第29話 美濃侵攻中の決意
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1544年 10月
いよいよ侵攻が開始されたらしい。城の中は皆が剣呑だ。父上でさえも多少ピリピリしている。
そんな空気に耐えられなかった俺が父上に「気分転換を兼ねて石転大会を開きましょう」提案したのだがこっぴどく怒られた。
「戦場に向かった者が居るのに遊び惚けるのは何事ぞ!武士の気構えを忘れたか!!」
あの時は怖かった。俺も涙目になったよ。
そんな俺を見て「御主が4歳だと言うことを忘れておったわ」
と怒気が抜けて父上が苦笑いを浮かべていた。
頭をポンポンされながら「皆が帰ってきてからやろう」と慰められた。涙目と言ったが実際は泣いていたのかもしれない。
美濃に侵攻する為の軍を見送った日から、大量の護衛を連れるという母上の条件の元、城下に自由に出ることを許されている。
ただ今は、冬が近く寒さもあってもっぱら館の中で過ごしているが。出歩ける様になったのは確かに嬉しいけど、だからと行って寒い中を出歩くのは好きじゃない。兄上や孫三郎は元気良く野駆
を行っているけど俺は読書に精を出している。
まぁそんな読書漬けが続くと気分転換がしたくなるんだが、館の外まで出るのは億劫だ。なので最近は館の一番高い所から一乗谷を見渡すことが多くなった。
館の一番高い所は見張り台を兼ねているので、寒さは外と変わらない。けれども足繁く通ってしまうのは何故だろうか?
そんなある日に俺が何時もの様に一乗谷を眺めていると父上がやって来た。
「六郎よ、お主も居たか」
そう言いながら梯子を登ってくる。
「父上も何故ここに?」
「なに、儂もこの景色が好きなのだ。無論、景観も良いがな」
何が言いたいのだ?景色と景観は同じだろう?
父上は無自覚か?と呟いて諭すような顔になる。
「単純な事だ。お主も一乗谷を好きなのよ。沢山越前の為に働いた。その働きがどんなに返ってくるかここから見れば分かるからだ」
...そう言うことか。
そして父上は険しくなり
「だから六郎。心せよ。為政者は景色を見るだけに徹しろ。上が景観に重きを置いては国は傾く。見栄えは趣味とせよ」
いつもなら大声に成りそうなセリフだが今日は違う。だが、何故か心に響く。
「だがまぁ、我が一乗谷も一族が幾何百年と心血を注いだお陰で見栄えも良いがな!」
ハッハッハと大声で笑う父上。
その笑顔は大名として、何百年も続いた越前朝倉家当主として、二児の子を持つ父親の全てが詰まった笑顔だった。
「分かったら今は両方楽しもうぞ!」
と言いながら父上と一緒に話し込んで行く。あそこの公家屋敷には可愛い猫がいるとか、あそこの染屋で羽毛布団を量産しているとか。
どうでもいい世間話から仕事に関わる話を交わしていく。俺が遠くを見たいときは持ち上げて見せてくれる。
とても楽しかった。
こういう事なら外に出たのも悪くは無いと思える程に。
そんな時間も昼になった所で父上が打ち切った。お昼の政務の時間だ。
「また今度話そう。今度は長夜叉も、徳も一緒にな」
ハイっ!と俺は抑揚に頷く。
「それとな、家臣と共に見るのも良いぞ。違う楽しさもある。鷹瑳を誘ってやれ」
そう言って父上は降りていった。下では父の従兄弟である景連叔父上がニコニコして待ち受けている。心なしか優しい顔が更に優しくなっていた。
景連叔父上も違う楽しさを知っているのかもしれない。
落ち着いて、改めて景色をみる。
公家が寒空の下で御座を敷き、楽しく石転で盛り上がってる。
夏には水で溢れる田んぼで子供らが走る。
宿場では年若い女性が元気よく呼び込みをしている。そこにデレデレした行商が引っ掛かる。
その行商の背には朝倉印の数絵札や石鹸が大量に載せられている。
あぁ。これが好きなんだなぁ俺は。
絶対に守ろう。この景色を。
そして出来ることなら広めてやりたい。その為に歴史を変えて勝ち残ろう。戦う相手に容赦はしない。一向衆だろうが道三だろうが信長だろうが食ってやる。
長生きどうのこうの言ってる場合じゃないな。
命を燃やそう。無論、無闇に死ぬつもりはない。だが寿命が縮んでも楽しかったら・嬉しかったらそれでいいじゃないか。
そう決意して梯子を降りていった。
ちょっとしたほのぼの的なやつでした。




