている。


「燃える未来では兄上は暗愚と馬鹿にされ、朝倉は地に落ちる。誰が助かったかは知らない。皆死んだかもしれん。あぁ、景鏡は裏切って生き残ってたな。後に加賀の一揆が越前に来て、殺されたが」

鷹瑳の顔は...歪んでいるな。そんなの認めなくないだろう。



「それを変える為に他国で名を上げる筈の工藤や真田を連れて来た。藤吉郎と一益は本来なら一乗谷を燃やす奴等よ。だから先に朝倉に来て貰った。敵となる者を味方にしたのだ。良い手だろう」


俺はちょっと笑ってる。顔は歪んでる筈なのに喋る度に口角が上がってるのがわかる。

苦笑なんてしたくないのに。...だから苦い笑いなのか。



「ただな、俺が怖いのは六角や浅井の周辺諸国よ。...信じられぬかもしれないが我等を滅ぼした奴は六角も浅井も今川も、三好も武田も将軍家も全て敵に回して勝つ。...そんな強者も今はまだ弱い。なれど10年程で強く台頭してくるだろう。だから、その強者に勝つために色んなことをした。する予定だった。だがそのせいでお主の言う通り六角定頼は特に警戒してるだろう。蝮も何かしらやるだろうよ。歴史が変わったから奴等の動きは分からん。未来はもう見えん。...だから怖いんだよ。

俺は強くない。...

アイツ等が死ぬのが5年10年程だろうが最低でも5年は怯えないといけないんだ。それに強者も今後台頭してくる。そんなのに俺は勝てるのか?只でさえ強者に負けた奴等が怖いんだ」



少し前世での喋りが出てきてしまった。

喋り出すと止まらなかった。先程まで鷹瑳のお陰で冷静になれたのに、今度は熱くなって頭がおかしくなりそうだ。


特に道三が怖い。俺は未来を知っていたからそれ等の知識を使って朝倉の繁栄に力を貸すことができた。しかし道三は当然だが俺とは違い、先の事を知らないのに自分の不利な状況から有利な状況に持っていった。

そんな奴が敵なのだ。一国を手に入れた実績もある。世話になった人物も手に掛ける。謀略者と呼ばれても糾弾されても尚、生き延びてきた。そんな、そんな奴と敵対することを考えるだけで震えが止まらなくなる。


漫画や小説で巨大な敵の恐ろしさに震える場面を見る度に、何て陳腐で、ありきたりな表現なんだろうと鼻で笑っていたが、今の俺には笑えない。



「以上だ。何かあるか?」

投げ遣りに言うが気にしない。



鷹瑳は何も言わない。ただ歪んだ顔に涙が流れる。そんな顔のまま意を決した様に再び土下座してきた。



「六郎様と我等は、もう逃げられません。孝景様を初め、我等を迷わせたのは六郎様です。()れど道を示せる者も六郎様をおいて他におりませぬ」



「貴方様が悩んでいたのは余程の事でしょう。だが主が困っている時は右腕が支えるものです。貴方の右腕は頼り無いでしょうがあの時よりは動きます」

鷹瑳は震えながら頭を地面に擦り付けてそのまま続ける。

「お願いします!お救い下さい!我等の、私達の故郷を護って下さいましッ!」



「...信じるのか?今の話を?」



「無論ッ!神仏を敬う私ですが、孝景様より六郎様を仏の如く信じております!...否!仏と同じなのです!初めは武辺働きの出来ない私を使ってくれることに感謝し、今では私の大切な故郷と家族に豊穣を授けてくれました!(まさ)しく神仏と思ったものです。感謝以上に、敬愛をもっております!逃げられぬと言ったでしょう!嫌でしょうが六郎様は私から逃げられませんし、私も六郎様から逃げません!」


「だから信じます!朝倉を、皆が愛した一乗谷を守るために!」


「やるのです!生き残る為に!過程は灰に!全てを結果の為に汚しましょうぞ!」



鷹瑳に火が付いてしまったな。消える事のない火だ。

性格は似てないが熱くなった時は景紀殿にソックリな処もあるじゃないか。



そう言えば前に父上と二人だけで話した時、燃え尽きてもいいと思ってたじゃないか...あの時の決意は嘘じゃないだろう!?

あの時の景色を思い出せ!



そうやって自分を奮い起たせる。心と体が熱くなる!

だから言おう!



「相わかった!鷹瑳!」






突然ですが、暫く今まで投稿した物を含めて修正に力をいれたいと思います。

次話は修正され次第に投稿していきます。そのため今後は不定期になりますが御容赦下さい。

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