第33話 お金の力には敵わなかったよ...by一益
1545年 6月
今日は待ちに待った滝川一益との面通しだ。
本当に待ったよ。手紙で書くネタもそろそろ尽きて来る頃だったからさ。
最近は手紙の内容に頭を振り絞ったり、自発性にネタ集めを行うなど話題が品薄だった。
一益との手紙のやり取りが終わる事に少しばかり傷心したけど、同時に自分の教養が足りなさも感じたよ。
勉強が疎かになっている事も関係しているだろう。
実務も確かに大事だか座学だって必要だ。越前朝倉家宗家の者が無教養何て広まったら父上と母上が悲しむな。イヤ、鷹瑳や孫三郎も悔しくなるだろうし、俺が推薦した工藤兄弟と孝綱だって落胆するだろう。
藤吉郎?主君が同レベルで嬉しいんじゃないかな?
そうならない為にも今俺が関わっている事業を他の人に渡して、自分の勉強時間を作るべきだわ。
そのために誰か普代の者で俺の補佐役を1、2人増やして欲しい。
それとも孫四郎と藤吉郎が大きくなるのを待つしか無いかな?
人材について考えていると部屋の外から―鷹瑳の足音がする。元が坊主だからか歩き方が武士と少しだけ違いがあるみたいで、足音が館にいる者達の中では独特だから何となく分かるんだ。
実際に襖の向こうから鷹瑳が声を掛けてくる。面通しの準備が出来たらしいので呼び出しに来たようだ。ともかく一益に会いに行こう。
鷹瑳と三の丸まで降りて行き、案内された部屋に向かう。
そこには胡座をかきながらも、背筋の姿勢をキレイに維持する体の大きな男がいた。困り顔かつタレ目であるので温和な感じに見える。
一応俺が子供だと言うことは伝えてあるが、それでも目を見開いたようだった。まぁ通達されて知っていても驚くのはわかる。俺も逆の立場だったら信じて無かっただろうし。
俺は部屋に入るなり
「初めましてかな?滝川殿。お待ちしておりましたぞ」
とやや礼を欠いた挨拶。だが敢えてフレンドリーにしたつもりなんだ、一益にも気付いて欲しい。鷹瑳は睨まないで。手紙でのやり取りから、この位に砕けた感じの方が良いと思ったんだよ。
「そう言ってくれると有難いです。改めまして滝川彦右衛門一益です」
と、頭を下げるというよりは微笑む感じで返事をしてくれた。どうやら気付いて貰えたらしい。だからな!鷹瑳は睨むなって!合わせてくれた一益が困ってるだろう。
「コレ、鷹瑳よ。そう睨むな。悪いのは俺だろう」
「その通りです。失礼ながら六郎様が悪いのです。滝川殿はかなりの時間を御待ちになられた。そんな彼にその様な態度は無いでしょう」
おっ!
なんだかんだ俺を諌めるにも軽口を入れてくれた。解っているじゃないか。コレは久し振りに生臭坊主が帰ってきたな!
「済まないな彦右衛門殿。つい嬉しくて先走り過ぎたようだ。本当に済まない」
そう言って神妙な表情をしながら頭を下げる。
「いやいや、その様な!」
慌てているな。一益。
手紙を何度も貰ったから気付いたよ。君は手紙にキレイに折り目を付けてから手紙に文を書いてると。その為、行間隔がとてもキレイで読みやすかった。母上が気遣いが出来ると評価していたのも頷けた。
ゴメンね、そんな手間暇かけて送ってくれたにも関わらず手紙のやり取りを面倒だと思っちゃって。
とにかく一益は相手に気遣いが出来るのか、几帳面かどちらかだ。最初の挨拶の返事を見る限り前者の方だと思ったよ。
そんな一益は元の主家である六角家と同等に近い家の、位が高い人に頭を下げられている。頭が混乱してくれればコッチのもんだ。そして、父上の熱い言葉擬きで包んでいけば朝倉家にメロメロだろう。
だが
「...頭をお挙げ下され、六郎殿。嬉しいのは私もです。かれこれ二年近く名も無い私と文のやり取りを行ってくれたばかりか、このように頭を下げてくださる。この滝川一益、感服致しました。士は己を知る者の為に死すと言う様に、六郎様には私の事を多く知って頂きました。どうか配下に加えて頂けないでしょうか?」
すげぇ!
少し間を開けて意を決した表情となる。
そして混乱する処か流れるように故事を加えて返して来る。あんな長句をスラスラだ。そして喋ってる最中に場の空気から感触が良いと感じたのだろう。仕官の儀もちゃっかり入れてきた。
有名な言葉だけど咄嗟に出て上手く返すなんてそうそう出来ないよな!
思っていた以上に優秀だ。流石織田家の遊撃隊。臨機応変に持ってくね。史実と同じ位活躍してくれようだ。
それに嬉しいこと言ってくれるな。
なら俺も応えよう。
「相わかった一益!其ほど言ってくれるなら俺に命を預けてくれ!土地は今は無理だ!その代わりに支度金に100貫と俸禄として毎年50貫出そう!」
そう言うと一益はピクリとする。額に不満....というわけじゃなさそうだ。
「...真で御座いますか?其ほどまで頂けるのですか?」
ちょっとビビった。足りないと思われたのかと思ったよ。鷹瑳とも話したし、俺もこの時代の経済感覚は鍛えているつもりだった。それを踏まえて実績の無い一浪人に過剰な棒禄を出したツモリだ。
「一益は能力はあるのだろう。俺は其れを知っているし、また買っている。本当は50貫以上の価値はあると思っている。だが新参者だ。今はこれ以上はやれん。だからな、力を見せよ!一益!朝倉の為に為れ!成れば道は開かれん!お前が大功を得るのを楽しみにしてるぞ!」
フゥと小さく一益の目を見て息を吐く。
人思いに喋ったな。体が熱い。一益も心なしか目が赤い。俺も父上に多少は近付けたのかな?まだだろうな。
その後、「辞令を後で届ける。暫しその部屋で待て」
と言い残し鷹瑳と共に出ていった。目が赤いのなら少しの間は一人にした方が良いだろう。




